灰として散り逝く者
「き、貴様」
ロウコムが呟いた途端、ロウコムめがけてモエが急速に落下してきた。
「残りの力使って、お前を連れてこの大地の奥深くで燃え尽きたるわ」
「なにぃ!」
「お前と心中じゃ!」
モエが叫んだその時、七色の光がモエを捕らえた。
驚くモエ。
モエの落下速度に勢いがなくなり、ただ翼の折れた鳥の様に力なく落下してきたモエは大地に叩きつけられた。
傷だらけになった体に光を浴びながらモエは這い蹲り、力を振り絞って顔を上げると、そこにはモエを見下ろすロウコムの顔と、その周囲にいた兵士たちが背負っているものから注ぐ眩しい光だけであった。
「フフフ、フゴ・カイシンは人が背負える大きさの物も開発していたんだよ。ま、小型化に伴い燃料の問題があったのだが、お前らのいたセンタオブジアから燃える石を入手したことで解決したのだよ。まぁ、少し暑いがな」
「くそがぁ……準備万端やったわけかい」
兵士たちが陣形を崩さないようにモエを取り囲み、七色の魔消線の光を照射し続けた。
「やばいよ。このままじゃモエがやられちまう」
丘の上から状況を見ていたルイがスピアを構えて身を乗り出したが、ボウスが押しとどめた。
「ルイ、堪えろ! 今俺たちが出て行っても何も出来んぞ」
「見殺しにしろって言うのかよ!」
叫ぶルイを苛立たしそうにリモンが睨みつけた。
「あんたがここで出て行ったら奴らに袋叩きにあって、下手したら国家反逆罪で殺されるわよ。モエがそんな結末を望んでいると思っているの?」
「じゃぁ、どうしろって言うんだよ?」
「エンヴィオと戦えばこうなるって事を、モエがわたしたちに見せているのよ。それに、今から助けに行ってももう彼女の命は風前の灯よ」
「そ、そんな」
「あれは彼女が選んだ道。手出しは無用よ」
「ふ、ふざけんなぁ!」
リモンの言葉に耐えられず、ルイがボウスを振り払って丘を駆け下りようとした。
「……しょうがないわね」
リモンが杖をふるってルイの動きを魔法で封じた。
「な、なんだこれ? おい、おーいぃ!」
ルイは体が動かなくなり必死に暴れて叫んだが、リモンの魔法は解けなかった。
「終わりだな」
ロウコムが力を失っていくモエを見ながら呟いた。
「終わらへんよ」
もはや喋ることもできないくらい力を失っていたと思われたモエがゆっくりと顔を上げてロウコムの顔を見た。
「まだ何か手があるとでも言うのか? ん?」
「ウチは、音楽の中に生きている」
「……なに?」
「あの曲が、ウチが歌ったあの曲が演奏されるたびに、ウチはその曲の中で蘇るんや」
「馬鹿な事を」
もはや息絶え絶えのモエが最後に負け惜しみで盲言を吐いているとしか思えずロウコムは失笑を浮かべた。しかしそのロウコムの顔をしっかりとモエは睨みながら精一杯の笑顔を見せた。
「音楽は死なへん。音楽は不滅や。いつかまたお前の耳にあの曲が流れる時が来るで。ふふ、覚えとき。ロ・ウ・コ・ム」
「な、なぜ俺の名を!」
ロウコムの背筋に何かが伝って落ちるような違和感が走った。
どこで自分の名前を聞いたのか? いや、それよりも、もはや死の間際にありながら、ここまでのハッタリをかますことがなぜできるのか? いや、ハッタリでないからここまで言い切れるのだろうか? しかし、もはや存在自体が消滅しようとしており、後に残るものはないのだから、やはりこれはハッタリなのだ、という結論に至るまでが一瞬の時間であったが、ロウコムにとってはものすごく長い時間が流れていたような気がしていた。
「また会おうや……」
そう言ったモエの身体は力を失い、灰の様になって風に流されて散って行った。
白い灰の様なモエの残骸は、綿毛のように空に舞いながら青い空の色に沈むように消えていった。
「モエェ!」
ルイがモエの名を叫んだが、その声はもはやモエにも届くことなく、テイたちの胸に重くのしかかるだけであった。
モエが消滅し、意気消沈したままテイたちが宿屋で時を過ごして、一か月ほどが過ぎようとしていた。
ボウスが新聞の号外を持ってきて、ラウンジのテーブルでお茶を飲んでいたテイの前に置いた。
テイは号外を覗き込むように読んだ。
「全土に非常時戒厳令が発令。本格的に魔族の掃討戦が始まるとのこと……戦闘に対してセントガルドに兵力が集められ、魔族と全面戦争になるらしいよ」
「モエを倒したことが大きな弾みになったみたいだなぁ」
「なにせかつて魔王と戦って国土の半分を焼き尽くしたといわれた邪神だったんだもんなぁ」
「確かに。魔力を消し去る力を手にして、パワーバランスが崩れた今こそ魔族掃討のチャンスだよな」
「俺たちのこれからの身の振り方、考えなきゃならんな」
「話し合うか、みんなで。ルイ、まだ籠ったままか」
「うん。でも、そろそろ話さないとね」
「わかった。俺が話してくる。リモンさんとレピスさんにも声掛けよう」
「俺が呼んでくるよ。今日は演説聞きに行ってくるって言ってたから」
「ああ……ロウコムの『邪神討伐の経過とこれからの科学が開く人類の新しい歴史』とかいうやつか」
「途中まで迎えに行ってみるよ」
「頼んだ」
テイはマントを羽織ると宿屋の玄関を出ていった。




