死神に刈り取られ、魔法を覚えてみた。
夏は、暑い。
クーラーのついてない部屋で寝て、起きると汗が凄い。
どうでもいいな。
無視してオケ。
「桜!?」
「桜君!?」
「誰!?」
「はわ!?」
「ッ!?」
フレン達の声を無視して、桜は死神に襲い掛かる。
普通逆な気もするが、心成しか死神は楽しそうに桜と相対している。
ボスにAIが付いているなら、何処にでも現れる死神にAIが付いているのは、必然だろう。
死神が消え、桜の背後に現れて鎌を振るう。
しかし、桜もそれに反応して武器を刀に変えて、滑らせる様に受け流す。
刀のスキルである【受け流し】とは違い、自力で受け流している。
スキルの【受け流し】は、成功しても能力が足りてないと貫通ダメージを受ける。
死神からの貫通ダメージは、ほぼ即死なのでスキルを使うだけ無駄なのだ。
このゲームの無駄な所は、身体を攻撃されずに武器で受ければダメージが無いところだ。
盾は防御する為にあるので、防いでもダメージが普通にある。
プレイヤースキルが高ければ、ノーダメージで勝つことが出来ると言う事だ。
つまり、桜なら格上相手でも普通に戦えると言うことだ。
相手は異常だが。
「フッ!」
鎌を戻される前に、刀を死神に突き入れる。
ガッと当たった音がした瞬間、ジャンプする。
鎌の刃を踏み台にもう一回ジャンプして、死神の頭上で武器をハンマーへと変える。
死神からしたら当たっても1ダメージだが、それでも本気で勝負する。
鎌を揺らしながら振り上げる。
ハンマーと鎌がぶつかり、桜のハンマーが吹き飛ばされる。
揺らしていた鎌をさらに揺らして、桜に襲い掛からせる。
桜は慌てることなく武器を銃に変えて、自身の真横に撃つ。
その反動で死神の鎌を避け、木に足をついてステップで死神に近づく。
鎌を振るい桜を止めようとするが、何時の間にか変更された武器である槍を地面に突き刺して急停止。
ギリギリ掠らない程度の距離で鎌を避けて、鞭を死神の鎌を持つ腕に巻き付かせて、死神の腕の力で一気に接近する。
死神の顔に回し蹴りを叩き込む。
すぐに武器を大剣に変え、振り下ろす。
顔面に大剣が当たり、首を蹴って離れる。
刀で受け流してからここまで、20秒程度。
武器での攻撃は、すでに二撃入れている。
レベル1でコレをやってのけるのだから、異常の一言だ。
「流石は桜だな」
「うわ~強いわ~」
「誰だよ!?」
「す、凄く強いです……」
「……素晴らし」
桜はフレン達の声をBGMにし、武器を弓に変えて走り出す。
死神は鎌を地面に突き刺し、地面に魔方陣を浮かび上がらせて、魔法を放つ。
コレに驚いたのは、フレン達だ。
出遭ったら即死の死神だったが故に、魔法を使う所を初めて見るのだ。
死神には分かっていない事が多い。
まともな戦闘すら出来ない相手だから、どんな攻撃をしてくるのか、どんな能力なのかがまったく分からない。
そんな死神が魔法すら使う相手は、全てが初期装備の明らかな初心者。
桜のリアルを知らないパーティーメンバーは呆然とし、知っている二人は凄さを再認識。
死神の使った魔法は、影を棘のように地面から伸ばす魔法【シャドウ・スパイク】。
地属性魔法の【アース・シェイク】というのに似た魔法で、さらに防御無視だ。
普通なら回避が難しいが、桜はジャンプする。
空中でムーンサルトしながら、矢を放つ。
空中にいる桜を一薙ぎしようとしていた死神は、自身に向かってくる矢を切り払い、すぐに新しい魔法を発動する。
【シャドウ・ハンズ】と言う魔法で、一定範囲の全ての影から手が出て襲い掛かる魔法だ。
桜は武器を鉄球に変え、アイテムを取り出した。
剣や槍などの武器をアイテムとしてばら撒く。
桜は何度かこの魔法を使われたので、この対策法を思いついた。
【シャドウ・ハンズ】は手の形をしているからか、掴んだものを離さないのだ。
プレイヤーが掴まれるとダメージがあるが、アイテムや武器が掴まれるとその場で停止し、一定時間が経つと消える。
桜は気が付いていないが、普通の武器には耐久度がある。
武器の場合は、アイテムとして取り出しても何かに当たれば耐久度が減る。
耐久度の無い練習~の武器しか持たない桜は、武器が壊れることを知らない。
だからこそ、普通にこんな戦い方をする。
止まった影の手を足場に、死神へ急降下する。
鉄球に踵落しをして死神にぶつけようするも、鎌の持ち手で弾かれる。
鉄球が弾かれた瞬間、武器をランスに変えて死神の腕に突き刺す。
その状態でランスの基礎スキル【突撃】を使い、死神の腕にランスを貫通させる。
すぐさまランスをアイテム化して、武器を剣に変えて基礎スキル【一閃】を発動し、死神の顔面に叩き込む。
骸骨の顔、不気味に光る赤い目、口から漏れる黒い瘴気の様なもの。
まさに死神と言うべき姿をした存在の顔面に、喧嘩を挑む様に蹴りをかまして、その反動で一旦距離をとる。
一呼吸したら武器を刀に変えて、刀の基礎スキル【居合い】を発動。
死神と桜が交差し、桜が消滅していく。
消滅する瞬間、桜は呟く。
「やっぱダメかぁ~」
死神は桜が消えたのを確認すると、フレン達を見た。
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「勝てるかぁ!!」
「ん?おぉ、友人じゃないか。それにスカイも」
「あ、桜君だ~」
一分せずに、フレン達が桜が一番多く来ているであろう復活地点に現れる。
桜は死神に負けてフレンがいたのを思い出し、多分ここに来ると考えて待っていたのだ。
スカイがいることには、気付いていなかった。
「桜、ゲームでなにやってるんだ?何だあの動き?てか、どうやって攻撃当てた?」
「案外出来るもんだぞ?アビリティーに【ジャンプ】とか【ステップ】付ければ、あのぐらいは普通だ。あと、ローブに当てると全攻撃無効っぽいぞ?」
「普通ではねぇよ。てか、勝てるか!」
「フレンは桜君と知り合いなの?」
「リア友だ」
「そうなの?私もリアルの知り合いだよ!」
「意外と近くに知り合いがいたのか!?」
桜はフレンとスカイの会話を聞き流し、負けた理由を考える。
スキルは自分で隙が小さいのを作るのがいい。
アビリティーは使ってれば上がる。
残るは、武器。
それも取ってない武器。
魔法用の杖だろう。
メイスなども取得した方が良さそうと判断する。
この時、フレン達に聞いておけばレベルの事を知ることが出来たであろう。
過ぎてしまった事は、しょうがないだろう。
「じゃあ友人、スカイ。また」
「え?あ、あぁ……またな」
「じゃあねぇ~」
こうして桜は、新たな武器を求めてギルドへと向かっていった。
桜に紹介されなかったパーティーメンバーの三人は、フレンとスカイに文句を言っていた。
桜のレベル上げは、まだまだ先のようだ。
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練習場に来た桜は、早速模擬杖を手に持ち、ラッテスの説明を聞く。
「魔法はいくつか種類がある。攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、神聖魔法、暗黒魔法だ。神聖魔法は教会の方でしか習えないが、回復とか不死に有効な光魔法がある。暗黒魔法は種族限定の魔法で、この近くで言うなら死神が一番分かり易いかな?戦闘が長引かないと使ってこない魔法なんだが、影を操る魔法なんだよ。アレは暗黒魔法だ。とまあ説明したはいいが、今のお前には関係なかったな!一番簡単な攻撃魔法の基礎からだ!攻撃魔法や防御魔法にも属性があってな、火や水といった属性がある。とりあえず、一番簡単な火の攻撃魔法【ファイア】からだな!」
「どうやって使うんだ?そのまま唱えればいいのか?」
「あっと!ソレを忘れてたぜ!魔法の発動にもいろいろあってな、発声詠唱、思考詠唱、陣詠唱、無詠唱だ!無詠唱は、魔法の熟練度がMAXにならないと使えないから、今は忘れていいぞ!発声詠唱はそのままで、魔法の詠唱を口で言って発動する方法だ。次に思考詠唱だが、コレは出来る奴が少ない!戦闘中とか攻撃されたときとか、すぐに別のことに気を取られたりして魔法の詠唱に失敗することが多いいんだよ。で、陣詠唱だが……出来るプレイヤーは、今のところ皆無だ!魔方陣を書いて発動するタイプの詠唱なんだが、魔方陣が違ったり途中で邪魔されたりすると発動しないんだ。だから、一番不人気と言えるな!」
それはつまり、やろうと思えば三つ同時に魔法を発動できると言うことか?と桜は思った。
とりあえず、まずは発声詠唱を試してみる。
ステータス画面の魔法の欄に、【ファイア】の詠唱と魔方陣が追加されていた。
ラッテスに聞かないでここまで出来るようになったことが、少しだけ嬉しい桜だった。
「火よ、燃えよ【ファイア】」
すると、燃やそうと思った案山子がいきなり燃える。
ソレを見て、すぐにある仮説を立てた桜は、また発生詠唱で魔法を使う。
「火よ、燃えよ【ファイア】」
今度は、案山子の横が燃える。
桜は、この魔法は一度指定した場所にしか魔法を放てないと理解できた。
つまり、魔法を放つ前に相手が一歩でも動いたら、絶対外れると言うことだ。
ただ魔法の熟練度が2になっている所を見ると、この魔法は無詠唱で使うのが普通のようだ。
今度は思考分割を使って、発声詠唱と思考詠唱を同時に試してみる。
「火よ、燃えよ【ファイア】」
〈火よ、燃えよ【ファイア】〉
先ほどよりも、火の勢いが強い。
どうやら、同時に同じ的に使うと威力が上がるようだ。
同じ様に詠唱して、今度は二つの案山子を狙う。
「火よ、燃えよ【ファイア】」
〈火よ、燃えよ【ファイア】〉
次の瞬間、二つの案山子が燃え上がる。
威力は、一発の時と同じだった。
同時に使っても、同じ的を狙わないと威力は上がらないようだ。
最後に、陣詠唱も混ぜて三つ同時に魔法を発動してみる。
ファイアの魔方陣は、円の中にくのだ。
「火よ、燃えよ【ファイア】」
〈火よ、燃えよ【ファイア】〉
詠唱と同時に、地面に杖で魔方陣を描く。
魔方陣の完成は、発声詠唱と思考詠唱の完了と同時だった。
三つの魔法が一つの案山子に同時に発動し、案山子が爆発する。
三つ同時だと、威力が乗法されるようだ。
三つの詠唱を使えるとは思わなかったのか、ラッテスが呆然としている。
「……すげぇな」
ちなみに、魔法が発動すると魔方陣は消えるようだ。
訓練場では、MPが減ってもすぐに全快するようになっている。
ただし、訓練場で熟練度を上げられるのは、基礎系のスキルやアビリティーだけである。
どの詠唱も発動速度は一緒と結論付けた桜は、その時その時で使い分けることにした。
それと、MPの消費が詠唱によって違うことにも気が付いた。
発声詠唱が普通だとするなら、思考詠唱は二割増し、陣詠唱は半減だった。
難易度と使用方法に関係していると考えられる。
思考詠唱が多い理由は、相手に発動のタイミングと魔法の種類を悟らせない隠密性故だろう。
陣詠唱は上位の魔法になればなるほど、魔方陣も巨大で複雑になるだろうから、半分のMP消費なのだと分かる。
メリットとデメリットは、必ずあるということだ。
ラッテスの股間を燃やし、練習杖を奪い取る。
桜は練習杖を手に入れファイアを無詠唱で使えるようにしてから、死神に再突撃した。
一分間に10回攻撃出来る様になって、ログアウトしたのだった。
今日のGM
「それで、このプレイヤーを見てたのか?ふ~ん……モロ初心者じゃね?てか、初心者より酷い」
「コレを見て、まだそんな事を言えるかな?」
「ん?……………チートか?」
「いいえ、自力っすね」
「なるほど、コレは確かに面白そうだな。このプレイヤーなら、隠し称号とかスキルとか手に入れられるかもな」
「死神関連なら、もう持ってるっすよ」
「……何故死神?」
「さぁ?」
「お前も、見るか?」
「そうだな……見逃す代わりに、新しいイベントでも考えとけ」
「「よっしゃ!!」」
「良さそうな映像あったら、こっちに回してくれよな」