アビリティーをセットしてみよう。
最近、喉が渇く。
常にペットボトルを持ち歩くのが良いのか、それとも喉が乾いたら買った方がいいのか、別に悩まない。
つまり、どうでもいいことですね。わかります。
続きをどうぞ~
椿の昨日は、なかなか充実した日だった様だ。
自身の母と友人の母、斉藤 夕香の三人でショッピングをした。
人妻で、左目の下のホクロが印象的な眼鏡美人。
医者をやっていて、その関係で椿の母とも仲が良い。
まあ、笑顔でランジェリーショップに連れて行かれた時は、流石の椿も顔が真っ赤だった。
親とはいえ、美人二人両手に花状態でそんな所に行くと誤解もされる。
男共の嫉妬の篭った羨ましげな視線には、三人とも気付いていなかったりする。
顔を真っ赤にした椿を見て、夕香さんが「可愛いわ~あのバカにも、このぐらいの可愛さがあればねぇ~」と言っていた。
ちなみに、その日の夜に椿が友人にそのことを話して、友人が枕を濡らしていたりするが、どうでもいいことだろう。
椿はアビリティーについて友人に聞こうか迷ったが、ラッテスに聞く約束をしたので止めた。
そして、今日は日曜日。
友人の話では、日曜日は必ずイベントクエストがあったりする。
まあ、今のところ椿は死神以外に興味無しだ。
なので、今日はアビリティーについてラッテスに聞くことから始める。
日曜日とはいえ日課を欠かすことは無い。
何時ものようにランニングしつつ空と話しをして、家に帰ってきたら家事を手伝って、やっとゲームを始める。
ギルドに人が沢山いるが、無視して訓練所にいるラッテスに話しかける。
「ん?おぉ!やっと来たのか!確か、アビリティーについてだったな!アビリティーって言うのは、所謂ステータス補助ってヤツだ。アビリティーの中には、状態異常の耐性を上げるのもあるからな。ステータス画面の所にアビリティーってのがあるだろ?」
ラッテスに言われて、ステータス画面を開く。
アビリティーと書いてある項目を見つけたので、選択する。
すると、五角形の角の所が空欄の四角になっているカードの様なものが現れる。
「アビリティーを開くとカードが出てくるだろ?それはアビリティーカードといって、そのままだと他の奴には見えないようになってる。設定から可視化を選択しないと見えないが、見えたままだといろいろ面倒だから注意しろよ?それはさておき、そのカードの空欄を触ってみろ」
言われた通りに空欄に触れる。
すると、【剣補正上昇LV1】や【火属性小上昇】といった項目が出てきた。
「いろいろ出てきたか?最初はそこから五つ自由に選べる。LV1とか小上昇とか書いてあるだろ?それは熟練度を上げるとLV2になったり中上昇になったりする。だが、持ってるアビリティーのランクが上がるのは、熟練度の数値が表示されなくなったのだけだ。MAXと表示されたら、もうそのアビリティーは成長しない。一回手に入れたアビリティーは、いつでも交換可能だ。セットしてないアビリティーは、熟練度が上がらないから注意しろ。こんなところか」
「なるほど。助かったよ」
「気にするなって!まあ、頑張れよ!」
どんなアビリティーがあるかしっかり確認してから決めるつもりで、案山子に寄りかかりながらアビリティーを見ていく桜。
アビリティーカードは、一次職になると六角形、二次職になると七角形と増えていく。
最終職だと真ん中が空欄になり、レアアビリティーを選択できるようになるが、今はどうでもいいことだろう。
そして、桜が選択したアビリティーは【ジャンプ】【ステップ】【速度上昇LV1】【武器適性・G】【眼力】だ。
【ジャンプ】【ステップ】【速度上昇LV1】はかなり普通。
【ジャンプ】は跳べる高さが少し上がる程度なので、誰も使わないぐらいだ。
【ステップ】は回避などが楽になるが、パーティーを組むと基本的にマジシャンなどの後衛がいる場合が多く、囮兼壁役がいて回避する必要があまり無いので、取っている者はソロプレイをしている者ぐらいだろう。
速度上昇は盗賊など、スピードが命の者達が好んで取得するが、その程度だ。
武器適性は、全ての武器の熟練度が少し上がり易くなる。
ただし、剣補正上昇などよりも熟練度の上がり補正が少なく、剣を使う時も補正が付かずプレイヤースキル依存になってしまう。
つまり、熟練度しか上がらない器用貧乏アビリティーだ。
このゲームでは、一つや二つの武器しか使わないのが普通で、桜の様に片っ端から武器を取っては使っていく者はいない。
ゆえに不遇アビリティーでもある。
【眼力】は、唯視力が良くなるだけ。
つまり、よく見える。
ただそれだけ。
取る奴はバカにされる。
持っている者はいないし、使おうと思う者もいない。
桜的には、少しでも死神の振るう鎌の動きが見えればと取得したおまけアビリティーだったりする。
準備は整ったので、訓練所で軽く動いてみてから、死神に挑みに行く。
「行くぞ、死神!」
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イベントクエストを確認しに来たフレン。
イベントクエストの内容はこうだった。
《深淵の森にいる死神を見つけ1分以内に2回攻撃を当てる》
《最初に成功したプレイヤーにアビリティーポイント1とレアアイテムを進呈》
《2回目以降のプレイヤーにはアビリティーポイント5追加》
《今回のクエストは、何度クリアしても報酬が貰えます》
《期限は今日の23時まで》
フレンは、このイベントが誰の為にあるのかすぐに理解できた。
多分、もう終わる。
アイツなら、絶対に終わる。
そう思わずにはいられないフレンだった。
ちなみに、アビリティーポイントはアビリティーを習得する為に必要なポイントで、レアで優秀なアビリティーは大量にポイントを消費する。
このポイントを手に入れるには、ボスを倒すしかない。
ただし、初めて倒すボスに限る。
月が変わるとボス討伐はリセットされ、ボス狩りが始まる。
その際、死神のレベルもリセットされるのは誰も知らない。
なので、アビリティーポイント5追加は、かなり美味しい。
どうせレアアイテムはアイツのだろうから、何とかポイントが欲しいところだったりする。
だが、攻撃は当たったら負け。
そんな相手とまともに戦えるわけが無い。
アイツは別として。
そんな事を考えていたら、クエストに変化があった。
《イベントクエスト初回クリアをしたプレイヤーが現れました。他のプレイヤーの方々も頑張ってください》
「ふぅ……御見事」
フレンは、周りのプレイヤー達が騒ぐ中で、誰にも聞こえない声でそう呟いた。
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桜は変な声のせいで止まってしまい、心臓を貫かれた。
そして、見飽きた場所に戻される。
だが、良い感じで避けることもできるようになったし、死神の攻撃もだいぶ反応できるようになった。
しかし、まだ足りない。
きっと、熟練度が足りないのだと訓練所で鍛えることにした桜。
上昇系の熟練度はモンスターと戦ってやっと上がるものだから、訓練所でいくら特訓しても上がらないが、【ジャンプ】や【ステップ】、【眼力】は使えば使うほど上がる。
つまり、桜はかなりアクロバティックに飛び回っている。
木にジャンプして、足をつくと同時にステップで案山子に突っ込む。
回避用のアビリティーを戦闘用にしているのだ。
ましてや、ジャンプで相手より高い位置にいるので、大剣やハンマーなどの重量武器が最大限の力を発揮する。
このゲームは所々現実に近くなっていて、重い物を叩き付ければダメージ2倍、首や心臓に当てると急所の防御無視などいろいろある。
その代わりボスにはAIが付いているので、一回勝ったからといってまた勝てるとは限らない。
そこが、このゲームの面白い所でもある。
偶に踊りだしたりして、呆然としている間にKILLされるなどといったふざけた殺され方もある。
面白いから、批判は特に無い。
「木の上、攻撃、ジャンプ、ステップ……遠距離攻撃!」
何かに思い至ったのか、弓などを取る為にギルドに行く。
人が沢山いるが、普通のクエストにはほとんど人がいない。
それに気付かず、人の多い方をフラフラと伺っている桜。
そんな桜にアイリが話しかけるのは、必然だった。
「何してるんですか?」
「ん?いや、何かあるのかなと」
「あぁ、イベントクエストですよ」
「そうか、ならどうでもいいな。今日は弓とか遠距離用の武器を取りたいんだ」
「あ、とうとうそっちにも手を出しますか!何時来てもいいように、武器系のクエストは何時も持ち歩く事にしてるんです!はい、まずは弓からですね。終わったら声をかけてくださいね、桜さん♪」
『アイリちゃんに、名前を覚えられているだと!?羨ましい!!』
男達の心からの叫びを無視して、訓練所へ向かう桜。
ちなみにアイリに名前を覚えてもらう条件は、アイリから話しかけて貰うこととアイリからクエストを紹介してもらうこと。
桜は、何時も誰かに声をかけられているアイリに迷惑をかけられないと自力でクエストを探すが、見つからずに途方にくれる為、アイリから良く話しかけられる。
そして、三回連続で武器訓練のクエストしか受けていない桜に対し、自分で考えるアイリは当然のように武器訓練系のクエストを用意している。
なので、名前を覚えてもらう条件をクリアしている桜だったりする。
ラッテスも同様に名前を覚えてくれるが、おっさん故か特に話しかける相手はいない。
まともに会話してるのは、桜ぐらいだろう。
「今度は弓か~桜は何でも出来るな!」
「出来る事をやっているだけだよ。出来ない事は結構ある」
「出来る奴はそう言うんだよ!HAHAHA!」
「いつもそうやって笑うけど、似合わないぞ?」
「なん、だと!?」
とりあえず、ラッテスを的にして弓の練習を始める桜だった。
数分間、おっさんの悲鳴が訓練所に響き渡った。
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「最後は、銃、か……もう、俺は、的に、するな、よ?」
ボロボロになって、息も絶え絶えなラッテスを背後に控え、銃を撃ってみる。
一番基本的なハンドガンタイプだ。
一回撃つと、軽く腕が跳ね上がる。
二回三回と撃ってみたが、この反動は強制らしい。
「ふぅ~銃は、どれだけ力がある奴でも必ず腕が上がるんだよ。反動を無くすアクセサリーがあるらしいが、何処にあるやら。それと、銃にもいろいろあってな。今のはハンドガンタイプだろ?他にも、威力はデカイが反動の大きいリボルバータイプ、威力は小さいが連射が出来て反動も少なめのマシンガンタイプとかな。まあ、俺から言えることは一つ……頑張れ!」
「どぉん」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
最後の励ましが気に入らなかったのか、桜はラッテスを撃った。
逃げ回るラッテスに対して、次第に飛び跳ねながら撃ったり、回転しながら撃ったりしてズタズタにする。
弾が切れたので、追いかけるのを止めて練習銃を受け取る。
「まじ、ずいばぜんでじだ」
本気で泣いていた。
感情を持ったAIが凄いのか、そこまで追い詰めた桜が凄いのか、悩みどころである。
今更だが、銃はタイプによって弾が変わる。
ハンドガンタイプとマシンガンタイプの銃の弾は、一発一発でなくマガジン一つでアイテムとなる。
弾が切れるまで、マガジンを交換することは出来ない。
リボルバータイプの弾は一発ずつ交換しなくてはいけないが、装弾数は少ない。
メリットデメリットが存在するのは、当然と言える。
桜は、銃による空中戦が出来ると予想していた。
銃の反動を使えば、空中で向きを変えたりといろいろ出来るからだ。
練習銃の弾は、練習銃と一緒に5ほど貰っている。
ハンドガンタイプなので反動が少ないが、無い訳ではないので戦闘の役には立つと予想する。
死神の元へ向かう途中、友人がいたのでヘッドショットをかましておいた。
「な、なんだ!?何が起きた!?敵襲!!」
「適性レベルが高いから神経質になるのは分かるけど、ちょっとは落ち着けよ」
「違うんだって!攻撃されたんだって!マジで!!」
このゲームはプレイヤーに攻撃しても、PKが基本的に出来ない仕様だ。
決闘を申し込んだり、デスマッチにしたりすればPKも出来るが、はっきり言って無駄だ。
別にPKしたからといって、アイテムや金を落とすわけでもなく、経験値が入るだけだ。
しかも、PK出来ると言う事は自分よりも弱い相手なので、入る経験値も僅か。
つまり、このゲームでPKする奴はただの馬鹿。
MPKと言う方法もあるが、誰かに押し付ける前に死ぬ方が早いだろう。
レベルが低い所だと、数がいても普通に対処できるから無駄。
レベルが高い所だと、遠距離攻撃を普通に使って来るから死ぬ。
それに、MPKしようとしてもパーティーだと魔法で吹き飛ばされて連れて来たモンスターの餌食、ソロだと普通に逃げられる。
するだけ無駄な行為なのだ。
ここまで説明したがつまるところ、桜の攻撃は当たったがフレンのHPには一切変化が無い。
なので、攻撃されたと騒ぐフレンをパーティーメンバーが、何言ってんだこいつ?という視線で見ていた。
それを眺める桜は、フレンが騒ぎ出したことで出るタイミングを見失っていた。
そのまま眺めていたら、フレン達が一瞬で身構える。
その視線の先には、死神がいた。
そして、死神を見た瞬間、桜は武器を大鎌に変えて飛び出した。
今日の運営
「アビリティー、何取るんでしょうね?気になって寝られませんでした」
「俺は嫁に殴られて気絶した」
「……相変わらず危険な嫁さんっすね。お、ログインしてきたみたいっすよ」
「どんなアビリティー取った?」
「えっと、【ジャンプ】【ステップ】【速度上昇LV1】【武器適性・G】【眼力】っすね。これって……」
「将来的には最強だな。多分、その凄さに気付かず使い続けるだろうがな」
「でしょうね」
「お前等、プレイヤー情報見て何してんだ?あ?」
「主任に強制されて!」
「裏切ったな!?」
「とりあえず、二人とも鉄拳制裁だな」
「「ひぃぃぃぃぃ!!」」