冒険を始めてみた。
過度な期待は厳禁よ?
頑張ってみたけど、これが限界なのよ~
とりあえず、暇潰しにどうぞ~
「えっと、コレをココに付けて……起動?どのスイッチだ?」
今、一度もゲームをしたことの無い高校生二年の青年が、流行のVRMMORPGで【名も無き英雄の伝説】と言うゲームをやろうとしていた。
このゲームをやる切欠は、友人に誘われたという些細な理由。
その友人曰く、「このゲームは最高なんだよ!βテストでやったんだけど、ホントにもうリアルでさ!魔法とかヤバイのなんの!あれだけ完璧なオンラインゲーム、よく作ったよ!と言う訳で、今度の休み第一陣として一緒にやらね?VRヘッドギアは俺が用意するからさ!な?家のお袋もお前も一緒だって分かれば多少の無茶が聞くんだよ!頼む!明日までに用意するから!てか、サービス開始明日だから!頼んだ!」だそうだ。
ゲームの説明をされてないが、とりあえずやってみるという結論になった。
ゲームの説明書も何も無く、すでにゲームをインストール済みの本体とVRヘッドギアを渡されただけ。
他に何をすればいいのかわからないのだ。
そんな友人とは中学時代からの付き合いでよく話す。
ちなみに、青年の名前は翠川 椿。
黒い短髪と黄緑の瞳の好青年。
成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、真面目な性格、誰にでも優しいく笑顔で接する人格者、でも生徒会長はやっていない。
欠点があるとすれば、一度熱くなるとなかなか冷めないところだ。
そんな彼は、生まれてから一度もゲームをやったことが無い。
友人がポ○モンなどをやっているのを、何度か見たことがある程度だ。
友人はそのことを知っているが、今回のVRMMORPGならコントローラーで動かすわけではないので出来ると考えていた。
むしろ、運動神経がいいので他のプレイヤーよりも優秀なのでは?と考えていたりする。
「あとは……コレを被って、ベッドに横になるだけか」
そして、椿はゲームを始める。
視界が一気に暗くなり、音が聞こえる。
〈身体情報がありません。新しく作りますか?〉
(よく分かんないけど、はいでいいのかな?)
声に出したつもりだったが、脳に直接響く感じで自身から出た声には思えなかった。
〈かしこまりました。数秒お待ちください〉
なんとなく手を動かそうとするが、何の感覚も無い。
科学って不思議だな、と思う椿だった。
〈身体情報の保存が完了しました。何をしますか?〉
目の前に選択肢が出る。
インストールしてあるのが一つだけなので、選択肢も一つしかない。
それを選択する。
〈では、仮想世界をお楽しみください〉
その言葉を最後に、視界が光で覆われる。
数秒して身体の感覚が感じられるようになったので瞼を開けると、町だった。
「……ゲームって、凄いな」
美しい町並み、色鮮やかな景色、それらを眺める。
シュールゼントの町という、低レベル者用の町である。
気がつくと、胸元付近に〈名前を入力してください〉という文字と空欄があった。
「名前?椿……あ、そう言えばアイツが名前は本名以外にしろって言ってたっけ?ん~名前、名前……桜?」
椿に近い名前で、桜となった。
桜の姿は、椿の現実の姿とほとんど変わりなく、髪の色が偶然にも桜色になっていることぐらいだろう。
髪型はサイドテールだったりする。
初期装備は、布の服と言うシャツの様なものだけ。
見方によっては、美人に見える。
そして、本来ならギルドに行って剣の使い方といったチュートリアル・クエストをクリアして、剣や槍といった武器を手に入れる。
βテスターは、所持金一部引継ぎなので他よりもいい装備を店で買う。
ちなみにギルドとは、メイン・クエストではないサブ・クエストやイベント・クエストを受ける場所で、ほとんどのプレイヤーがここでクエストを受けて、金やアイテムなどを報酬として手に入れる。
のだが……
「アイツのやってたポ○モンは、外に出たら物語が進むんだったよな」
と言う訳で、何の説明もされていない桜は外に出た。
当然の事ながら、外に出ても誰かが来るということはない。
桜自身がゲームをやったことが無いので、とりあえず友人のやっていたゲームを頼りに頑張る。
「むぅ……草むらか?」
草むらを探す桜。
草むらなどという戦闘しにくい場所が、こんな初期の場所で出てくることは無い。
桜はフラフラと草むらを探しながら、森に入っていく。
桜の入った森は【深淵の樹海】と言うフィールドで、必要レベル60と最初にしてはかなり高い。
近くの低レベルフィールドで、レベルを上げてから挑むような場所である。
対して桜は、レベル1、武器無し、防具は初期、戦闘経験皆無。
敵に遭った瞬間死亡確定の状態である。
「何処だここ?」
気付いた時には帰り道が分からなくなっており、辺りを見渡してから首を捻る。
友人の言葉を思い出す。
確か「最初の方で勝てない様な敵は出てこないから安心して進めるわ~」と言っていた。
始めたばかりなので、何とかなるだろうと高を括り、さらに進む。
運が良いのか悪いのか、敵と遭わない。
なので、どんどん進んでいく。
そして、出遭ってしまった。
白い骸骨の身体、黒いローブ、巨大な銀色の大鎌。
「死神?最初の敵にしては、随分強そうだな?」
普通に考えれば、死神は最初の敵ではない。
このゲームでも、それは例外じゃない。
ダンジョン内に数時間いると出て来たりするタイプと、フィールドを徘徊しているタイプがいる。
前者はダンジョンから出れば追って来ない。
後者は発見されると、フィールドから出ない限り追いかけられる。
倒せないわけではないが、死神自体のレベルは500。
βテスト時に攻撃を二回当てた者はいない。
そして、プレイヤーの初期職の最高レベルは10。
一次職の最高レベルは50。
二次職の最高レベルは135。
三次職の最高レベルは255。
最終職の最高レベルは550。
合計最高レベル1000となっている。
職業がランクアップすると、自動でレベルも1に戻る。
が、死神は倒されるとより強くなる。
一回倒すと、次はレベルが50上がった状態で戦うことになる。
倒せば倒すほど強くなる敵でもある。
しかも全プレイヤー共通なので誰か一人が倒すと、他プレイヤーが戦った時に倒される前よりも強くなっている。
ただし、死神よりレベルが高くても一発で負ける可能性もある。
死神の持つ大鎌は、即死効果が付いている。
即死無効のお守りと言ったアクセサリーを装備していても、首に当てられたら即死と言う鬼畜仕様。
「殴れば良いのか?」
そんな化け物とは知らず、攻撃しようとする初心者。
死神は、自分から近づいてくる桜の首に向けて大鎌を振るった。
それで終わり。
桜が次に気が付いたのは、初めてこの仮想世界で見た景色。
「……は?」
行き成り過ぎて理解できない桜。
呆然とその場に立ち続ける。
すると、一人のプレイヤーが桜に話しかけた。
「あ~間違ってたら悪いんだけど、椿か?」
「あぁ、椿だ。だけど、今は桜だ」
「やっと見つけた!」
この男は誰だろう?と桜は考えながら男を眺める。
金髪のツンツンヘアーで、赤と青のオッドアイをした戦士系のゴツイ男。
ゴツイと言っても鎧を装備しているからであって、桜の体格とほとんど変わらない。
しいて言うなら、少し筋肉質なだけ。
桜はその顔に見覚えがあった。
中学時代から見てきた、ヘラヘラしたチャラ男顔。
「おぉ、友人だ」
「友人じゃねぇ!友尋だよ!斉藤友尋!まあ、ゲーム内じゃフレンだがな」
「フレン?フレンド、友達、友人?うむ、友人でOKだ」
「……もうそれでいいよ。それで、死に戻りか?装備も手に入れてないし、当然か」
「死に戻り……」
言葉から察するに、死んで戻る事だと理解できた桜。
そして、自分を殺した死神を思い出す。
「……す」
「ん?どうし……あ、あの~桜さん?」
「あの死神、殺す」
「……キレいらっしゃる?」
友人は、キレてる椿を見るのはコレで二回目だったりする。
一回目は、椿の母親の兄が椿の母親に暴力を振るった時だった。
偶然遊びに来ていた友人はそれを見て以来、椿を怒らせる事が起きそうなら全力で阻止し続けていた。
無表情で首を掴み、大人一人を持ち上げる椿は怖かった、と記憶している友人だった。
「ま、まあ、続けてくれるなら有り難い、かな?えっと、一緒にどっか狩り行くか?」
「いや、それより何処で武器を手に入れられる?」
「βテスターじゃないなら、ギルドだな」
「ありがと。じゃあな」
「あぁってちょっと待て!フレンド登録してけ!」
友人とフレンド登録をした桜は、急いでギルドと言う所に向かう。
何故急いでいるかと言うと、死神を他のプレイヤーが先に狩る心配をしているからだ。
無駄な心配だが。
「死神か……大丈夫かな?」
こうして、初めてゲームをやった青年が死神に殺され、復讐する決意をした。
レベルの存在も知らずに。
今日のGM
「この初心者、なんで【深淵の樹海】に向かってるんだ?」
「さぁ?お、運がいいな。敵に遭わなかったぞ」
「結果、死神っすか。あ、殴りかかった」
「そりゃ死ぬわ」
「それにしても、死神に勝てるプレイヤーなんているのかね?」
「いないだろ。だって、即死無効にしても首に当たったら強制で即死だし、ローブに当たった攻撃は物理魔法全部無効だからな。カンストプレイヤーでも無理じゃないか?」
「専用武器とか称号とか、倒してもレベルアップする様にしたの、失敗だったかな~」
「これからに期待しとこうか。無駄だろうがな」