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第二話 起の舞-6-
淹れたてのココアを口に運びながらの詩来の問い掛けに、テーブルの向こうの童顔の青年は苦笑を浮かべて見せた。
「蛍がね、いたんだ」
「蛍?」
訝しげに相手の言葉を繰り返せば、頷きが返ってくる。
「うん。愛のこの季節に蛍なんて珍しいから、夢中になって追いかけたんだ。そうしたら、森に入って迷っちゃった」
軽く舌を出す行為は、自身の愚かな行動を恥じる為のものなのか、或いはただ単に、湯気の立ち昇る水面に触れた際に走った痛みを軽減させる為のものなのか。
熱湯に近いココアの入ったカップを両手で包み込むようにして餅、少しでも冷まそうと息を吹きかける姿が押さなく見えて、こんな相手に過度の警戒心を抱いていた自分が馬鹿に思えてくる。
「それで、彷徨い歩いた結果、猪の縄張りに入った、と?」
事の経緯を確認すれば、再び肯定の頷きを貰った。
「…………」
馬鹿かと思った。たかが蛍如きで、あの森に入るなど相当の阿呆だ。
あそこは、獰猛な獣が巣くう魔の森だ。地元住民ならばまず近付かない。回避叶わぬ必然性に駆られて入らざるを得ないとしても、必ず自分を守る武器を持って足を踏み入れる。




