2、明菜その2
「ごめん!待った?」
「ううん、今来たとこ」
私は小さな嘘をついた。
昨日果たせなかった3ヶ月の約束を
今日は何で返してもらおうか?
年末に向けて動き出す土曜日の名古屋駅は、人混みでごったがえす。
「俺、髪の毛セットするのに時間かかっちゃってさ」
「いつもと同じじゃん」
「いや、なんか今日は寝癖が・・・」
「それで遅刻したの?」
「うん・・・」
沈黙。
シュンとする優を見て、
私は母性のような気持ちを覚えた。
沈黙を破るように、
優の髪の毛をくしゃくしゃと引っ掻き回してやった。
どんな反応するんだろう?
まだ、それが自然に分かるまでの長い年月を一緒にいるわけではないから。
沈黙。
あ、やばい。怒ったかな?
「おーい」
優の顔を覗き込むと
優は照れくささを隠した顔をして
「てかさ・・・今日の格好、いいね」
とだけ言って、自分の前髪を触った。
「そうかな?ありがと。ちょっと頑張ってみた」
赤地に白色の襟がついたワンピース。
優が5ヶ月の記念日にバイト代はたいて買ってくれた、
大事なワンピース。
今日おろしたばっかりだから、
朝から髪の毛を巻いて、メイクもいつもより大人っぽくしてみた。
「いつもと雰囲気違うから、なんか・・・」
「照れちゃった?」
「・・・・・」
優は無言で私の手を握ると、
私に向けて、満面の笑みで
「照れちゃった!!!」
って笑って、
早足で名古屋の街に私を引っ張った。
照れちゃったのは、私のほう。