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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
白天と草狼
8/28

2-3

 絶命し、息絶えた蒼き剣士からゆっくりと腕を引き抜くリーヴァンス。

 そのリーヴァンスを突然に黒き直線が襲った。

 四天が一人、黒き剣士の目にも止まらない動きから繰り出された一閃が、筋肉の鎧によって固められたリーヴァンスの肩口をスッパリと斬る。

 知覚するよりも早くに動いたリーヴァンスの肉体が間一髪回避行動をとった為、首を両断される事は無かったが、しかし遅れて血飛沫を上げたその肩口は決して軽視出来るような傷では無かった。

 そのリーヴァンスを、更なる黒き線が襲う。

 先程描いた軌跡とは全く別方向からの一線。確実に首だけを狙ってきたその攻撃を、リーヴァンスは間一髪に躱す事に成功する。しかし瞬時に斬り返されてきた一線は、再びリーヴァンスの首を正確に狙い向かってきた。たまらずリーヴァンスはその剣を掴んでその威力を殺そうとする。それすら驚愕に値するものだったが一閃はそれほど甘い攻撃ではなく、止めようとするリーヴァンスの手に捕まれた瞬間、そこから突然として消え去る様に更なる加速をし、それから逃れていく。その軌跡がリーヴァンスの瞳に黒い線として刻み込まれる。

 そして次に襲ってきた危機の源は、下方からほぼ垂直に跳ね上がってきた。

 一瞬、リーヴァンスは歯で受け止めようかとも考えたが、しかしそれが黒き線と比べると遙かに遅い攻撃だった事に気付き、咄嗟にリーヴァンスは身を後ろに反らせる。

 その剣は、白き剣士が操る大剣だった。

 それを確認した瞬間、リーヴァンスは素早く大地を殴り、その力で跳躍し剣を追う。飛翔し、そして放った拳撃が剣に命中する。殴られ、その所有者の意志を無視して急加速を開始した先にいるのは、白き剣士。

 対応に遅れ、まさにその剣が白き剣士の頭部に突き入ろうとした瞬間。

 剣は黒き線の一撃をその身に受け、破壊された。

 しかし、その安堵も一瞬。

 次の瞬間には、白き剣士は首からスッパリと斬られ、その頭部を地面へと落としていった。


「俺のスピードについて来れない遅き者は四天には必要ない。御前もだ」


 一瞬のみその姿を緑の剣士の目の前に表した黒き剣士は、次の瞬間再び黒き線となる。

 その速度についていけなかった緑の剣士は、為す術もなくその命を散らしていった。


「面白れぇ。俺とどっちが速いか、競争しようぜ黒いおっさん」


「俺はまだ24だ」


 一瞬立ち止まり、リーヴァンスの言葉に突っ込みを入れた後、再び黒き剣士は目にも止まらない速度で戦場の黒き線と変わる。

 その黒線上にいた兵士は次々とその首を斬られ、死に耐えていく。

 その黒線を追って、リーヴァンスも加速を開始した。

 驚異的な瞬発力によって生まれた衝撃を受け止めた大地は、その衝撃に耐えきれずに土と血と水と死体を上空へと弾き飛ばす。その対衝撃により急加速したリーヴァンス。一陣の風となり、戦場を疾走する。その進路上にいた障害を次々と一撃で屠り去り、目にも止まらぬ速度で黒線を追う。一歩一歩により踏みしめられる大地には足跡が生まれ、それを受け止める事になった元は命を持った人であった死体は潰され口や傷口から血や内臓を迸らせる。その瞬間に失われた速度を取り戻すために、再度リーヴァンスが強く大地を蹴る度に、大地が悲鳴を上げていた。

 対して、音もなく黒線となり疾風する黒き剣士に足跡というものは生まれていなかった。ただ、そこに一陣の黒き線が走り、戦場をめまぐるしいスピードで疾走する。運悪くその軌道上に自らの身体をおいていたものは、その黒線が通り過ぎると同時に首から上と下とを分けられる。

 その死体は、次の瞬間には黒線を追って走るリーヴァンスの障害となるため、容赦なくリーヴァンスによって破壊されていった。

 戦場を駆けるコーセティアークの草原の狼ブロラルドの横を通り過ぎ、味方の兵士までも巻き込んで疾走する黒き剣士に、一瞬だがブロラルドが何かを言おうとして口を開く。

 しかし言葉にしようとした時には既に黒き剣士の存在は遙か彼方へとあるので、結局その言葉は呑み込まざるを得なかった。


「全軍、一時後退しろ! 四天レイダーの道をあけろ!」


 そして代わりに敵味方容赦なく障害となる者全てを斬り殺していく黒き剣士レイダーの犠牲者を少しでも少なくする為に、味方へ向かってブロラルドはそう叫んだ。


「御前、五月蠅いよ。死にな」


「何!?」


 瞬間、黒線より遅れてやってきたリーヴァンスが馬上のブロラルド目掛けて飛翔脚を放つ。

 しかし間一髪その攻撃に気付き、ブロラルドはリーヴァンスの脚撃を回避する事に成功した。だがそれだけでは終わらず、ブロラルドはすぐさまランスを翻しリーヴァンスの胴へと薙ぎ放つ。

 そのあまりの対応の早さに、さしものリーヴァンスも回避が間に合わなかった様で、飛翔脚を放った体勢のままその攻撃をまともに受けてしまう。しかし胴へとと食い込んだランスをリーヴァンスはすぐに掴み、そのまま吹き飛ばされないようにしがみつく。


「やるな、じじい」


「誰がじじいだ、礼儀も知らぬ若造が。貴様、いったい何をしに我等の戦場へと足を踏み入れた」


「決まってるだろ。闘う為にだよ」


「馬鹿な。たった一人でこの戦場にいる1万近くもの訓練された兵士達を相手にしようというのか。無謀の極みだな。とはいえ、我が軍の特殊練兵である四天を相手に三人も退けた事は賞賛するに値しよう。どうだ、欠員の出た四天の一人として、我が片腕となり働いてみる気は無いか?」


 衝撃。

 ブロラルドは言い終える前から感じていたリーヴァンスの闘気に、瞬時に左腕で眼前をガードした。だが、予想を遙かに上回るリーヴァンスのランス上からの脚撃に耐えきれず、馬上のバランスを完全に失ってしまう。しかし瞬時にランスを振るい地にぶち当て、崩れる身体のバランスを何とか取り戻す。

 その振るわれ大地に叩き付けられたランスに、リーヴァンスの身も強く大地へと叩き付けられていた。自らの身体ごと物凄い勢いで叩き付けられたその衝撃に、リーヴァンスは一瞬何が起こったのか見失ってしまう。そして瞬時に構えへと戻されたランスから振りほどかれた時、自分が大地に眠っている事をリーヴァンスはようやく理解した。


「俺を四天如きと一緒にするなよ。我が国では力こそが全てなのだ。力が無くても世渡りの術さえあれば将軍でも大臣でもなれるウォシュトールや他の国とは違う。覚悟するがいい、若造」


 リーヴァンスの周りを馬で回り始めるブロラルド。

 最初はゆっくりと歩く速度だったが、しかし徐々にその速度は増していく。ブロラルドが愛馬に命令を出している素振りはない。馬が主人の気質を読み、自らそう動いている様だった。長年、共に闘ってきた関係だからこそ出来る芸当なのだろう。

 血に濡れた大地をグチャグチャという音に混じって蹄の音が鳴り響く。そのリズムは一定ではなく、ゆっくりと速くなり、同時にリーヴァンスの周りを回るブロラルドの速度も上がっていった。

 その様子を、頭に着いた血に湿った土をボロボロと落としながら起きあがったリーヴァンスの瞳が映す。


「やっぱり、来て良かっ……」


 先制は、リーヴァンスが言葉を言い終わらないうちにやってきた。

 いや、その時を狙って仕掛けてきたと言った方が良いだろう。

 大地を一瞬えぐり、目つぶしと牽制と伴った土がリーヴァンス目掛けて舞い上がる。それをリーヴァンスは避ける事もせずに遅れてやってくるだろう攻撃を待った。そして予想通りにやってきたランスの一撃は、飛来する土よりも速く、その土を中央から弾き飛ばしながらリーヴァンスへと刺し迫る。

 その一撃を、リーヴァンスは座ったまま殴り軌道を変えた。その衝撃と、同時に大地を殴った衝撃により、リーヴァンスは身体を宙に軽く浮かせる。そのリーヴァンスの胴目掛けて、予想以上に早く返ってきたランスの払いが襲う。しかしリーヴァンスの跳躍の方が早い。十分に大地に足が届く宙へと浮かせたリーヴァンスの身体が、その瞬間急加速した。その速度は、先ほどまで黒線を追っていた速度に等しい。だが自称、黒き剣士よりも強いブロラルドは、その言葉に違わずリーヴァンスの攻撃を咄嗟に回避する。同時に、それでは飽き足らないのか、カウンターの一撃をリーヴァンスへと殴り放った。しかしランスの一撃よりも遅かったその攻撃を、リーヴァンスが食らう筈もない。余裕に回し蹴りの一撃で迎撃する。

 ぶつかりあうブロラルドの拳とリーヴァンスの脚。

 一瞬後、ダメージを受けたのはブロラルドの方だった。

 カウンターを狙って放ったにも関わらず、易々と迎撃されカウンター返しをされたブロラルドの表情に僅かだが苦痛の色が現れる。

 しかしすぐに忘れて、ブロラルドは未だ空中で体勢のおぼつかないリーヴァンスへとランスを走らせた。

 身をそらすも間に合わず、肩先をランスがとらえる。顔上を過ぎ、多少の距離を引かれたランスが再びリーヴァンスの身体へと突き入ろうとしていた。リーヴァンスはほとんど自由の効かない空中で肩先に命中したランスによって崩された体勢から、向かい来るランスの切っ先を手で掴む。だがそれを制止する事が出来るはずもない。ランスの速度を自らの速度へと変換しようとするが、しかし変換しきれずにランスの切っ先がリーヴァンスの胸内へと侵入を開始した。

 刹那、ランスを握るブロラルドの手に強烈な振動が走る。

 まさにリーヴァンスの心臓を突き刺そうとしたとき、リーヴァンスが掴んだランスに零距離攻撃を仕掛けたのだ。

 それをした自らにも多大なダメージが与えるにもかかわらず、その思っても見なかった攻撃方法に、ブロラルドの顔が一瞬驚きに包まれる。

 その隙をリーヴァンスは見逃さず、微かに速度を落としたランスを力任せに無理矢理自分の胸から抜き出し、そしてそこから逃げる。

 それを失態と嘆くより早く、ブロラルドのランスが追う。狙ったのは、最も近い場所にあったリーヴァンスの脚だ。リーヴァンスの驚異的な筋力にも負けないブロラルドの凄まじい膂力のその腕は、リーヴァンスの脚を突き損ねたとしても瞬時にリーヴァンスの脚を絡めて空中で払おうと軌道を変える。それは成功し、逃げ遅れたリーヴァンスはブロラルドの巧みなランスの扱いに脚を払われ、手で着地する事を余儀なくされた。その腕で着地を果たし瞬時に後方へ移動し距離を取ろうとしたリーヴァンスを、ブロラルドの愛馬が一気にその距離を詰める。

 リーヴァンスの戦闘能力がブロラルドの経験と技量に数歩分も及ばない。

 若干16歳というリーヴァンスに対して、その相手であるブロラルドは『草原の狼』と呼ばれコーセティアーク軍の全権限を任されているだけあって、齢50を超えた身であっても未だ現役で間違いなくかなりの手練れだった。


「とても楽しくはあるが、この身に与えられた時間は限りなく少ない。そろそろ終わりにしよう、若き闘士よ。楽しかった。後五年もすれば俺を超えられたかもしれんが、残念だ」


 息切れ一つしていない低くて渋い声でブロラルドは穏やかに言う。

 その直後、咄嗟に顔面を防御したブロラルドの左腕に痛烈な痛みが生じた。


「何言ってやがる、じじい。俺はまだ満たしてねぇんだよ、この咽の渇きをな。楽しいのはこれからだぜ」


 無理矢理に風を捕まえ放った脚撃から繰り出された空気を貫く烈風撃。

 しかし長きに生きて戦い続けてきたブロラルドの経験は、例え勝負が決したと思われた瞬間であっても油断を生じさせず、それが彼のダメージを最小限にさせていた。だがそれは確実に功を奏し、リーヴァンスの放った烈風撃は、仕留めに掛かってきたブロラルドの攻撃を中断させその視界を一時的にだが狭めさせる。

 だが、それによって生じた時間は、まったくなかったといっていい。

 しかしその時間はリーヴァンスにとっては十分すぎる程に長い時間だった。

 一瞬勢いの削がれたブロラルドの必殺のランス撃を、リーヴァンスが肘で横へと撃ち弾く。その瞬間に出来た時の中で、今度は拳撃で烈風撃を生む。しかし脚撃で放った烈風撃とは違い、一点集中の直線攻撃だったそれを、ブロラルドは愛馬から半身をずらして躱す。しかし躱すだけではなく、その身に生まれる隙とリーヴァンスに与えるチャンスの両方を消すために右手のランスを走らせた。なめらかな、突発的に行った筈なのにまるで何度も練習していたかの様に無駄のない動きだ。

 その向かい来る攻撃に、リーヴァンスは大地についた両足に再び多大な負担を掛ける。

 瞬間、ブロラルドの視界からリーヴァンスの姿が完全に消える。

 リーヴァンスは、真横へと加速していた。

 そのリーヴァンスがもといた場所に、漆黒の刃が通り過ぎる。


「悪ぃな、先約があるんだ。じじい、あんたの相手は後でしてやるぜ」


 その言葉だけを残して、一瞬姿を表したリーヴァンスは再度急加速をし、黒線の後を追っていった。




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