スキルとやらを覚えてみた。
眠い。
今日は学校が休みなので早速ゲーム、とはいかずに母親の家事手伝いをする椿。
休日の日課なのだ。
「椿。昨日はゲームをしてたみたいだけど、あんまり遅くまでしちゃダメよ?まあ、椿は賢いからそのぐらい分かってるだろうけどね」
「大丈夫だよ。宿題とかは終わらせてあるから。この後ランニングもするし、安心して」
「……偶には、生き抜きもしないとダメよ?」
「?」
真面目すぎる息子を心配する母親の気持ちを理解できず、首を傾げる椿。
ちなみに、この母親は30代の看護師未亡人。
スタイルもよく、家事なども完璧で、仕事先でモテモテだったりする。
だが、死んだ夫に操を捧げたと言って、相手にしていない。
母親には幸せになって欲しいので、最近椿が新しい相手を探し中。
名前は菖蒲。
「もう、いいわ。でもね、私の相手探しはしなくていいわ」
「でも、母さん夜寂しそうだし。よく俺の部屋に侵入して寝てるし。その度に寝室に移すの、結構大変なんだよ?」
「……え?」
「さて、ランニング行って来るね~」
「ちょっと待って!?私知らない!そんなの知らないよ!?ねえ!ちょっと!?」
母親の声を無視して、外に出て走り出す椿。
いつも寝惚けていたので記憶に無いと予想していた筈なのに、つい口が滑ってしまった。
後悔中の椿は、全力で走る。
住んでいる○○市は、海が近いので砂浜をランニングコースにしている。
潮の香りを嗅ぎながら、砂の上を走り続ける。
「今日もランニング?頑張るね~」
「ん?あぁ、殿下ですか」
「殿下言わない!」
プンプンと頬を膨らませる女性。
何時からか、ランニングした時は必ずと言って良いほど石階段に座っている女性だ。
茶髪のツインテール。
何処かの令嬢の様な雰囲気で、性格はかなり活発。
名前は、川波 空という。
何故そこに座り続けているのかは、椿には分かっていない。
ちなみに、何故殿下かというと……空、天空、天皇、殿下だ。
本人が絶対に殿下と呼ぶなと言ったが、その前日に友人に「押すなよ!絶対押すなよ!」という芸人のフリを教わっていたので、殿下と呼べと言っているように勘違いして今でも殿下と呼んでいる。
「まったく!私には空って言う可愛い名前があるんだよ!」
「そんなに嫌だったか。すまんことしたな、空」
「ふぇ!?」
「?」
空が可愛らしい悲鳴を上げながら、顔を真っ赤にする。
恥ずかしそうに手を振って、キャーキャー言っている。
普通に見れば恋する乙女。
恋愛に興味の無い椿が見ると……
「?じゃあ、俺はそろそろ行くな」
何も気付かずに、そのまま走り出す。
鈍感以上に酷かったりする。
椿がいなくなった事に気付いていない空は、妄想を始めていたりするが大体いつも通りだ。
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
やることはやって、ゲームにログインした桜は早速死神に突貫する。
昨日の最終結果と同じで、数分戦ったら首を飛ばされた。
少しずつ死神の動きに慣れてきたが、頭で反応できても身体が反応できない状態だ。
きっと鍛え方が悪いのだと、訓練所に向かう。
レベルを上げれば解決するであろう問題だったりする。
と言う訳で、ラッテスに聞いてみた。
「勝てない敵がいる?スキルは使ってるか?」
「すきる?」
桜は聞き慣れない単語を聞いて、首を傾げる。
そんな桜を見て、ラッテスは溜息を付きながら説明してくれた。
「スキルってのは、武器の種類と熟練度次第で使える必殺技みたいなもんだ。戦って覚えていくか、クエストの報酬で覚えるか、自分でスキルを作ることも出来るが、それに気付いてる奴はあんまりいないだろうな。気付いても、上手く作れないからだ。まあ、桜なら出来そうだがな!簡単なスキルなら教えてやるぞ?ギルドに行って、アイリ嬢からクエストを受けて来い!そしたら特訓開始だ!」
「わかった」
桜は、自分に足りないものは必殺技だったのか!とスキルを覚える。
本当はレベルが足りないだけだが、それに気付くことはない。
基礎スキルとスキルの作り方を教わり、死神に挑もうとした。
「ねぇねぇ!そこのアナタ!ちょっと待って!……やっぱりその顔、どっかで見たことあるな~どこだろ?」
「誰だ?いや、俺も見たことがある気がする」
謎の女性プレイヤーが話しかけてきた。
ただ、お互いにどこかで見たことがある顔だった。
と言うより、少し前に話していた相手だった。
「あ、椿君?」
「もしかして、殿下か?」
「空だから。この中じゃスカイだけど」
「俺は桜だ。スカイもやってたんだな」
そう、空ことスカイだった。
スカイの髪は、空色のロングストレートだ。
服も動きやすそうな軽鎧。
お互いワンピースとジャージ姿しか見たことが無く、髪型も色も違ったので気付けなかったのだ。
それと、スカイは魔法使いの様だ。
「驚いたよ。ゲームやらないタイプだと思ったのに」
「友人に懇願されてやることになった。今は目標があってこれから挑む予定」
「へ~私も一緒に行きたいけど、これから友達とダンジョン行くんだ~」
「そうか。まあ、頑張れ。俺も頑張る」
「了解♪あ、フレンド登録しといてね~じゃあ、いってきま~す♪」
フレンド登録して、お互いの行くべき場所に向かう。
そして、桜は死神の前に立つ。
「……勝負!!」
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
「負けた~」
数分が十数分に変化したぐらいだろう。
何時もの様に首が飛んだ。
スキルはシステムアシストが付くので、かなり使いやすいがスキル使用後の硬直が酷い。
ましてや、相手が死神だと1秒以下の硬直でもアウトだ。
桜は、何とか対策を考えようとする。
「コレでもダメとなると……わからん」
ゲームの経験が多いフレンにフレンドコールをかけて、聞いてみることにした。
出ない。
……出ない。
……………出ない。
…………………………出ない。
桜は、フレンに相談することを諦めた。
なので、最近御世話になりっぱなしのラッテスに聞いてみることにした。
「スキル以外に能力を上げる方法ねぇ……」
ラッテスがダメだと、今日はログアウトすることだろう。
とりあえず、剣を振りながらラッテスの意見を待つ。
剣の基礎スキル【一閃】を案山子に当てたりしながら、かなり動き回っていたりするが、死神としか戦ったことの無い桜には、それが普通だったりする。
レベル1のままなのでそれほど速くは無いが、技量は高レベルプレイヤー以上はある。
「となると、アビリティーかな?」
「あびりてぃー?」
また聞き慣れない単語を聞いた桜は、首を傾げる。
どんなものか聞こうとしたら、直接メールが届いた。
直接メールは、VRをやっている子供達にゲーム機本体を通して送ることの出来るものだ。
それは、親がVRゲームをやっている子供を止める為に作られた機能と言ってもいい。
ゲームをしない親からすれば、VRなどという科学技術を理解できない。
つまり、ゲーム中に電源を無理矢理止めたりした時に何かあったら困るから、親がゲームを止められないことが多くなったからだ。
VRの技術を使ったゲーム会社は、無理矢理止めても害はないと発表しているが、もしもを考えてしまう親が多い為、救済措置として直接メールを作ったのだ。
直接メールを開き、内容を確認する。
〈一緒に買い物に行きましょう!〉
間違いなく椿の母親だ。
と言う訳で、今日のゲームは終わりだ。
ゲームよりも、家族の方が大事な椿だったりする。
「また明日教えてもらえる?用事が出来た」
「おう!またな!」
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
その頃のフレン。
「桜からのコール無視しちゃったけど、大丈夫かな?」
「フレン!そっち行ったぞ!」
「OK!任せとけ!」
フレンは他四人とダンジョン攻略をしていた。
フレンは戦士系の装備で、バトルアックスを振り回す。
フレンに話しかけた男は、騎士の様なフルアーマーの壁役。
他三人はヒーラー、マジシャン、盗賊だ。
ちなみにこのマジシャン、スカイだったりする。
フレンは桜と違い、しっかりレベルを上げている。
☆☆☆☆☆
《ステータス表示》
ステータス・フレン
職業・一次職・戦士
レベル・13
アタック・131
ガード・49
マジック・7
レジスト・26
スピード・38
ラック・29
☆装備☆
【銅の戦斧】
アタック+22
ガード+3
スピード-15
効果無し
【銅鱗の軽鎧】
ガード+15
効果無し
【お守り】
レジスト+5
呪いの状態異常耐性10%
☆☆☆☆☆
ステータスをカタカナで表すのは、偶にATKなどと表記しても理解できない者がいるからで、誰でも楽しめるをコンセプトにしているこのゲームは、自然と英語を使ったモノがあまり無い。
初期職業の時にレベルが上がると、基礎値というものが与えられる。
最初から持っている基礎値5とレベルアップ時に手に入る基礎値3を合計すると、最大で32の基礎値が手に入る。
その基礎値を振り分け、キャラクターの成長を決める。
初期職業から一次職になる時に、成長率が上下する。
一次職の戦士の場合。
アタック・8
ガード・2
マジック・-10
レジスト・-6
スピード・1
ラック・4
近接武器熟練度上昇率・小上昇
こうなっているので、意外と分かり易い。
ちなみに、フレンの基礎値の割り振りは下の通りだ。
アタック・12
ガード・8
マジック・0
レジスト・7
スピード・4
ラック・1
偏りがあるように見えるが、コレがこのゲームの基本的な振り分け方だ。
基礎値というだけで、その数値分だけ上昇すると言うことはない。
レベルアップ時の能力の上がり易さ、だと考えれば良いのだ。
基礎値が-なのは、能力が上がりにくい又は上がらない。
他にも細かいのがあるが、今必要なのはコレだけだろう。
「お疲れ~」
「いや~やっぱ、ギリギリのレベルだときついねぇ~」
「そこ罠あるよ」
「言うのが遅い!ギャァァァァァ!!!」
「アハハハハハ!!バカがいる!」
楽しそうにしながら、獲得アイテムの分配をして休憩する。
そこでフレンに直接メールが届いた。
〈菖蒲さんと椿ちゃんと一緒に買い物に行く〉
「……」
フレンは、そっとメールを閉じた。
フレンにとって、今はゲームの方が大切なのだ。
そして、フレンのダンジョン攻略は続かない。
今日のGM
「お、ログインしてきた!今日は……スキルか!」
「やっとスキルか。見てて飽きないが、遅いな」
「スキルの作り方も習ったみたいすね。どんなスキルを創るのか、楽しみっす!」
「確かにな……ん?あれは、現段階のトッププレイヤーか?」
「あぁ、そうみたいっすね。すでに一次職のプレイヤーですわ。桜君とリアルの知り合いみたいっすね」
「お、死神の所に向かっていった。今日は何分持つと思う?」
「そうですね……8分ぐらいじゃないっすか?」
「……13分だったな」
「……そうですね」
「む、ラッテスの所に行って何を……おぉ!ついにアビリティーか!」
「これで、彼も死神以外と戦闘を!」
「……ログ、アウト?」
「……バ、バカな!?」