六本目
パサッ
と書類が紙の束の上に乗せられる音がすると
「ふぅー、これで今回の後処理についての書類業務は終わったな。」
とため息をつきながら背伸びする。
どっしりとして実用性を突き詰めたような机の上に乗っている書類には『空中娯楽上演場クラウド虐殺及び天使現界事件』と書かれた書類と『空中都市型航行船【坂東】用陸港建設』についてと思わしき書類が積まれていた。
それらの書類を処理したと思わしき守霧は机に置いてあった茶を飲みながら少し離れたところで作業している自分の副官でもある成城 藍に尋ねた。
「藍くーん百夜と累ちゃんはいつ頃こっちに来るって言ってた?」
「遅くとも今日の昼頃には帰ってくるかと。」
返事をもらったのにどこか陰鬱な守霧は気配をただよらせている。
「ちゃんと話さないとダメだね~こりゃ、できればどうして『崩天事変』が起こったかなんて話したくなかったんだけどね。」
「仕方ないことかと思いますよ。仮にも天使があんなに堂々と言い放ってしまったのですから。」
「まぁ来るまでに残った書類を終わらせますか。」
「それがよろしいかと。」
_______『坂東』所属輸送艦:鎌倉艦内
『もうすぐ【六角天】総合船着場に到着いたします。お二人は降りる準備をしてください。』
女性型の人口音声が珍しく真剣な顔をしている百夜と累のいる個室に響いた。ふと、両者が口を開いた。
「モモっち。『崩天事変』の『大望』って知ってる?」
「いや、俺も親父に聞いたことがなかったな『大望』なんて。」
そう、『崩天事変』について知っている人間は多いけれども何故、〔神〕と呼ばれているニンゲンが『崩天事変』を起こしたのかはよく分かっていないのが現状だ。
「とりあえず今回の報告書を出したときに聞こう。」
「そうしよっかー。」
「もういつもの口調に戻すのか?」
「まぁ~、いつまでも気を張っていたら疲れるでしょー。」
「正しいな。」
________数時間後【六角天】第三総合陸港
『坂東』所属輸送艦:鎌倉から降りて見送った後、本部に通じるゲートを通り抜けるとそこでは二人の帰還を知っていたかのようなベストタイミングで自動人形が寄ってきて出迎えた。
「お帰りなさいませ。吉田 百夜様、塔霧 累様。〝第零席〟吉田様が執務室にてお待ちです。
なお、報告などは執務室にて受けると言っておられました。こちらのゲートから執務室前に繋がっております。」
それに対して、百夜と累は「ありがとう」とだけ言ってすぐにゲートをくぐった。
________【六角天】第零席執務室
コンコンっとドアを叩く音が響く。すると中から
「入っていいぞ。」
と聞こえた。
中にはいると一面黒い絨毯で床を覆われ、部屋の中央には来客対処用と思われる二つのソファーと間に置かれた水晶製のテーブルが置かれていた。
「失礼します。『処刑人兼選別者』吉田 百夜及び、「『予報士』塔霧 累。「「只今先の事件を報告に来ました。」」
「はい。いらっしゃい。そこのソファーに腰掛けていいよ。」
そうソファーを指差しながら自身も椅子から立ち上がりソファーに座った。
百夜は座ると同時に余裕があるように見える守霧とは逆に今にも掴み掛らんばかりの勢いで詰め寄った。
「親父、『崩天事変』の『大望』って一体「ストップ。まずは報告からだよ百夜。累ちゃんも同じだよ。」
どうやら累も顔に出さなかっただけでかなりあせっていたようだ。
「わかった。報告は即興詠唱でいい?」
と聞くと、
「できるもんならな。」
と返される。
「じゃあ、累お願い。」「はーいはいー、どうせそんなことだろうと思っていたよー。」
不意に表情を変えて
「それでは『空中娯楽上演場クラウド虐殺及び天使現界事件』について報告します。」
といい、息を大きく吸うと。
〝殺人⇒対峙、退治→現界_砲撃〟「以上です。」
「オッケー、わかったよ報告終了ってことでいいよ。主人公お疲れ様。」
「いえ、私は脇役でしたので。」
「そうかい、とりあえずこっからは危険物指定だぞ。それでもお前ら聞くか?」
途端、空気が張り詰めた。
たっぷり一秒おいて
「「もちろん。」」
二人とも見事にハモった。
守霧はため息をつきながら、成城にお茶を入れるように頼みながらこう切り出した。
「『神』と呼ばれた男は現実を見てしまった理想主義者だったんだよ。」
_____結論。神様は理想主義者