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武限の闘士  作者: 漆之黒褐
聖鎧の僧騎士
1/28

1-1

※過去に執筆した作品を無修正で掲載しています。

衝撃。

 沸騰した紅染まりし血飛沫の奥、熱烈なる抱擁をする液体に焼かれるも、深くえぐり目的の体内へと侵入を果たしたリーヴァンスの屈強なる筋肉を誇示する右腕手首辺りが世界から消える。遅れて迎えた脳に伝わる光速の電気信号シンパルスに、自らの体を守る最強防具である甲殻皮膚をいとも簡単に貫通、及び致命傷になりうるだけの激痛と認識とを同時に理解し、大型の怪物、甲殻の魔者デュランは咆吼しリーヴァンスの腕から逃れようとする。だが、伸縮脈動するぬめった何かを強く握りしめ、しかれど潰さぬ程度に加減したリーヴァンスの握力がそれをさせようとはしなかった。


「まだ終わるには早ぇよ。あの時みたいに、闘い狂い楽しみ舞おうぜ旧友の友っちよ~」


 剥き出した犬歯、尖り右口唇下を笑み伴いに通過した数多の振動、幾つもの情報持つ空気の震えは、しかし人語の知を持たぬデュランには奇異怪無意の理解出来ぬ音としてしか伝わる事は無かった。





 AA級眷族魔者、大型甲殻異形生物デュラン。成人で全長約3000ミリメートルLL型、甲殻皮膚強度10.12D。知能度極めて低く、主食は肉。特に人肉が好物。その屈強たる体躯、強度の極めて高い皮膚の高比重度より、動きは遅い。が、戦闘形態時の瞬発力は著しく高く、その膂力を活かした近接戦闘を得意とする。

 一生の内に二度出会える事はまず無いだろうと言われる希少魔者の、その名前すらリーヴァンスは知らないまま、知りたいという知識欲無きざっつぱらんに切り揃えた短めの銀髪、返り血により所々紅くに染め上げぬめっている頭の一部、瞳をデュランの瞳に合わせ、そして笑む。未だ血糖の奔流が傷口より絶え間なく迸るデュランの胸口、突き入れているリーヴァンスの腕は外界の空気には触れていない。微弱の酸度と、戦闘形態時の為にそれから生まれた熱量の代償として煮えたぎる事を余儀なくされ沸騰するデュランの血を浴び痛みを走らせる右腕に、しかしリーヴァンスはその一切の情報を脳から完全に遮断。代わりに脳内へと大量に分泌される液体に、リーヴァンスは喜びと共に遙かなる絶頂へと高揚する。

 掴んでいる何か、ドクドクと伸縮し大きく脈打つデュランの心の蔵をリーヴァンスは一気に引き抜く。

 勢いを無くした胸口、人のそれを同じく紅蓮に彩る液体の噴出が弱くなった一刹那後、デュランの遠吠えが辺りに木霊した。

 潰し、リーヴァンスは右腕の中にあったそれを完全に形無きものへと変える。滴り落ちる肉片混じりの血にリーヴァンスのそれも混じり、共に地へと吸い込まれ消えていく。

 握り拳となったそれを、リーヴァンスは目の前の異形の顔へと叩き付けた。純粋なる漆黒には程遠く、黒に混じり一部紅くに染まっている甲殻が破砕し、砕け散り、空へと舞う。対して、殴られたデュランはその慣性に従い後頭部を地に激突させた。

 自らの体液が惨状する大地に横たわる怪物。

 デュランの長大な足、その地を疾走しリーヴァンスを狙うが、リーヴァンスが寸前までいたその場所には既に目標物は何処かへと消えており、ただ鈍く風をうち払う音が鳴る。捉えていた瞳、血の色と同じく紅く輝いていたそれが映す場所へと向かうべく、デュランは瞬間的に200の力を手に集中させ地を打つ。飛翔し、繰り出した手套の刺突。生まれつきに極細に研ぎ澄まされた最強の武器、三本の爪はしかしリーヴァンスの横薙の何気ない蹴撃によってその軌道を修正される。弾かれ、その速度よりも早くに迫った旋風脚がデュランを襲う。それを頭突きという手段で撃ち迎撃。苦痛に歪むデュランの硬き表情と、左頬と同じ運命を辿る事となった左側頭部の甲殻皮膚が日の光に鏡のごとく反射し観客達の瞳を恐怖という色で楽しませる。

 甲殻の魔者デュランと共に行動するB級眷族魔者、小型甲殻異形生物ラデュア。成人でも全長約800ミリメートルSS型、甲殻皮膚強度8.59C。デュラン同様に強固な皮膚で守られた外甲殻全身鎧は、しかし比重度はそれほど高くはなく、その為、動きが素早く高い膂力を存分に振るう。しかしデュランの様に戦闘形態時というものは持たない。集団でデュランの周りに勝手に取り巻き行動し、その数は核たるデュランの強さに比例する。

 数えるだけでも面倒な広範囲に展開しているそのラデュアの姿を空中で映しながら、リーヴァンスは高笑う。その喜びに支配されている瞳に映る素朴な村には、しかし生存して立っている村人の姿はない。全て母たる大地に倒れ、各々が好き勝手に流れた血によって絵を描いている。

 その血を丁寧に嘗め這いずり、ゆっくりと肉を貪って久しぶりにありつけた一時の豪華な食事会を堪能していたラデュア。だが、そのリーダーたる山遠くに迄届く咆吼の叫びが彼等の視線を宙へと泳がせていた。

 低知なる頭で何とか認識した現実。視力は悪くほとんど見えなかったが、血の匂いを嗅ぎ分ける事の出来る嗅覚と聞き慣れた総大将の悲痛な呼び声に、さしものラデュア等も動揺を隠せない。だが助けを求める父たるデュランに、散らばっていた小さな子供達は、いっせいに行動を開始した。

 向かう先は、生きた血の匂いを発する、リーヴァンスの焼けただれ傷付いた皮膚の内から微量に排出された液体を吸い込んだ土の地面。二つ手二つ足の計四つの四肢を使い小走り早く地を駆け向かう。その口には肉を、その手には肉を、その足には肉を。窮地に陥った主に呼ばれながらも、参上仕る兵士達は己が本能に完全には逆らえない様だった。


「健気だねぇ。俺の欲望を満たす為だけに、その命を喜んで散らすなんて。良い部下を持ってるな御前」


 遙か昔から親しんできた無二の親友の様に偽りない本心の笑みを投げかけ、リーヴァンスはデュランに「じゃ、また後で」と無傷の左腕で別れの挨拶を交わす。

 それをした事を果たして頭で理解しているのか、掴まれ引っ張り出され拳へと手を握る時に結果として潰される運命を辿った心臓を失っても、デュランが死に至る事は無い。彼等の本当の命の素は自らの肉体を守っている外骨格の全てに存在し、それが完全に守っている内たる筋肉、血、臓器、その他諸々から引き剥がされたとしても、デュランがその命を絶やす事は無かった。能力的にはA級眷族魔者程度なのだが、しかしその特異な生体構造をしているが為に、甲殻の魔者と呼ばれ一部の人々からは絶滅保護運動さえ行われているデュランは、その絶滅保護運動に参加するレア物好きな人々の熾烈過酷を極める訴えの助けもあってか、AA級眷族魔者に指定されていた。

 人類にとっては敵であるのだが、そんな奇妙なファンを持っているデュランの事を、リーヴァンスは知る由も無い。

 ただ後で再び自分と戯れる玩具として、リーヴァンスはその空の旅に終わりを迎え入れる。

 着地点とされた不幸なるラデュアが潰れひしゃげる音が鳴り響く。

 着地とは名ばかりの垂直降下蹴りを入れたリーヴァンスは、思わず「あ…」という言葉を漏らす。本意では無かったリーヴァンスの一撃を諸に頭頂に受けたラデュアは、ただでさえ背が低いにも関わらず、その背を無理矢理縮められてしまう。股間より下の両足と、首から上にある頭部が胴体という家の中へと無理矢理に訪問し、その入口のドアにぶつかった一部の甲殻皮膚がパキパキという音を立ててボロボロと崩れ落ちる。意外に深く、鼻先まで埋まった頭部の残された部分、外界を未だ視野に入れているそのラデュアの瞳の色は、しかし消えていなかった。

 まるでからかわれた様に怒り、ラデュアは自分の頭の上に降ってきた物体に抗議の攻撃を仕掛ける。が、それをした瞬間、そのラデュアの生体活動は零を迎え入れた。デュランとは違い、ラデュアの生命力はそれ程高くは無く、人体構造も外骨格と細かい部分を除けば、その大部分は人類のそれとよく酷似している。

 思い出したかの様に絶命したラデュアに、感涙の情に浸る時間は、しかし周りにいる密集し集まっているラデュア達には無かった。

 同じ地面の様に蹴り、水平に加速を得たリーヴァンスの肉体から放たれた拳撃が一刹那の間に二発叩き込まれる。甲殻皮膚強度10.12Dのデュランの装甲を軽々と突き破ったリーヴァンスの攻撃に、甲殻皮膚強度8.59Cのラデュアの皮膚鎧が耐えられる訳もない。左のラデュアに一発、次に右のラデュアに一発入れたリーヴァンスの拳は、その威力を以てして二匹のラデュアの生体活動に止まれの命令を与える。殴られた事に一瞬怒りに支配された脳から発せられた瞬間的な命令に動いた二匹のラデュアは、瞬時に反撃を開始する。虚しくも目的の空間を通り過ぎた攻撃は、しかしその先にいた味方であるラデュアにヒットし、遅れて全身が認識した生命活動の停止信号に、クロスカウンターに交差したそのラデュア達はそのまま崩れ落ちていった。

 まるで、俺が本当に倒したのか? という様な腑に落ちない表情をリーヴァンスは浮かべる。

 ラデュア達は、その二匹の仲間が死に面した理由をリーヴァンスに有り、と自分に納得させて一瞬止めてしまった攻撃の嵐を再開した。奇怪な叫び声とも言葉とも言えない音言を発し、各々勝手にリーヴァンスへと突進する。互いに協力し、連携を行おうとしている掛け声では無かったその気合い声を証明するかの様に、飛び向かう先で接触しぶつかり合うラデュアが数匹。構わず、リーヴァンスは目の前に迫ってきた小さな子供達へと攻撃を繰り出した。

 土渕により頭部損傷。その上を来たラデュアに手の甲撃、吹き飛ばされ後続に激突する。地を軽く蹴り半回転した後に繰り出した回し蹴りに巻き込まれる二匹のラデュア。円心運動距離の長い外円の方にいたラデュアはその蹴りをまともに食らい後退。が、内円にいたラデュアは一撃の威力が充分で無かった為にダメージに耐え、すかさずその足を掴み噛む。そのラデュアの顎を、リーヴァンスは筋肉の収縮運動のみで砕く。続いて蹴り上げ、空中へと誘った後、その最高点で制止した瞬間にリーヴァンスはそのラデュアの足を掴み地面へと叩き付けた。思ってもみなかった回避法に驚く暇も無く、地に陥没したラデュアはそのまま死を迎える。その身体を踏み、リーヴァンスが追い打ちの零距離攻撃。実際にはただの踏み込みだったのだが、それによって得られた初速を活かした掌打、瞬時に零へと戻った速度と対称に、掌打を受けたラデュアは肉体の半分以上を肉片と堅い甲殻の無数に分けさせ急加速する。破片は後ろにいたラデュアに勢い良くぶつかり、その前面に刺さる。それを確認して、リーヴァンスは隣にいた二匹のラデュアの頭部を掴み、胸の辺りに一気に引いた。ぶつかり、脳と血を飛沫かせる。それでも停止しなかった頭部を失った二体の胴体を無造作に蹴り跳ばし、次の目標を捜し始める。運悪く発見されてしまい標的とされたラデュアは、しかし臆する事無く自ら動き、そして自ら死の世界へと旅立っていった。


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