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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
白天と草狼
7/28

2-2

 見上げる夜空には、月や星といった光点はなく、空の深き蒼き姿の半分近くを隠している白黒き雲が浮いていた。

 しかし、それは刻一刻とリーヴァンスの瞳から遠ざかっていっている。

 下から強く吹き荒れる風が猛威を振るい、リーヴァンスの肌を強く攻め続ける。その冷たき風は、熱く高揚し始めていたリーヴァンスの熱を奪い去ろうとするが、しかしうまくはいかない。奪う熱よりも、生まれる熱の方が大きかったからだ。

 四肢をだらしなく大の字に広げ、遠ざかる空の景色を見続けるリーヴァンス。

 その口元には笑み、反してその表情は安らぎに満ちている。

 精神統一という名を付けられた行為。

 ただその時を待ち望み、僅か数秒という時間の中で、リーヴァンスは永遠にも似た夢幻の心地よさを堪能した。





 轟音。

 背中から地面に着地を果たしたリーヴァンスの肉体が、まだ湿っていた大地に深く沈み込む。

 同時に飛沫いた土と血の混じった液体に、一瞬だがその近辺に霧に包まれた世界を作り上げる。

 その、四天の登場よりも遙かに目立った衝撃音に、その場にいた全ての者が一瞬動く事を忘れて、その場所へと目を向けた。

 そして薄消える霧の向こうで立ち上がった人影。

 何かを掴んでいたその腕は、一瞬にしてその何かを握りつぶし、それから垂れた液体を口へと運ぶ。

 それがもし、人の頭であったならば、恐怖しただろう。

 だが、霧の向こうから現れた青年リーヴァンスが手に持ち握り潰し咽を潤したそれは、ただの大きな木の実だった。

 期待を裏切られ拍子抜けした後、いち早く我に返った兵士達がそのリーヴァンスに武器の矛先を向ける。


「何者だ!」


 しかしその答えは、叫んだ兵士の悲鳴によって返された。

 硬い皮とその大きさに見合わない水分量と持った果物の慣れの果てたる物体をその顔面に投げつけられた兵士は、硬質の兜で保護されているにも関わらず、それを破壊する程のスピードでぶつかったそれに頭蓋骨が破砕する。兜の内で見えない鼻はひしゃげ、歯は折れ、瞳は潰れ、脳へと突き刺さった頭蓋骨の骨に、その兵士は死を約束された。

 その驚異的な投球に驚き恐怖する時間無く、次の標的とされた隣にいた兵士の頭がリーヴァンスの手の中に吸い込まれる。

 そして遅れて期待通りに潰された、兜に守られた頭部。

 サービスなのか、それから垂れる血まで咽に運んで、リーヴァンスはそこでようやく周りにいる兵士達一人一人をじっくりと観察し始めた。

 そして、言う。


「闘え! 俺と闘え! 闘わなければ殺す! 逃げる奴はいたぶり殺す! 闘え! 俺と闘え!」


 猛獣の怒号にも似た猛き咆哮。

 一瞬にしてその戦場にいる一千を超える戦士達全員に伝えられた轟きは、再び彼等に動く事を忘れさせ、その声の発生した場所へと目を向けさす。

 陥没した大地の為に、遙か先の坂からも向けられた視線の嵐。

 しかしそれは却ってリーヴァンスにより熱き血の煮えたぎりを生まれさせた。

 返答を待つ事も出来ず、内なる衝動に狩られたリーヴァンスが動く。

 猛獣のごとき疾走と共に瞬時に間合いを詰め、振り下ろした拳撃。それは豪風を生み、目標とされた不運なる兵士だけではなく、その周囲にいた拳撃の軌道延長線上にいた者達を一瞬にして吹き飛ばした。まともにそれを受けた兵士は即死、その近くにいた兵士達は重傷の傷を負う。その一人を追って、リーヴァンスが跳躍し追撃打を放つ。腹部に直撃し、その衝撃力を吸収しきれずに貫通。そのまま上下に引きちぎれ、その兵士は絶命した。着地し、再びリーヴァンスは近くの敵へと距離を詰めにかかる。流石に敵わないと感じたのか、その兵士は持っていた槍を捨て逃亡を開始する。しかし投げ捨てた槍が地面へと落ちる前に衝撃が兵士の右側頭部を襲い、首から上が瞬時に引き千切られる。リーヴァンスの攻撃に吹き飛ぶ事の無かったその頭部は、そのまま急加速し別の兵士の頭に玉突きの様にぶつかった。堅い兜を装着したその玉の衝突に、大きく兜を陥没した兵士の命は絶望的だろう。それに全く興味を持たず、その場に残った胴体をリーヴァンスは蹴り上げる。そして放った脚撃は、先の頭部とは違い、瞬時にしてその脚撃を受けた部分周囲が吹き飛び内蔵と血の雨を降らした。

 そこでようやく動きを止め、リーヴァンスは自分に恐怖し怯え、そしてあまりの事に呆気に取られている兵士達を睨んだ。

 しかし言葉はなく、浮かんだのは不気味な笑み。

 瞬間、兵士達はどの選択肢を選んだとしても自らには明日という未来が無い事を悟った。

 同時に、リーヴァンスをS級以上の階位を持つ魔者だと誤解した。

 その空白に彩られた時間が、リーヴァンスからは死角の兵士達の後ろから放たれた一撃によって終わりを迎える。

 軌道上にいた兵士達の胴ごと斬り裂きリーヴァンスへと向かう長大な剣。四天が一人、蒼き重装を纏いし剣士の一閃がリーヴァンスを背後から襲う。その間合いは長く、躱すには速すぎた斬撃。

 しかしリーヴァンスは咄嗟にその刀身を左手で掴み、刃が自らの身体に食い込む寸前で完全にその勢いを殺した。


「化け物か、御前は……俺の剛剣を易々と止めるとは、久しぶりに楽しめそうな奴と出逢ったものだな」


「ヘっ。御前は俺を楽しましてくれるのかねぇ」


 言葉が言い終わった瞬間、二人の間で力比べが始まった。

 止められはしたものの、そこからまだ相手を斬り裂こうという意志を持った剣がリーヴァンスの身体へと移動を開始する。しかしそれをさせまいと、その手に掴んだ蒼き剣士の剣の進行をリーヴァンスが拒む。力と力のぶつかりあい。そのあまりの力に耐えきれずに、二人の身体を支えていた大地が徐々に陥没し始めた。

 その間、蒼き剣士の長剣に半ばまで胴を斬り裂かれた兵士の、その激痛に苦しめられた顔から生気が完全に失われる。そして、死してようやく剣から解放され大地へと倒れていった。

 その兵士の事など全く眼中になく、四天が一人は両手に持った剣を全力で横へと移動させようとする。しかし、それは一向に進む気配は無かった。


「ば、馬鹿な……片腕で、しかもそんな体勢で俺よりも剛力を出せるというのか!?」


 言葉に対して笑みでリーヴァンスは返す。

 そのリーヴァンスの身を蒼き剣士の長剣とは反対から剣閃が襲う。気付き、リーヴァンスが動く。左手に持っていた長剣を手放し、突然に急加速を開始したそれが胴体に達するよりも速く上へと跳躍。遅れて、胴、及び首のあった部分が左右から空を斬って通り過ぎていった。


「汝が命はこの世にあってはならないものだと我は判断した。消えろ、猛き闘士よ」


 白き剣士の操る大剣が、瞬間その軌道を変え宙へと飛ぶ。その対象は、今仕方上空へと跳躍したばかりのリーヴァンス。

 己が剣を振り切り、何が起こったのかまだ理解出来ていない蒼き剣士から白き剣士へと視線を移し、その間にリーヴァンスが飛来する四天が一人の操りし大剣へと拳を振るう。横から殴り掛かったその拳撃を、剣は攻撃を断念してその軌道を再び変えた。自由自在にその方向を変える事の出来る剣に、リーヴァンスの瞳に興味の色が浮かぶ。瞬時に回り込んだ剣。リーヴァンスは舌打ちをするとともに身体を回転させる。しかしその様子を遠くから白き剣士は見ているので筒抜けだ。突きから払いに転じた剣がリーヴァンスの身を襲う。自由には行動の出来ない空中故に、僅かに回避が遅れたリーヴァンスの左胸を斬り裂く。しかしリーヴァンスに苦痛の色はない。むしろその痛みに対して喜びを覚えている様だった。

 攻撃を食らったにも関わらずその笑みを上げたリーヴァンスに、流石の白き剣士も言いようの無い感情を感じてしまう。

 その隙に、リーヴァンスは地に着地を果たす。その足から生み出されたのは、驚異的な脚力だ。飛来する剣よりも早くにリーヴァンスは白き剣士へと肉薄する。そしてお返しとばかりの、かなり手加減をしたデコピンをその額へと撃ち込んだ。その意外なる攻撃と、思っていた以上の衝撃に、白き剣士がそれをしたリーヴァンスと距離を一気に空けていく。そしてその先にいた兵士に勢い良くぶつかった。

 その白き剣士の胸ギリギリ前を通って、再度攻撃を繰り出した蒼き剣士の剣がリーヴァンスへと向かう。

 時を同じくして、リーヴァンスの四方から投擲された数本の剣が空を斬る。


「四天が一人、その狩猟に参戦させて頂きます。さぁ、私の剣の矢に逃げまどいなさい」


「狩られているのはいったいどっちなんだろうなぁ。なぁ、緑のおっさんよ~」


 その全ての剣をかいくぐり、リーヴァンスが二人を無視して白き剣士へと走り向かう。

 自らの意志意外でその立ち位置を変えさせられた白き剣士は表情を憤怒に変え、叫び自らの剣を呼ぶ。緑の剣士が新たに投擲した剣を合わせて、計3本の剣がリーヴァンスを背後から狙う。

 地を蹴り、リーヴァンスは横へと躱す。しかしその内の一本は空中でその軌道を変え、再びリーヴァンスへと突き向かった。その剣の方へと、再び地を蹴ったリーヴァンスが急接近し、そしてその身を殴り地へと叩き落とす。殴り所が悪かったのか、それをしたリーヴァンスの拳が血を吹いた。

 そのリーヴァンスを前にして、蒼き剣士が果敢にも己が長剣を振るう。しかし空中を滑る様に進む緑の剣士の投擲する剣や白き剣士の操る剣よりも遙かに遅い。力量としては他の四天と並ぶものだったが、だがリーヴァンスを相手にするには蒼き剣士はあまりにも相性が悪かった。

 飽きたと言わんばかりの眼差しと共に上へと殴り飛ばされた剣に、蒼き剣士に大きな隙が生まれる。リーヴァンスを目の前にしてその隙は致命的だった。リーヴァンスは飛来し向かい来る剣を完全に無視し、その強力な脚力によって一気に距離を縮める。そして、その瞳に映していた蒼き物体が振るっていた剣を持つ腕を手套で斬り裂き切断する。剣の刃にも匹敵する手套により、自らの腕を失った蒼き剣士は絶叫。その巨体を強引に足払いを掛け倒すと、リーヴァンスはその胸へと手套を突き入れた。

 声にもならない悲鳴を上げる蒼き剣士。心臓を貫かれ、その先の大地すら傷つけた驚異的なリーヴァンスの力に、さしもの他二人も驚愕する。遅れて、そのリーヴァンスの身に突き刺さった緑の剣士が投擲した刃は、しかし筋肉の厚い壁によって瞬時にその速度を失う。リーヴァンスの手套とは違い、ほとんど突き入る事の出来なかった剣は、そのまま重力に引かれるままに地面へと落ちた。



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