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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
白天と草狼
6/28

2-1

コーセティアーク歴

昇光の年陽月第二風源の日末明


『ラルバ防衛戦』開始


同日 コーセティアークの戦況報告

『敵軍侵攻、四天いち早くこれを察知、迎撃す。さながら一騎当千の働きなり』





ウォシュトール歴

深成元年陽月第二風源の日末明


『ラルバ襲撃戦』開始


同日 ウォシュトールの戦況報告

『当方の練度高き兵、疾風迅雷の如き動きにて敵軍を完全包囲。我が方、絶対有利に戦の行く末を支配するものなり』





 他の大地よりも遙かに下方へと陥没した辺境の土地ラルバ。長きに渡り雨が降り続けば、彼の地は水が溜まり湖と化す。だが、干上がり人の通れる大地が姿を表したとき、敵対強きコーセティアークとウォシュトールの二国の間に障害無き絶好の侵攻路を生み出してしまう。

 先に彼の地を占領したのは、騎馬兵を多くに有するコーセティアーク。

 僅かに遅れて、重装備に固められたウォシュトールの大軍がその地へと押し寄せた。

 ラルバに道が出来た時、急遽に軍備を整えその地へと進軍し一時の拠点を築いたコーセティアークの草原の狼ブロラルド・ヴェルンシュター率いる千騎の騎馬部隊。対して、ウォシュトールは予め多くの兵をラルバの湖付近に待機させ、急ぎ侵攻してきたコーセティアーク軍を討つ作戦を展開する。

 そしてコーセティアーク軍がラルバへと到着し、拠点設置を開始したその日の夜。

 鬨の声と共に、ウォシュトールが重装鉄槍士団を先頭に夜襲を仕掛けた。




 その身を包み込む超重量の鎧に著しく侵攻速度を落としてはいたが、上方より前面及び側面の三方から長い坂を一気に駆け下りたウォシュトールが重装鉄槍士団は、混乱し体勢を整える事すら出来なかったコーセティアークの兵を次々と倒していく。

 突き出した槍の尖端は肩先へと食い込み、その者に苦痛と自由の効かなくなった腕という現実をつきつける。そして決まってしまった死という未来に、更に二本の槍をその身に侵入させその者は息絶える。邪魔になったその躯を、それをした槍兵達がまだ地盤に固まらぬ地面投げ捨てた。足場となったその地を、敵味方問わず踏みしめていく。潰れた肉片から流れ落ちる赤き血は、しかし夜の為にただの水たまりにしか見えなかった。

 騎馬に乗る事を諦め反撃するも、しかし重装鉄槍士の重厚たる鎧の前に、その攻撃が功績を持つ事は少ない。

 弾かれる刃。

 鎧半ばまで斬り進むもそれ以上の侵入を果たせずに折られていく刃。

 多数対一へと持ち込まれ、その刃を振るう事すら叶わず散っていく命。

 見渡す限りの敵軍の姿に、標的となった馬に乗らぬコーセティアークの騎馬兵士達は戦意を失い、そのまま無惨にも殺されていく。

 その一戦に数倍の兵士を投入したウォシュトールは、コーセティアークの総大将、草原の狼ブロラルド・ヴェルンシュターの首を無理に狙う事はなく、目の前にいる敵を着実、確実に屠っていく戦法を取っていた。


「怯むな!! 全軍は速やかに騎乗し、陣形を整えろ! 我等が機動力を以てすれば、鈍重なウォシュトールの軍など相手にはならぬ! 例え数では勝っていたとしても、勝敗を決するのは数にあらず! 剣を取れ、槍を振るえ! 我がコーセティアークの精鋭たる騎馬部隊が負ける事など、断じて無い!」


 一陣の疾風となり、そう叫んだブロラルドは、草原の狼という異名のごとく戦場を駆け抜け、その機動力を活かし次々と迫り来る敵を屠っていく。

 騎馬の速度にのせた長大なランスが重厚な鎧を一瞬にして突き抜け、その奥にある心蔵を捉える。そして死ぬ迄の僅かな間に苦しみ悶えるその兵士の身体を、その重き鎧ごと持ち上げ吹き飛ばす。振るい落とし、再びランスを元の重さへと返す。そのブロラルドを狙って、遠くから飛来した数本の矢。しかし冷静にブロラルドはその軌道を読み、唯一自らが騎乗している愛馬の首を狙っていた一本をランスで弾き落とした。そして再び疾風となり、次の敵を一撃で仕留める。


「今は草原の狼には構うな! 目の前の敵に集中しろ!」


 しかしそんなブロラルドの奮戦も虚しく、ウォシュトール軍は冷静にその戦果を上げていく。

 未だ騎乗出来ず歩兵としてい闘う事を余儀なくされている敵を、一人一人集団で攻撃を仕掛け、中距離戦闘用の武器である長槍で突き殺す。その彼等を助けるべく、上官の命令に背いてまで果敢に突撃を仕掛ける騎馬兵は、その一つの弱点たる槍の攻撃を受け、虚しくも散っていった。勿論、中には成功する者もいるが、その数は極めて少ない。

 そんな一方的な戦いが暫く続き、程なくしてウォシュトール軍は敵コーセティアーク軍を当初の予定通り完全に包囲する事に成功する。

 瞬間、まるでそれを待っていたかの様に、突然にウォシュトール軍陣内深くに、四人の戦士が現れた。


「退け! 退けば殺さぬ。だが退かぬ時には汝等が命は無いものと思え!」


 ただ一閃で複数の兵士をその鎧ごと斬り裂き、血の雨を辺り一帯に飛沫かせる、自分の背丈の二倍以上の長さを持つ大剣を振るう蒼き剣士。

 長大な大剣による横薙の一閃が風斬りの轟音を上げ、どの軌道上にあった障害物のことごとくを寸断する。足を斬られ、腰を斬られ、胸を斬られ、頭部を斬られた者達は、ほぼ同様にして苦痛の悲鳴を上げ戦闘意欲を完全に失ってしまう。運良くも即死出来た者は幸運だっただろう。彼の蒼き剣士は地に這いつくばりし負傷者には興味はなく、立っている者だけを狙うので、傷付き倒れた者達は死に至るその時まで苦しみ悶え続けた。その豪快な一撃の後に生じた隙を兵士達はつくが、しかし予想以上の速さで戻ってくる剣とそれをさせまいと巧みに闘う蒼き剣士に、ただの一撃も入れる事は出来ない。その間にも、苦しみに囚われる兵士の数は増えていった。


「我等は四天。無駄な殺生は好まぬ。大人しく負けを認め退くなら、汝等が兵の命だけは保証しよう」


 浮遊する大剣を自由自在に操り、ただの一歩もその場から動く事なく殺戮を行う白き剣士。

 下から、上空から、横から剣のみが攻撃を仕掛けてくるその特異な技に、兵士達のほとんどは対応する事が出来なかった。まるで巨人が振るっているいるかの様に、剣は易々と鋼鉄の鎧を斬り裂きその内に潜む生命を奪っていく。剣を操っている白き剣士を狙おうにも、次の瞬間にはすぐ側へと舞い戻り円上に大きく一閃されるので、誰も近づけないでいた。


「さぁ、ぐずぐずしていると最後の一人まで私は狩り尽くしますよ。それでも構わないのですか?」


 両手ではあまる七本の長剣を投げ付けては拾い縦横無尽に四方八方の敵を襲う緑の剣士。

 投擲された剣は急所である首や頭部に突き刺さりその命を簡単に奪いさる。その剣へと瞬時に剣士は疾走し、確保。そして次の瞬間には命中率高く投擲、その繰り返しだった。時にはその手元に剣が存在しない時もあるので、幾らでも付け入る隙はあると思われたが、緑の剣士は武術の心得もあり一筋縄では御す事は出来ない。瞬時にして周囲の状況を洞察し、そしてその未来を予測し行動する彼の剣士に、未だ攻撃らしい攻撃を繰り出せた者はいなかった。


「御前達は、俺のスピードについて来られるか……?」


 そして、目にも止まらぬスピードで次々と斬撃を繰り出し戦闘不能へと陥れていく黒き剣士。

 その姿を肉眼で確認した時には既にその剣士の姿は瞳には映っておらず、ただ黒い線が何処かへと続いているだけ。それが自分の方へと向いていたならば、その兵士の命はもう無くなっていると言って良いだろう。悟る時間も与えられず、首を正確に斬り裂いていく黒線に、その場にいる兵士達の誰もが恐怖した。動く事も出来ず、ただゆっくりと流れていく時の中で、己に死が与えられるその時までずっと恐怖し続けなければならないという現実に。




 コーセティアークが誇る特殊練兵、一騎当千たる実力を持っているのではと噂されていた四天が、ついにその牙をウォシュトール軍へと突き立てた。




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