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そして、それを待ち受けていたかの様に、もう一つの戦いの火蓋が切って落とされた。
俺の警告も虚しく、先制の襲撃がリーヴァンスの身を襲う。突き立てられた無数の歯は、全てリーヴァンスの死角からによるもの。腕、脚、背中、尻、首筋へと侵入した鋭い犬歯は、顎の全力を持ってしてその部分を噛み切ろうとする。
俺は知っていた。彼等がいったい何をしにきたのか。
何事かと振り返るリーヴァンスの瞳の中で、無数の獣が怒りに染まった双眸を強く輝かせている。一瞬の躊躇の後、リーヴァンスはその獣、B級眷族魔者ファバルーを振り解くべく、疾走する。向かうは、瓦礫が山積みになっている、元は屋上へと続く階段を守っていた部屋。自ら堅き壊礫に身を投じる事で、その衝撃によりファバルー等を一掃しようと考えている様だ。レーゼルに対する怒りの矛先を求めていたのか、程なくしてリーヴァンスは必要以上の速度で瓦礫の中へと身を投じた。
衝突に炸裂する、更に細かく破壊された瓦礫の破片が周囲一体に振り散らされる。その瞬間を狙ったのは、高空より高速で下降してきた鳥の様な大きな物体だった。鋭く尖った口先を先頭に、三匹が直線を描いてリーヴァンスの身へと突進する。B級眷族魔者ベアトリスだ。ファバルーは、時に他の眷族魔者に協力を仰ぐ事がある。戦場となる町中への侵入手段として最も友好的な、空からの侵入を可能としている飛翔眷族のベアトリスを今回は戦線に入れたか。一見すれば捨て身とも言える攻撃だが、ベアトリスのクチバシは速度さえ乗れば時に鋼鉄さえも貫く事さえ出来る優れた硬度を持つ。此処は石よりも硬度の低い材質、コンクリートで造られた建物なので、貫通する事は容易だろう。
血飛沫が舞ったのは、しかし彼等の一体だった。全身に無数に空けられた穴から血を流しながら、軽くなった左手でリーヴァンスが上空から襲ってきたベアトリスの一体の胴を薙ぐ。軌道を正確に読み、僅かに身を逸らすと同時に迎撃したのだ。下降のベクトルと横からの拳撃によるベクトル修正により、ほぼ直角に曲がりベアトリスは頭部から床へと突っ込む。胴に一撃、頭部からの落下という二つのダメージを一瞬で受けたベアトリスは即死した筈だ。だが、そうはならなかった二体のベアトリスは、リーヴァンスの身を貫く事は出来なかったが、クチバシから床へと突進し、そのまま建物内を突っ切り横腹へと貫通した。
ベアトリスの一体を屠ったリーヴァンスが、残った二体を追って跳躍する。風となったリーヴァンスが空を一直線に突き抜ける。上昇の為に思うように加速を得られないベアトリスは、僅かな間にその距離を詰められ焦りの表情を浮かべていた。そして追い越される間際にリーヴァンスに首を捕まれた一体のそれが、すぐに絶望へと変わる。支える事の出来ない体重を首にぶら下げたベアトリスは、そのまま落下を開始したリーヴァンスに引きずられる形で地面へと切迫する。聞こえてきたのは、恐怖に尾を引く悲鳴と、終わりを告げる肉が床に激しくぶつかりあい潰れる音だった。
ベアトリスの身体をクッションにして着地したリーヴァンスは、すかさずもう一体の姿を睨め付ける。戦いに酔い始めている笑みを浮かべていた。
その身を、再びファバルーの一団が襲う。伴って現れた従者は、地を影の様に這って進むC級眷族魔者レイム。レイムはまるでファバルーの後を追ってきたかの様に接近し、その道中にリーヴァンスの血を吸い、突然にその目標を変える。水たまりを強く踏んだかの様に身体を王冠に飛び散らせたレイムは、血の臭いに誘われた様にリーヴァンスへと襲い掛かった。先に襲ってきたファバルーの数体を屠ったリーヴァンスは、突然に襲ってきた意志を持った液体生物に、思わず攻撃を忘れ後ずさる。が、僅かに遅れて、レイムを形成している液体の一滴がリーヴァンスが着ている服に付着した。放たれた異臭が、リーヴァンスの鼻に猛威を振るう。触れた服を一瞬にして溶かし自らのエネルギーへと変えた後の廃棄物のなれの果てだ。そのあまりの臭いに、リーヴァンスは咄嗟に鼻を押さえる。
だが、問題は何も解決していない。むしろ悪化しただけだろう。
僅かにだが新たなエネルギーを得たレイムは、味をしめたのか、再び獲物たるリーヴァンスの身体へと肉薄する。途中で死したファバルーの肉片を体内に取り込み吸収し、分裂する。エネルギーを得れば得るほどレイムは分裂し、その猛威を振るう。個々としては大した相手ではないが、放っておけば無限に増殖し大変な事になるだろう。スライム系の魔者は質が悪くて始末におけない。闘技を主として戦うリーヴァンスでは、恐らく無傷で倒す事は出来ない筈だ。
それを見かねて、俺がネイにレイムを倒す方法を耳打ちし排除を要請する。
ネイが頷く。
どうして俺の言葉をネイが理解出来るのかは分からないが、この際無視する事にしよう。
どうせ考えても答えは見付からないと思うので。
ネイがレイムを倒す為のアイテムを取りにいっている間に、俺はもう少し戦いを間近で見られる場所へと移動する。
程なくして、俺はリーヴァンスの髪の中に潜り込んだ。そして、しっかりと髪の毛を掴んで身体を固定する。血に汚れてちょっと臭いけど、我慢だ。鈍感なリーヴァンスはそれに気付いていない。
「……とりあえず、後回しにするか」
不正解の解答が出されたと同時に、俺の身体に加速の重圧力が掛かる。
横飛びに立ち位置を瞬時に変えたリーヴァンスは、その腕で壁を地面と垂直に走り向かっていたファバルーの一匹を叩き落とす。弾かれ地面へと熱烈なキスを交わしたファバルーは、勢いあまって自らの身体を肉片へと変える。その光景を瞳に入れる事無く、次に標的とされた一体が踏まれて絶命の声を発した時、果敢にも宙を跳び攻撃を仕掛けた一体が腕に捕まれた。その先の運命は、ほぼ零距離からの壁への投擲。自らの肉体よりも遙かに堅い壁に激突したファバルーは、自らの肉体のみを破壊して息絶える。その死骸目掛けて、更に三匹のファバルーが死のダイブを強行された。吸い込まれる悲鳴と命が途切れた時には、次の犠牲者候補が名乗りを上げる。質より数で責めるファバルー等に、しかしリーヴァンスはまるで作業の様に無慈悲だった。
「暇している様だな、小僧。俺が相手をしてやるぜ、御前が死に行く迄の間だけな」
その作業に中断を申し込んできたのは、ベオルブを相手にしていたズィーベンだった。
破壊された建物の中に潜んでいた闇より現れ、手に持っていた長剣を振るう。間一髪でその殺気に気付き、軌道より身体をそらす。生まれた銀の軌跡に、運悪く攻撃を仕掛けていたファバルーの一体が一刀に両断された。飛び散る魔者の血飛沫の中を翡翠の双眸が迷いなく突き進む。追撃用に返された刃は、しかし思ったよりも早くに顔面を襲った肘により断念された。鼻骨が砕け、鼻が内側にめり込む。同時に足を払って体勢を崩し、その下から膝が襲った。それを邪魔だと言わんばかりに振るわれた拳が相対し、威力を相殺する。残った片方の腕に握られた剣が、リーヴァンスの首目掛けて閃く。研ぎ澄まされた切っ先は、リーヴァンスの喉の皮を少しばかり内側に斬り裂き、噴出する鮮血とともに地面へと突き刺さった。
そこに、先程鼻骨を砕いた肘がもう一度顔面へと襲い掛かる。ズィーベンは躊躇う事無く剣から手を離し、回避を優先させ、暫く前から余っている足を蹴り上げた。先に繰り出した膝蹴り脚の臑にぶつかり加速されたリーヴァンスの身体が、肘の一発を与える事が出来ないまま空中へと投げ出される。そのまま宙返りしてズィーベンは着地を果たし、地面に突き刺さったままの剣を手に取った。
遅れて、リーヴァンスも間合いを取って地に足を着けた。
「俺の寿命は長いらしいぜ。俺が死ぬ時まで相手が出来ると良いな、おっさん」
リーヴァンスは言うと、包帯でグルグルに巻かれ固められた右腕でズィーベンを挑発した。
「なに、安心しろ。すぐに御前の寿命の炎は消える。俺の軽い一吹きでな」
「力みすぎて、自分の炎を消さない様に注意しろよ」
再戦の合図は、二人を襲ったファバルーが発する掛け声によるもの。
それぞれがまず背後に迫ったファバルーを一撃の名の下に滅した後、血の臭いを伴った疾風が二つ生まれる。十数メートルの距離は一瞬にして零へと帰り、第一打の衝撃が爆音となって辺りに木霊した。衝撃に吹き飛ばされたのは、胸骨へと吸い込んだリーヴァンスの脚撃によるもの。僅かにだが、二人が踏破した道程は、リーヴァンスの方が勝っていた様だ。
背中から壁へと突っ込み瓦解させ、再び闇の中へと身を投じたズィーベンを追って、その勢いのままリーヴァンスは突進する。だが突如として現れた背後からの挟撃に、瞬時に反応する事が出来ずリーヴァンスの背にツインソードのクロス傷が刻まれる。振り返るリーヴァンスの瞳に、いったいいつのまにか移動したのかズィーベンの姿が映っていた。
その頭部が、何者かの拳に捉えられる。
続けて現れたのは、ベオルブだ。瞳を狂喜に変え、笑みを口元に零し、鬼気を上げている。
その拳が軌道を変え、リーヴァンスの身を襲う。視界内から打ち出された攻撃故に、リーヴァンスは難なくかわすも、続く連撃はまるで荒れ狂う暴風の様にリーヴァンスを欲してくる。狂喜に彩られた瞳には、既にリーヴァンスが敵か味方などという事は無い様だ。ベオルブの猛攻は、無座別に動く者を攻撃する魔者のごときだった。
それに喜びを覚えたのは、果たして正気だと言えるだろうか。叩き付けられた拳撃の痛みに笑みを浮かべたリーヴァンスの銀光が、正面の獲物にその意志を投げかける。
突き入れた手刀の切っ先は、回避行動を取らずに攻撃に専念したベオルブの下腹へと突き入り、内蔵を傷つける。だがそれ以上の侵入は許されない。手刀を無視した拳の一撃がリーヴァンスの身を捉え、二人の距離を広げたからだ。肩から激突し、壁が音を発して破壊された。追撃に身構えるには、そのダメージは大きすぎる。
だが、そのリーヴァンスを救ったのは、敵であるズィーベンだった。
彼にしてみればそれは成り行き上でしかなかった訳だが、今まさに兇悪な攻撃力を持った必殺の一撃を繰り出そうとしていたベオルブを止めたのは、その隙を付いて無数の斬閃を繰り出したズィーベンの功績である。咄嗟に左腕を犠牲にしてベオルブは飛び退いたが、一瞬後に左腕はズタズタに斬り裂かれいた。硬質の肌は短冊の様に斬り刻まれ、吹き出す血潮が半身を血に染める。この分では神経も切断され、鮮やかな骨の白ささえ血に染めたベオルブの左腕はもう使いものにならないだろう。ベオルブの喉があまりの痛みに声にならない苦鳴を零す。
その隙を付いて、リーヴァンスが瓦礫と化した壁の残骸から抜け出した。
もはや一対一対一の戦いになった戦場に、正気を保った男は存在しない。その戦いに巻き込まれ命を落としていく、俺を彼等の所から助け出そうとしたファバルー達は、その数のほとんどを母なる大地に返してしまった。彼等が協力を仰いだベアトリスも既に無く、最後の一体の屍はズィーベンに始末されたのだろう、鋭い何かに斬り刻まれて料理された姿で路地に転がっている。もう一種の魔者、自らを餌にしてここまで誘導してきたレイムは、恐らく俺の御願いを聴いてくれたネイの手によって、既に始末されている筈だ。
その中で、唯一目的と呼べるものを持っているのは、恐らくベオルブを殺傷しようとしたズィーベンのみ。
背後から急速に接近してきた殺気にリーヴァンスの身体が動く。相変わらずに俺の身体を襲う重力の驚異は、しかし次の瞬間には消え去っている。刹那の間に移動し、そして零へと帰った俺の瞳に映っていたのは、目の前を通り過ぎた鋭い刃。ほぼギリギリでかわした剣の下をかいくぐり、ズィーベンへと間合いを詰めたリーヴァンスの拳が標的の腹部を狙う。それは何にも遮られる事無く目的の場所へと吸い込まれた。だが、ズィーベンは後方に跳躍していた為に、完全にはその威力は伝わらない。ほぼ零距離から振り下ろされた刃を勘のみでそのタイミングを察し、間一髪でリーヴァンスがかわす。その眼前には、ブーツに包まれた加速する爪先。切断された自らの髪の毛が舞う中、身を捌いたリーヴァンスは、腕を伸ばして行きすぎたばかりの脚を掴む。が、突如として鋭い刃を生みだしたブーツに、掴もうとした左手に斬り傷が生まれていた。構わずブーツを握り、そして思い切りリーヴァンスは横へと腕を振るう。ズィーベンの身体が必然的にそれを追って横倒れに投げ出される。捕まれていない方のブーツに現れた刃で攻撃した時、既にリーヴァンスはブーツを離し後方へと跳んでいた。
襲ったのは、もう一人の敵であるベオルブの、体重の乗った大振りの一撃だ。空気が裂け豪風が舞い起こり、重さの軽い小さな瓦礫の破片が地面をコロコロと転がっていた。その風の中、地煙を引き起こしてリーヴァンスが後方へ進む速度を殺し、制止する。
そして、再び地を蹴り急加速を得て、そのままベオルブへと突き進んだ。
馬鹿正直にストレートに繰り出した拳が、風に唸りを上げてベオルブの胸に吸い込まれる。まさかまともに受けるのかと思った瞬間、ベオルブは無造作とも言える動作で両拳を振るい、リーヴァンスの拳を胸の前で挟み込んだ。真剣白刃取りの応用か、拳と拳で捕獲されたリーヴァンスの拳は、その無理矢理な捕獲行為により骨を砕かれ形状を変える。突き出した骨は肉を突き破り、破片となった骨の一部は拳を離れ、石とコンクリートと血にまみれる大地へとその身を投じていく。
だが、リーヴァンスの顔に苦痛の色は全く浮かんでいない。
狂喜の高揚に彩られた脳が次に考え結論を出したのは、それまで使えないという理由から当然のごとく使用されていなかった右腕の使用許可というものだった。
三日前に俺が見た状況では、とても使えるというような代物ではなかった事を覚えている。
既にそんな事も忘れてしまっているのか、ただ目の前の戦いに欲情するだけの戦闘馬鹿の右腕が、眼前の巨体に向かって振るわれた。
身構えた筈のベオルブの身を、恐ろしい程の破壊力が襲った。衝撃は轟音と響き、ベオルブの巨体を衝撃派と共に殴り飛ばす。零から突然に高速度を得た巨躯は、次の瞬間には数枚の分厚い壁をぶち抜き、上から崩れ落ちてきた建物の残骸に埋もれていった。
「……七撃だ。今のは、その一撃目。御前に殴られた、女の子の分だ」
あの攻撃を食らってもまだ動ける余裕があるのか、ゆらりと立ち上がったベオルブに、リーヴァンスが低い笑みを漏らして言う。
「何が何だか分からねぇが、とりあえず御前をぶん殴ってスッキリする事にした。悪く思うなよ」
「ストレス発散なら、その辺を彷徨いている二匹の蠅に当たれ。さっきから五月蠅くて迷惑しているんだ」
切り刻まれた次に、先の拳撃を受けた左肩先を押さえながら、ベオルブが言葉を返す。戦いに溺れ我を失っていた様だが、リーヴァンスの兇悪な一撃を受けて、ようやく正気に戻った様だ。
その劇的な変貌に、リーヴァンスが不服そうに眉根を寄せる。
「なんだよ、折角面白そうな状況になってきたってのに……」
「来るぞ!」
訪れた銀の螺旋は二本。
ツインソードを操るズィーベンの片割れがリーヴァンスの身を死角から襲う。
リーヴァンスは視線を変える事無く、背後に蹴りを繰り出す事により迎撃した。避けずに予備動作もなく繰り出してきた一撃を、驚いたズィーベンが一瞬動作に躊躇を生ませてしまう。その僅かの間に遅れた斬撃がリーヴァンスの身体を捉えるよりも刹那の間早く、靴裏が顔面に吸い込まれていた。頭部に炸裂し、衝突後も刃を振るっていた両腕は、しかし吹き飛ばされる頭部を追って、僅かに肉を斬り裂いたのみ。横転するズィーベンの姿は、まるで地上でのたうち飛び回る魚のような有様で地をバウンドしていた。
二転三転しつつ起きあがったズィーベンの頭部は、明らかに頭蓋骨にひびを入れ、脳が悲鳴を上げていただろう。そのあまりの苦痛に霞む瞳は、一瞬で死角に回り込んだベオルブの残映を捉える。正面からは、追撃に右腕を振り上げるリーヴァンスが差し迫っていた。
二人の攻撃をかわせたのは、ひとえに、彼が持っていた特殊な能力によるものだ。
瞬時には動けない身体が突然に掻き消えたと思った瞬間、ベオルブの胸を背後から長剣の切っ先が襲う。もう一体へと交代したズィーベンの刺突を、底を蹴って身体をねじりつつ、すくい上げるような一撃をベオルブは放つ。まともに食らえばリーヴァンスの一撃にもひけをとらない威力を秘めた恐るべき拳撃は、しかし目標を外れ何もない空間を殴る。その腕を狙って銀光が生まれ、その鋭き刃が血と肉を欲した。巨体故に動作が大きくなりがちなベオルブは、しかし回転を利用して器用にもその斬撃を急所から外す。飛び散る血飛沫を無視して、ベオルブは更に無理矢理身体を旋回させると、ズィーベンの身に素早く掴みかかろうとした。
が、 ズィーベンはそのまま振り抜いた剣に引かれるままにベオルブと距離を取り、身を翻した。
そこに容赦のない蹴りが地に撃ち込まれる。
飛び散る瓦礫のつぶてに、咄嗟に顔面を防御するベオルブの瞳に映ったのは、俺を髪の中に隠したリーヴァンスだ。後付の言い訳で連携をしようとしたと言えば、少しはベオルブの機嫌も良くなりはするだろうが、今のは明らかにベオルブの事などお構いなしに思い切り放っていた。獲物に逃げられたのは、ひとえにリーヴァンスが未熟だという他にない。あれほど攻撃しますというオーラをズィーベンに向けて放っていれば、かわされて当然だ。
溜息一つ吐いて、リーヴァンスの愚かさ加減に、俺は彼等には分からない俺達の言葉で悪態を吐いた。
同じく悪態をつきつつ、ベオルブの身体はズィーベンを追って疾走を開始する。離れた距離は意外と広い。注意が必要だ。
その俺の予感が的中し、再び突如として疾走するベオルブの間合い圏内に出現したズィーベンのツインソードが、それぞれに二つある足を襲う。ベオルブもそれを予期していたのか、急遽方向を変えて紙一重で急襲の刃をかわす。その後ろから現れたリーヴァンスがもう一度その顔面に蹴りを入れようとするが、しかし芸の少ないリーヴァンスの、その素直な攻撃をズィーベンが食らう筈もない。凶器を握ったままの拳で、むなしくも撃ち払われる。そのまま攻撃に移った刃を睥睨しつつ、リーヴァンスは邪険に扱われたばかりの脚を返して、お返しとばかりに刃を蹴り払う。自在にどちらか一方を好きな時に出現させる事が出来る特殊能力には驚きだが、しかし瞬間の速度はリーヴァンスの方が上の様だ。
だが、彼等が自らの能力に頼って戦っているかと言えば、そうではない様だった。
それほど甘い相手ではない事は確かだ。
出現時と同様に、またもや目の前から消え去ったズィーベンは、ただその能力を活かしてその場から去っていったに過ぎない。攻撃はただのフェイクであり、この戦場を包囲しつつある新勢力に気付き、今回は手を引いたという訳である。
「出たり消えたり、忙しい奴だな。あんたの言うとおり、五月蠅くて面倒臭い相手だぜ」
「油断はするな。五月蠅い蠅はさっさと殺すに限る。今後も俺達の周囲を彷徨かれては迷惑だ」
が、その事に二人は気付いていない。
これからこの場に現れる新勢力は、恐らくレーゼルやズィーベン、そしてファバルー等の魔者達よりも質が悪いだろう。
言うまでもないと思うが、一応言っておくとしよう。
包囲しているのは、この街の治安部隊。
これだけの事を引き起こして、今も呑気に会話を交わしている当事者である二人が、ただでは済まない事は明白だった。




