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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
神剣の盾
25/28

4-6

眩しい光。

 自分が目を閉じていた事に気が付いた俺の視覚は、瞼の向こうから強烈な閃光を放つ眩やい銀沢を捉える。

 よく見ると、煌めく銀器は自分の何倍もの鋭い刃を誇っており、それを真下にいる俺へと向けていた。その刃に沿って暫く斜め後方に進むと、刃は突然に終わり丸みへと変わる。更に目で追うと肌色の指があり、細い腕がそれをしっかりと支え持っていた。

 視界の隅には、とてもベジタブルだと表現していい緑の世界が隠れ見える。所々に筋が入り、縦横無尽の様である一定の法則を持っているかの様に道走っていた。

 たったその一刹那の間に、輝く銀器は俺との間にある空間という距離を縮めている。

 それはまさに、この身を突き刺す勢いで眼前へと差し迫っていた。


「やぁ、ようやくお目覚めかい?」


 言葉の持つ朝の爽快な響きとは裏腹に、刃は減速する事無く我が身に容赦なく振り下ろされる。

 一瞬にして目が覚め、朦朧としていた意識が眠気の睡魔を瞬殺して回復する。

 咄嗟に俺は回避行動を取った。

 寝返りをうつように転がる俺の身体の紙一重先で、サクッという軽快な音が鳴り響く。銀に彩る鋭き刃はその先にある緑のベッドの奥深くへと大した抵抗も無く刺さり入っていった。その斬れ味を見る限りは、俺の身体を貫く事等、その緑のベッドと同じぐらい容易い事だろう。

 きつい視線を俺はその腕の先にある男の顔へと投じる。殺意と抗議の籠もった眼掛け。相手がそれを理解してくれるかどうかは別として、俺のこの何とも言い難い熱い気持ちを少しで冷ます為にはこうするよい他が無い筈だ。

 いったい何の権限があって、この男、イクスは俺を食そうとしているのか。


「ほんの冗談のつもりだったんだけど、お気に召さなかった様だね。もっとも、君が目覚めなかったり避けてくれなければ、この僕の高等な冗談は誰にも理解してくれなかっただろうけど」


 それはつまり、冗談ではなく本気だったという事だろう。冗談という言葉にこんな使い道は断じてない。

 実際には、俺は「キキッ」と鳴いている訳なのだが、どういう訳かイクスには俺の言葉が通じる様だった。まぁ、どんなインチキ魔法を使用しているのか知らないが、普通に仲間とコンタクトを取る様な感じで喋れば良いという事だな。ある意味、有り難い事だ。

 言葉を声にのせて、俺は一番楽な言語――とどのつまり、動物系魔者特有のごく限られた種族の間でしか通じない部族言語だ――でイクスに抗議した。


「まぁまぁ。それよりも、早くそこから逃げた方が良いよ。今度はフォークが君の事を狙っている様だから」


 イクスの口から"フォーク"という言葉が出るよりも早くに何の躊躇いもなく突き出された綺麗に揃った四本の刺突を、俺は半ば逃げる様に躱す。静かに風を斬った尖端が僅かに俺の体毛を削り奪う。だが痛みはほとんど無い。生誕から間も無いので、俺の全身を包み込む産毛は柔らかで細いからだ。これがしっかりと体内で根を根付かせている体毛であれば、皮膚ごと体毛を奪い取って激痛を俺にプレゼントしてくれていただろう。

 だが危険な事には変わりない。生誕間も無いという事は、産毛である体毛だけではなく、皮膚強度や骨格強度など、全体的に防御力がかなり低いという事だ。例えそれほどフォークの尖端がそれ程尖っていなくとも、人の力で十分に俺の身体を刺し貫く事は、いと容易き事。それはそのまま俺の死に繋がる。

 俺は壁際へと逃げる様に走り行き、四方全てを包み込み俺の身柄を捕らえている緑の牢獄の壁をそそくさと登り始めた。その間に、それまで存在した地面はフォークの手によって軽々と崩壊させられ、一番上の薄皮一枚をそこから奪い取られていく。生のまま。ドレッシングは使用されていない。

 後に残ったのは、新しく現れた歪な地面。工事中の様に凸凹としたその地面には、大小様々な隙間がはびこっていた。人にとっては何ら脅威に値しない小さな空洞だが、俺には十分にその効果を発揮してくれる。何せ、ただでさえ不条理な理由で命を狙われているのだ。足場が悪くて歩き辛いのは、相手にとっては歓迎すべき事だが、当事者である俺にとってはとても迷惑な話だ。

 俺はその場所から急いで脱獄する事を改めて決意した。

 緑に潤うベジタブルな牢獄の壁を登り切ると、そこはお皿の上にのっかった野菜で作られた自然だと言う事を発見する。まぁ、見た目通りのベジタブル世界だったという事だな。その自然の檻に、人工の手を加えた合作の牢獄。本来は俺ではなく、動物の肉を焼いた物――決して俺の事ではない――をその野菜の中心にふんだんにいれる。そしてナイフとフォークを使って徐々に周りの野菜を切りながら中の肉と共に食する"ビフォワーズ"と呼ばれる料理だ。

 ネイが働いている飲食店でその料理を取り扱っていたので、俺はこの料理の事は知っていた。


「へぇ……彼女、君達の間ではネイって呼ばれているんだ。下の名前は何て言うのかな。勿論、付けているんだろ?」


 無視。


「ひどいなぁ」


本人は苦笑いをしているつもりなのだろうが、俺の瞳には愉快に笑っている様にしか見えなかった。

 それよりも気がついたのは、俺の言葉をイクスが解していた訳では無いという事だった。俺は言葉を発していないのに、イクスは俺の思考自体を読んだ。これが世に聞く読心術という奇怪な特殊技能か。


「御名答。とはいっても、それほど君の心を読める訳じゃないよ。それに、誰でもという訳じゃない。君はたまたま僕と波長の合う存在だったんだ。エルフ……っと、君達の間ではネイだったね。彼女もまた君の心を介する能力を持っているんだよ。思い当たる節はあるだろう?」


 確かに、ネイは俺の言葉を理解している様だった。いや、むしろ俺の考え自体を読んでいる節があった。子供だからそういう事もあるかもしれないのだと思っていたが、どうやらそれは思い違いだった様だ。

 それよりも、イクスが言葉に出した"エルフ"という言葉は初耳だ。ネイは、俺の知らないもう一つの名前を持っているのか。

 

「お帰り、バルキリー。早かったね。ベルとリー、元気にしてた?」


 ベルことベオルブは牢屋で大人しくしていたのを俺は思い出す。意外と落ち着いてはいたが、それは苛つく感情を無理矢理に押さえ込んでいた結果だったのかもしれない。

 リーというのは、リーヴァンスの事だ。狂える鬼人。不条理な災害をもたらす凶喜する暴風。あいつの側にいると戦闘には事欠かないだろう。何故なら、奴自身がいつでもどこでも戦いを欲している猪突猛進の馬鹿なのだから。ある意味、天才(災)と称した方が良いだろう。

 だがあいつは少し厄介な事に巻き込まれている様な節が色々とあった。いや、正確に言うなれば、巻き込まれているのでは無く、自ら引き起こしているか、もしくは事件では無い事件に首を突っ込んで事件以上の災害へと変えていると言い換えた方が良いかも知れない。

 ベオルブからの情報だと、間違いなくあいつは今回も自ら進んで戦地へとむかっていった。例えそれが薄汚い牢獄の鎖から逃れる事が出来ない幼い少女の為とは言え、一人の人生を救い出す為に、他の多くの命や人生を奪い苦しめる事とは絶対に等価にはならない。人の命が皆等価とは俺は思ってはいないが、しかし軽んじて良い程その価値が低い訳では無いだろう。

 今回の場合、どんなインチキな天秤に乗せたとしても、釣り合う事は絶対に無い。

 だが、ある意味それはそれで正しいのかもしれない。何かを手に入れる為には、何かを奪わなければならないのだ。

 それこそ、等価という言葉が似合いだった。


「そう。もう少しで休憩に入れると思うから、その時にじっくりお話聞かせてね」


 了解の意を心で伝えて、俺は再びイクスの方へと向き直る。

 俺の言葉を受けて、ネイは踵を返して厨房に戻っていった。その後ろ姿は、俺と同じ様にリーヴァンスがいったいどんな事件を起こしてくれるのか、楽しみと言った風にご機嫌な様に見える。

 気が付くと、溜息が俺の口からこぼれ落ちていた。覚悟はしていたのだが、いざその時がくると緊張するものだな。

 ネイが声をかけてきたと同時に、俺は咄嗟に頭の中からイクスの存在を無理矢理かきけした。何故なら、そうしなければイクスの存在をネイが感知してしまうからだ。イクスはネイの存在を知った上でこの店を訪れている。だが、ネイはイクスを知っているとは限らない。

 数百年の記憶を得ているとはいえ、彼等の存在は未だ謎が多すぎる。力が戻るまでは、暫く厄介事には首を突っ込まない方が賢いと入いえるだろう。

 そして、ネイをその厄介事に巻き込む訳にもいかない。

 ベオルブを襲ったズィーベンと繋がりがあるこの男が、いったいどういう理由でネイをマークしているのか。

 例え彼女が危険な存在であるイクス、藍須、ズィーベンと言った者達と何らかの繋がりを持っているとしても。

 それはもう既に確信に近かった。

 そういえば、ズィーベンはベオルブの事を『ツェーン』と呼んでいた事を思い出す。イクスはネイの事を『エルフ』と呼んだ。だが、イクス本人の別名はまだ聞いた事が無い。藍須にしてもそうだ。


「なるほど……君はまだそれほど僕等の事を知っている訳では無いんだね」


 肉の無い野菜だけの"ビフォワーズ"をナイフとフォークでつつきながらイクスが俺に語りかけてくる。その顔は笑みを浮かべている様だが、瞳は笑っていない。その奥深い闇の中でたゆたい虚ろう陰りは、底知れない不気味さを醸し出している。

 それも一瞬の事。

 次の刹那には、イクスの瞳はいつも通りのしまりのない輝きへと戻っていた。

 話は戻るが、ネイと俺が会話している時、彼は普通の客を装って知らぬ振りをしていた。どうやらネイの方はイクスの事を知らない様だ。それはある意味歓迎すべき事だったが、知らないという事は、この男に対してネイは事前に心の準備が出来ないという事になる。危険だ。いつこの男が狼になってネイを強姦するか、分かったものじゃない。

 この男はいつか必ず、ネイに災いを及ぼす。俺の本能が確信めいたそれを訴え始めていた。


「こらこら、勝手に僕をその手の趣味の持ち主にしないでくれよ」


 弁明をしている様だが、俺の疑いは多方面へと及んでいる。イクスのその言葉が俺を説得するには、全くもって力が足りないと言ってよかった。


「まぁ、無いとは言い切れないけど……」


瞬間、本能を押しとどめる理性が放棄されほうになる。


「ああ、嘘ウソ。ほんの冗談だよ。そんな怖い目で睨まないでくれないかなぁ。僕は美人に見惚れられるのは好きだけど、怖い眼で見つめられるのは嫌いなんだ」


 どこかで聞いた事のある台詞だったが、何故か俺は思い出せなかった。そんなに遠い過去では無い筈だが――いったい何処で聞いたのだろうか。

 そんな事よりも、イクスに聞きたい事が多々ある。それも山ほどに。


「僕も君に聞きたい事は沢山あるんだ。彼女のフルネーム教えてよ。これ、今の僕の最重要な質問」


 飽く迄、自分のペースを貫くつもりか。

 ――まぁ、別にネイのフルネームをこいつに教えても害は無いだろう。

 だが、ただで教える訳にはいかない。

 情報は一つにつき俺の質問一つの解答と交換だ。その条件を俺はイクスに突きつけた。


「意外としっかりしているんだね。とっても小さい脳味噌なのに」


小さいのは余計だ。


「まぁ、良いよ。でも、答えられない事や答えたくない事も色々あるから、君の質問を先払い解答で良いかな? 僕が君の質問に答える事が出来たら、君の持つ情報を一つ僕に提供する。どう、悪い話じゃないだろう?」


 確かに悪い話ではなかった。むしろ俺にとってはかなり有利な条件だ。質問の仕方次第では、こちらからはほとんど情報を与えなくとも、十分な情報を引き出す事が可能である。歴代の長より継承されてきた数百年もの知識と経験を持ち合わせている俺にとっては、更に有利な話だ。

 残念なのが、その数百年の知識と経験を、生まれたばかりの俺にはまだ十分に引き出す事が出来ないという事か。


「さぁ、君は何が聞きたい?」


 誘う様にイクスが質問を促す。意味深な笑顔で野菜を丁寧に切り分け、フォークに突き刺し口元へと運ぶ。シャクッという綺麗な葉裂音が飛び、ゆっくりと数十回噛み砕いた後、その野菜はイクスの喉を通って酸にまみれる胃の中へと消えていく。その落ち着いた様は、まるでこちらの出方を高みの見物をしながら余裕に待ちかまえているという様な、嫌な時間の流れだった。

 俺は、イクスのペースに呑まれない様に、一呼吸をして気を整えて応じる。

 先程の藍須という古風な女性が言っていた『皇国を食らってしまうかもしれないあやつ』とは、いったい誰の事なのか。それはもしかして、リーヴァンスの事では無いのか。

 藍須とイクスの会話の端々で、どうもこちらの事情と繋がりそうな一線が多々あった。これは、どうしても偶然とは思えない。

 俺は心の中で強く思い、その真偽の定をイクスに問い掛けた。


「肯定だよ」


 ほぼ最低限の言葉での即答に、俺は驚きはしなかった。

 それほど長い時間彼の事を観察した訳ではないが、俺が知るイクスという存在からは珍しく簡素でもの寂しい。これが狙っての事なのか、必要以上の情報を俺に与えない為なのか、俺は判断に困った。

 その俺の迷いを楽しむ気配だけがイクスの不気味な笑みから伝わってくる。彼は、想像以上に形が見えてこない。単なる道楽を貪る虚け者かと思えば、それは全て偽りの道化師にも見え、しかし敵味方問わず慎重に何重もの策を張り巡らせている策士の様にも感じてしまう。


「過剰な評価、ありがとう。でも、僕はそんな大層な存在じゃないよ。一番近いのは、そうだな……一番の"虚け者"かな?」


 その言葉すら、俺は信用が出来ない。恐らく、藍須も同じ様な心境だったのだろう。 


「では、今度は僕の番だね」


 何の事はないネイのフルネームだ。

質問を聞く前に間違った答えを即答して、俺は次の質問へと入った。

 一瞬、イクスの満面の笑顔が何やら言いたそうな幻滅した顔に歪んだが、俺は気にせず言葉を心に紡ぎ出す。いい気味だ。


「残念だけど、その質問には答えられないな。君の考える楽しみを奪うなんて、僕はそんな礼儀知らずなこと、できないよ」


 まだ俺は質問をしていない。


「ハハッ、お返しだよ。君は、僕や彼女の事を質問しようとしていたんだろ? でも、流石に僕もこの事に関しては易々と君に情報を与えてしまう訳にはいかない。なにせ、僕の言葉は君の中で記憶に変わり、それが心の言葉となった時にあの子が君の心を読んでしまったら、情報が彼女に漏洩してしまうからね。今は、必要以上に彼女を刺激しない方が良い。成長期の心の乱れは、彼女の精神に重大な欠陥を生みだしてしまうからね。君は、愛する彼女の暴走によって死にたく無いだろう?」


 その事を俺に教える事すらも危険では無いのだろうか。思考というものは制御が難しい。なるべく考えない様にはするが、もし俺がイクスのこの言葉を思い出して心に浮かべてしまえば、十分に危険となりうる。


「ああ、これぐらいだったら大丈夫だよ。彼女は自分が素体である事ぐらいは知っているから。そして、彼女の様に僕達みたいな創られた存在が他にも何体か存在する事を知っている。これは、生まれる前から脳に焼き付けられ記憶させられた事だからね」


 俺は、少なからず衝撃を受けていた。

 ネイやイクス、ベオルブは自然にこの世に生まれてきた存在ではない。誰かの手によって、自然の摂理をねじ曲げられて生み出された人工の存在だというのか。だが、この世界の魔法がそれ程にまで発達しているとは到底思えない。魔導人形や疑似生物を創り出す事は高レベルの魔導士であれば十分に可能ではあるが、彼等程に人と全く変わらない存在を創り出す事は、人の力ではまず不可能である。人という存在は、神族や魔族であってもそう簡単には創造出来ない複雑怪奇で混沌とした生物なのだ。

 だが、イクスは自分が他人の手によって創られた存在だという。

 それはつまり――

 

「少し、お喋りが過ぎたようだね。とりあえず、この事はネイちゃんには内緒だよ」


 言って、イクスは俺にウィンクを投げつけた。

 気色の悪い事この上ない。


「では、今度は僕の質問の番だね」


 俺の率直な感想に気を悪くする事無く、イクスは笑顔を振りまく。だが、その笑顔は何故か静かな緊張を帯びていた。


「実は、僕はあの青年、リーヴァンス君に興味を抱いているんだ。彼の事に関して、君が分かる範囲内で良いから、教えてくれないかな?」


 その質問は、俺にとってとても意外な問いかけだった。

 俺はてっきりネイやベオルブの事に関して聞いてくるものだと考えていた。ベオルブにズィーベンを嗾けてきたり、ネイの近辺を彷徨いていたり、イクスは明らかに彼等の監視――ただ単に面白がっているだけなのかもしれないが――を行っている。そう思っていた。恐らく、イクスは俺がネイ達と出逢う以前より二人の事を見てきた筈だ。だが、それは飽く迄、間接的に他人として接していたに過ぎない。

 故に、もう少し身近な部分の情報を求めて、ひょんな事から彼等と行動を共にする事になった俺に接触を図ってきたと俺は考えていた。

 策にはめたリーヴァンスの事は、邪魔な存在として排除を企んでいると言った所か。

だが、その考えが先の質問でひっくり返ってしまう事になる。そうなると、更に幾つかの可能性が生まれてくる。

 一つは、今回のリーヴァンスの単騎戦闘投入は、彼の能力がいったいどの程度なのか見極めようとしているという可能性。言い換えれば、試験という所か。

 神国と皇国のどちらがリーヴァンスにとって驚異となるかと言えば、攻撃力に秀でた皇国だろう。その皇国を足止めする為にリーヴァンスは牢を出たのだとベオルブに聞いた。

 だが、イクス等はそのリーヴァンスの矛先を神国へと変える策を、皇国に持ちかけ実行に移した。

 その実行者が藍須というところか。

 神国とぶつかる事になったリーヴァンスは、恐らく死ぬ事は無いだろう。国の防衛に絶対的な切り札を有している神国は、反面攻撃戦闘には全く向いていない。長きに渡って弱り切った隣国をゆっくり取り込む事によって成長してきた国なので、侵略という二文字に必要な攻撃力は、皇国に比べると天と地にも等しかった。そんな奴らを相手に、あれだけの戦闘能力を持っているリーヴァンスが易々と殺される訳が無いだろう。

 まぁこの事だけを見れば、最初にあげた"排除"しようとしたという企みが消えてしまう。本当に排除しようとするならば、最強の防衛力を誇っているという神国の軍隊とやり合って疲れた所に、後ろから襲って殺すのが妥当か。これが皇国相手だと、皇国自体が強大な軍事力を持っているので、第三者が戦闘に介入してリーヴァンスを殺すにはかなりの危険が伴う。また、場合によっては皇国がリーヴァンスをスカウトしてしまうかもしれないという危険があった。皇国は、そうやって強大になっていったのである。

 一つに、既に皇国はリーヴァンスを登用する用意があるという可能性があった。だが、いくら強大な攻撃力を持っていると分かっていても、全く名の知れていないリーヴァンスを突然に登用するのは難しい。それなりに名声が無ければ上は納得しないだろう。

 そのリーヴァンスの力を知らしめる絶好の機会として、今回の様な場面をリーヴァンスに提供した。勿論、皇国自身と戦ってその名を知らしめてもらうという手もある。だが、そこに多大な利益すら生んでくれる別の手段が転がっているのに、わざわざ自らの軍隊を危険にさらすのはあまりに馬鹿げているだろう。

 皇国はこの作戦を、念には念を入れてイクス等という第三者を介入させて、より完璧なものになるように画策した。こんなところか。

 他にも、いかにもこの男が好きそうなただの気まぐれ的策や、俺の知らない第四の勢力による介入、その他諸々あったが、どれも確率的には低いので、説明は勘弁してもらいたい。


「人であるにも関わらず、人では無いまるで鬼の様な禍々しい気を放つ兇悪な力を持った男。僕は、今まで彼の様な異質な気を感じた事が無い。彼は、いったい何者なんだろうねぇ……」


 御前に言われたく無い。



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