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第二話 起の舞-4-

 それでも、詩来の歩みは緩まない。人間二人分の足音に混じり、そこかしこで夜行性の獣の動き回る気配がある。それ等は周囲にわだかまる闇に身を隠し、こちらの様子をじっと窺っている。一度でも足を止めれば、気性の荒い獣達は一斉に襲ってくることだろう。

 いくら詩来が弓に自信があるといっても、これだけの数を相手にして勝てると思う程、自信過剰でも楽観主義でもなかった。

 森の入り口が目前へと迫る。心なしか詩来の歩みは速くなり、あけた視界に飛び込んできた満月の月に、安堵の溜め息をついていた。

 耳に届いた駆け足に、一旦立ち止まって背後に一瞥をくれる。先程と変わらない、警戒や用心といったものとは無縁の能天気な顔がそこにあり、緊張感を保った自分の反応が過度にすら思えてしまう。しかしそれは完全なる錯覚だと己に言い聞かせ、詩来は森の入り口にまるで番人だとでも言いたげに建っている自宅へと向かった。

「入れよ」

 軒先に吊るされた洋燈(ランプ)の橙色の炎にぼんやりと浮かび上がる階段を上り、玄関を開けた詩来はようやく後ろをついてきた青年へと声を掛けた。

「あ…うん」

 唐突な促しに戸惑った様子で頷きながら、お邪魔しますと蝋燭の灯りに照らされた室内に律儀に断わりの言葉を贈送ってから青年は玄関を上がった。

 彼に続いて家の中へと入り、詩来は後ろ手で扉を閉める。突き当たりの居間へと相手を誘い、興味深そうに室内を見回している背中に手に持っている弓を置こうとはしなかった。

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