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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
聖鎧の僧騎士
5/28

1-5

 衝撃。

 何事かと感じ思う前に自らの肉体を襲った痛みに遅れて、ザウザーの視界内にいた死んだだろうリーヴァンスの肉体がその残像を掻き消していく。

 そして自らに痛みを与えた者、リーヴァンスの姿をその苦痛に歪む瞳に映し出そうと振り向いた先。

 AA級眷族魔者、大型甲殻異形生物デュランの、そのボロボロたる二まわりも巨大な顔がそこにあった。

 リーヴァンスに破砕され、それでも少しばかり小さくなった顔上の二つの瞳は煌々と赤き輝き、野生たるその獰猛さは微塵にも失われていない。その顔に繋がる心の臓がある筈の部位に風穴を空けた胴体、更にそれから伸びた右腕は静かにザウザーの肉体を貫きその鋭き三本の爪を向こう側へと姿を表していた。

 彼等魔者には絶対に姿の見えない『影の歩み』の魔法を施している筈のザウザーの肉体を、デュランがどうやって発見したのか。


「まぁ、あれだけ派手に自分が此処にいますよ、ってアピールしていれば誰だって気付くよなぁ」


 いつの間にかザウザーとその身体を貫いているデュランの傍らに立っていたリーヴァンスが拍子抜けした様に言う。その身体からはあれほど恐ろしく放たれていた筈の鬼気たる闘気は放たれていない。闘い狂い楽しみ舞い、存分に自らの欲望を一時的に満たした後のリーヴァンスがそこにいた。


「御自慢の聖鎧も、流石に疲れてぐったりしたこいつのゆっくりした攻撃には全然反応しなかったみたいだな。御愁傷様」


 コンコン、とデュランの堅い甲殻を鳴らした後、リーヴァンスはザウザーに合掌する。

 それを、自分の過信が招いた意外な結末によって己が死を認識しはじめたザウザーの瞳が悔しそうに歪む。しかしその腕にはもう力が入らない。言葉も発する事が出来ない唇がわなわなと震え、しかし空気の出入りはもうそこには無かった。


「んにしても、勝手に人の獲物を食うなよ。幾ら昔馴染みだからって……」


 一黙置いた刹那後。


「度が過ぎるんだよ!」


 衝撃。

 兇悪無比の鬼の如き怒りの仮面をかぶったリーヴァンスの、その真なる本気の一撃による脚撃がザウザーの身を襲った。

 言葉に矛盾を感じながらも、その絶対なる死と完全なる敗北を悟るザウザー。

 しかし衝撃は、いつまでも彼の身に訪れる事は無かった。

 神速のごときスピードでザウザーの身に触れた拳は、しかしその瞬間突然に刹那の間に零へと帰る。一刹那後に再びその速度を得た拳は、しかし再びその瞬間突然に刹那の間に零へと帰した。

 零距離より撃ち込まれたし超振動攻撃。リーヴァンスのその驚異的な脚力によって生み出された神速は一瞬にして零へと帰り、そしてその殺人的な脚力による初撃により生み出される筈であった衝撃は、しかし消える前に後から神速を超える速度でやってきた後続の超威力と衝突、超振動を生み目標を打ち抜く。触れられた目標は何らダメージを受ける事無く、そしてその先に存在する者へと伝えられ、そして死滅。

 事実上回避不可能な超振動攻撃を受けて、それを撃ち込まれたザウザーの後ろにいたデュランは音も無く死散していった。





 残されるは、今仕方生み出されたばかりのリーヴァンスの攻撃を受け、同時刻に心の鼓動を終えた立ちつくすザウザーの肉体。それを貫く、唯一この世に残ったデュランの右腕の先僅かな部分。ラデュア達も既にそこにはなく、全て死を迎えている。

 その場に存在する己以外の全ての生命を、闘いに歓喜する感情無くほんの少しの間で奪い去ったリーヴァンスに、もう親と呼べれる存在は存在しない。一時はザウザーと共に大陸を旅をしたザウザーの妻はもうこの世には無く、そしてリーヴァンスの本当の親も遙か昔、ザウザーとリーヴァンスが出逢ったその日に起こった惨劇、突如として村へと襲撃してきたデュランによって殺されていた。

 ほんの僅かにだが繋がりのある者は、血の繋がらない親であったザウザーの一人息子。だが彼のいる場所をリーヴァンスは知らない。

 リーヴァンスは、産まれて初めて一人となった。

 ゆっくりとした時の流れの中で、悠久にも似た別れの眼差しを死した屍へと向ける。

 そして最後に一瞥した、元は育ての親であったカルナス聖王国僧士団第二階位《僧騎士》ザウザー・アスフィアの姿。

 ほんの一刹那の間のみ見た後、リーヴァンスはゆっくりと歩みを始める。

 これから始まる、孤独なる闘いへと。


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