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湖岸の街と大蛇の投書

イントロ

復活した魔王を封じる為に伝説の三賢者の末裔テイ、ルイ、ボウスは稀代の魔法使いリモンと自称魔法使いレピスとともに魔王討伐の旅を続けていた。(もう一人いたか)

彼らはセントガルドから南方にある湖岸端にある小さな城下町スワンハイシャトウの街に滞在していた。(これまでの過程は魔王討伐の三賢者~今日は寝るけど明日から本気出す、を読んでみて下さい。http://ncode.syosetu.com/n9135bt/)



 テイ、ルイ、ボウスは宿屋の一室にいた。

 窓を開け、そこから流れてくる心地良い風に吹かれながら、テイとボウスはお茶を飲みつつ本を読んでいた。

「なあ」

 ボウスがテイに声をかけた。

「なに?」

「俺たち、少し太ったんじゃないか?」

 ボウスは自分の腹をさすって肉のつき具合を確認した。

 ボウスは基本的には骨太の筋肉質であるが、最近筋肉の上の贅肉が更に恰幅をよくさせている気がしていた。

「最近体動かしていないからな。筋トレでもする?」

 テイが癖のある茶色の髪に手を伸ばし、頭を掻きながら答えた。

「なんかこの部屋でやるのもなんだし、ジム行かない?」

「ジム?」

「すっげー筋トレの器具があってさ、設備的には城の訓練場にあるのと同じくらいいいらしいぜ」

「金取るんだろう?」

 テイは本を閉じるとだるそうに起き上がった。

「あ、まあな」

「じゃあ、お城の訓練場行けばタダじゃん。俺たちパス持ってるんだし」

「そっか。ついでに何か厨房で食料もらってこようぜ」

「だね。ルイは一緒に行かないか?」

 テイは部屋の中央にあるテーブルの上でハンドルのついた小さな箱をいじくっているルイに声をかけた。

「俺は筋トレとかパスだわ。今はこれに夢中だし」

 最近少し伸びすぎた銀色の髪を後ろに束ねたルイがハンドルを回すと、箱の上から出ていた二本の線から青白い火花が散っていた。

「なにその箱」

「あれだよ、ハンドル回すと雷ピキピキって奴だろ」

 テイの質問に答えないルイに代わって、ボウスが無精ひげをなでながら答えた。

「そうだよ。手で回すと魔法使わなくても小さな雷出るんだぜ、スゲーだろ?」

「そんな小さな雷なんの役にもたたないじゃん」

 自慢げなルイのコメントに対して、テイは全く関心がないように答えた。

「馬鹿、ある科学者がさぁ、今これのすげえでっかい奴作る計画できているんだぜ。そうしたらすごい雷バンバン出るぜ」

「そうなれば確かに雷の利用方法も出来てくるかもなぁ」

 ボウスも言葉とは裏腹に全く感心がないような口調で答えた。

「でもさぁ」

「なんだよ」

「大きいの作って、そのハンドル誰が回すんだよ」

 テイの素朴な質問にルイが難しい顔になって箱を見つめた。

「う、うーん」

「巨人でも雇うしかないか?」

「だからぁ! そのハンドルを楽して回す方法考えてるんじゃん。うまく行けば俺、大金持ちかも」

「あ、水車に回してもらえば?」

「水車小屋でしか使えないじゃんかよ。俺のエストガルドの部屋、川から遠いし」

「お前の部屋で使う話かよ。じゃあ、風車どうだ、風車。くるくる回るじゃん」

「ああ? エストガルドはてめぇの出身地のド田舎隠れ里と違ってそんなに風吹かねえんだよ! それともなにか? 一日中俺が吹き続けるのかよ! ふざけてんじゃねえぞ」

「お前もそのド田舎隠れ里の出身だろが! もっと勢いよく吹いてもらうもの探せよ」

 あまりにもくだらない田舎者同士の争いにテイが苦笑いしながらボウスを促して部屋の外に出した。

「まあ、まあ、ボウスそろそろ行こうよ。ルイ、じゃ、がんばれよ」

 部屋に一人になったルイは鬱憤を晴らすようにテーブルの足を蹴った。

「クソ、凡人どもがぁ。あー、行き詰った。お茶でも入れて気分転換するか」

 ルイは階下の厨房からお湯を分けてもらう為に部屋から出て行った。


 城で筋トレを少ししてから厨房で食料をこっそり拝借したテイとボウスは早速せしめた焼き菓子を食べながら城門をくぐって街へ戻ってきた。

「テイ、聞いてたか?」

「え? もしかして厨房のばっちゃんたちの話?」。

「やっぱ聞いていたか。あれマジかな? 邪竜エグスドゥスが現れて旅人を襲うって話」

「マジでそんなんいたらやばくないか?」

 テイの言葉にボウスは頷きつつ、また一つ焼き菓子を食べ始めた。

「あ、俺さっき城の目安箱集計所で聞いてきたらさ、街のアンケートでも1位がこの邪竜をなんとかしてくれって奴らしいぜ」

「城の兵士は行かないのかな?」

「城下町の外の事は基本手出さないからな。つうかさ、司祭様から依頼きてたんだよ。この件」

「え? 聞いてないよ」

 三賢者の下には魔王討伐の仕事以外にも、城から度々仕事の要請が来ていた。またそれをこなすことで追加に給金が支給されていたが、基本的に十分な給金が毎月支給されていたので、彼らは仕事を選んでいたのである。

「いやさ、ルイがさ、いいんじゃねえかって言う事で様子見にしていたんだよ」

「まったく、ルイの奴最近あの雷箱に夢中だからなぁ」

「だな。そろそろなんかしないと最近ずっとなんにもしていないから宿屋の女将の視線が冷たい気がするんだよなぁ」

「じゃあ、信頼回復のためにもやりますか?」

 テイがボウスとともに天を仰いでため息をついた。

「そうだな。レピスさんとリモンさんは?」

「今日も図書館だと思う。呼んで来るよ」

 テイはそう言って手を振って、辻でボウスと反対方向に分かれて行った。

「宿屋で待ってるわ」

 ボウスも手を振って宿屋の方向へと歩いて行った。


 王立図書館は、街の北西にある聖堂へと続く道すがらにあるゴシック調の建物で、かつての宮殿を改装して利用されていた。

 その建物の中、人が滅多に立ち入らない書庫の奥に二人の女性が本を床に広げて読んでいた。

「ねえ」

 金髪の髪を左右に縛った少女が、年の頃は十代後半の眼の大きな赤髪の女性に話しかけた。

「なに?」

 赤髪の女性、レピスは、本から目を話さないまま金髪の少女リモンに答えた。

「何回目?」

「全部読んだのは五十回目くらいかな。新しい書籍もあまりないわね」

「科学関係の書籍増えたわね」

「そうね。わたしは科学関係はあまりよくわからないけど」

「暇よね……そろそろここも飽きてきたわ」

 リモンがそう言って本を閉じた時だった。

 書庫のドアがいて誰かが入ってきた。

「レピスさん、リモンさん」

 声のする方に素早く反応したレピスが目を輝かせて本を後ろに放り投げた。

「テイ君! どうしたのこんなところに」

 そう言いながらレピスはニコニコ顔でテイの方へ歩いて行った。

「ちょっと、この本、貴重なものなのに放り投げないでよ」

 リモンの言葉などレピスの耳には届いていないようであった。

「レピスさん、迎えに来ました」

「わ、わたしを、迎えに?」

「はい!」

「はいじゃないわよ」

 キラキラした眼差しで見詰め合う二人であったが、その間にいつの間にかリモンが割り込んでいた。

「う、うわ! 急に入ってこないでくださいよ、リモンさん」

「うるさいわね。で、なに用よ?」

 テイは二人に仕事の依頼が入った事を説明し始めた。

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