13:コミケで頭痛がするような状況 2
014
「えっと……コスプレ、すごくいいですね……」
突然、お客さんの前に割り込んできた男がいた。見た目は普通の高校生くらいだったが……
「あの……少し待ってもらえますか……今、お客さんの対応中なので」
「はい……」
そいつは列の後ろへ戻った。まあ……よくいる非常識なタイプだろう。
「悠太……列を整理してくれないか……終わったら俺とアキラちゃんの横に来てくれ」
「はい……」
やれやれ……こういう変な人間にはイベントで何度か遭遇してきたが、また会うたびに何をしてきたのかと思ってしまう。
その男の番が来た。
「えっと……何冊買いますか?」
「その……買わないんですけど……コスプレがすごく好きで……写真を撮っていいですか?」
「ああ……いいですよ!」
写真を撮った。まあ、ちゃんと列に並んでくれたから文句はない。
「入場料って高いですよね……千円もするし」
「それはそうでしょう……東京の真ん中ですし……このクラスのイベントともなれば」
「そうですか……」そしてまた列に戻っていった。
「あの……僕、お金がないんで……本、ちょっと高くないですか?」
「そりゃ制作費がかかってるんで……四百冊ですし……」
「でも他のところは安いですよ……表紙の見た目からしても、二百円で売れると思うんですが」
何を言ってるんだこいつ……
「お前、自分で売ったことあるか?」
「ないですけど……でも好きな作家さんに聞いたら、その値段で売ってたって」
「じゃあ、いくらなら買う?言ってみろ……値引きするから」
「やっぱり高いんで……タダでもらえないですか?」
は……この中二病め……
「できない……他の人は買ってるんだから……タダにしたら全員タダにしないといけなくなる」
「じゃあいらないです……」
そしていなくなった。しかしすぐに戻ってきた。
「値引きしてもらえますか?」
「……350円にするよ」
「いらないです……タダでもらえますか?……入場料が無料なら買ったんですけど……コミケが千円取るのが悪いんです。今は一円も持ってないんで」
本気で聞きたい……こいつは他の人みたいに普通に買うという選択肢がないのか?
「じゃあ先に持っていって後で振り込んでもらえますか?」
「それはできない……そんなことをしたら全員にそうしないといけなくなる……ダメダメ」
「わかりました……次の方どうぞ……」
そいつはスタッフみたいに立ち続けた。
「おい……そこにいると邪魔なんだが」
「はい……」
しばらくしてまた話しかけてきた。
「じゃあサインしてもらえますか?」
「いいよ……何にサインすればいい?」
「服にしてもらえますか……売りに出しても怒りませんか?」
「お前が何に使おうと勝手だよ……でも先に本にサインさせてくれ」
「僕の方が先に来たんですけど……」
「本にサインするのが先だって言ってるんだ……」
「はい……」
すると突然、高校生の女の子が一人、そいつに声をかけた。
「友達を連れてきたよ……本を買いに来たから……五百円どうぞ」
ちょっと待て……これはいったい……さっき一円も持ってないって言ってたのに。
「その子が連れてきてくれたから、五百円払ってもらったんです」
「じゃあ……友達に払わなくてよかったんじゃないのか?」
「いいです……少なくとも写真が撮れたし……」
俺はその子の友達の方に話しかけた。
「じゃあ、おまけしてあげる……名前は何?……サキちゃんだよな?……サインも入れて……箱もつけるよ……本来は三冊以上買った人にしか箱はつけないけど……いいよな?」
「えっと……じゃあ僕のは……一冊か二冊くれませんか、コミッション代として」
「ありません」
「ひどいですね……」
俺はペンを置いた。
「お前はどうしたい……」
「いや……冗談です……ただからかっただけで……暑いし……飲み物でも飲みますか?」
悠太が肩を叩いて、耳元で囁いた。
「絶対に手を出したらダメですよ……ニュースになったらアキトさんは確実にまずい立場になります」
そうだな……もし素行を掘り起こされたら、知り合いたちに迷惑がかかる。
「ああ……わかった」
「どこへでも行けばいい……お前の顔は見たくない」
そいつはいなくなった。
「はあ…………またこういうのに会わないといけないのか」
周りのお客さんたちが大丈夫かと声をかけてくれた。
「大丈夫ですよ……こういう人には慣れてますから……みなさん、引き続きどうぞ……」
俺は頭を抱えながらスマホを開いた。マナーモードにしていたせいで、ハルからの着信に気づいていなかった。
「菅原の方が無事だといいんだが……」
一風変わった個性を持つ人というのはよく見かけますし、ここタイのイベントでもそういった方々に出くわすことがあります。コミケにはもう長いこと行っていないので、あちらにもそういう人たちがいるかどうかは分かりませんが、ここタイには個性的な人物がたくさんいるという話は確かによく耳にしますね。




