表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

深い森の中で

「森を抜けるには、どんなに急いでも二日はかかる。追いつくならその間だ。森を抜ければ馬か荷馬車(にばしゃ)に乗り換えるだろう、そうなれば追いつけない」

「急ごう」

 

 俺たちは光の球を追って、村を抜け、森へと入っていった。

 木々が高く、すぐに薄暗くなった。だが光の球は迷いなく進む。速すぎず、かといって遅すぎず。迷いのない動きで俺たちを導いていく。

 

「精霊がニンゲンに道案内をするなど、聞いたことがない」

 隣を走りながら、ザラーがぼそりと言った。

「俺にだって、心当たりはない」

 

 昔の俺は精霊に関係する何かをしていたのだろうか? わからない。だが、今は信じるしかない。

 追跡が始まって半日ほど経ったところで、ザラーが急に足を止めた。


「待て」

 片手を上げ、地面に目を落とす。

「跡がまだ新しい。三人分、北に向かっているな……」

「ロッテも一緒か」

「子どもを歩かせては時間がかかりすぎる。袋か何かに入れているはずだ」


 ギリ、と奥歯が鳴る。

 

 荷物のように扱われているロッテの姿を想像すると、どうしようもない怒りがこみ上げてきた。


「落ち着けニンゲン。ここからは見つからないようにする必要もある。俺の後に続け」


 ザラーの後に続きながら、森の中を進んでいく。先ほどまでの真っ直ぐな追跡とは違い、木々の間を縫うように動いていた。

 

「このまま北へ抜けるなら、あそこの岩場いわばを通るはずだ。そこで待ち伏せる」

「本当に先回りできているのか?」

「俺はここで生まれ育った。この森に俺の知らない道はない」

 

 光の球がザラーの進行方向に向かってふわりと動く。同意しているように見えた。

 

 岩場に着いたのは、日が傾き始めた頃だった。

 

「あそこを通る、間違いない」


 ザラーはそう言うと、指し示した先に街道へ続く獣道けものみちが一本、眼下に見えた。

 

「いつ来るか、わかるか?」

「やつらのペースを考えると、夜にはつくはずだ」

 

 ザラーの言葉を肯定するように、精霊の光が揺れた。


「夜まで、身を隠すぞ」


 俺たちが岩の陰に身を潜めるのにあわせて、精霊も見えなくなった。


 日が落ちて、森が暗くなり始めた頃。

 草をかき分け人影が現れた。


 松明たいまつを持っているのが二人。中央にいる一人が大きな麻袋あさぶくろを肩にかけている。

 袋が、わずかに動いた。中にロッテがいるに違いない。

 

「やはり三人か」とザラーが小声で囁く。

「俺が引きつける。その間にロッテを」

「無茶を言うな。一人で三人を相手にするつもりか? ニンゲン」

「ここらに俺のような()()が居るとは思っていないはず、やつらもいきなり攻撃をしかけてはこないと思う。適当に話しかけて気をそらすから、その隙にロッテを救出してほしい」

「お前はどうするんだ?」

「俺のことよりロッテの救出が最優先(さいゆうせん)だ」


 俺の目を見たザラーが、言葉を飲んだ。

 

「……任せた」

「ロッテを頼むぞ」

「言われるまでもない」

 

 そう言い残すと、ザラーは音もなく草の中を移動していった。

 松明(たいまつ)の明かりが近づいてくる。俺は地面を踏みしめ、息を整えた。


「おおい、助けてくれ」

「なんだ、お前は」

(あや)しいものじゃない! 仲間とはぐれてしまって。こちらに灯りが見えたので頼りに来たんです」

 

 俺は両手を上げ、できるだけ(おび)えた様子を作った。

 

「仲間? 何人だ? いつごろはぐれたんだ?」

「全部で四人。はぐれたのは昼過ぎで、ずっと彷徨さまよっていたんだ」

「何をしにこの森に?」

「狩りですよ。俺は荷物持ちのだったんだが、どでかい獣に追い立てられてちりぢりになっちまって」

 

 男たちの警戒(けいかい)が、わずかに(ゆる)んだ気がした。間抜けな荷物持ちに見えたのかもしれない。

 

「獣? どのあたりだ」

「南の方だと思うんだが、逃げ回っているうちに荷物もなくしちまったし、方向もわからず困ってたんだ」

「北にまっすぐ行けば街道に出る。そこから街は近い」

「ありがとうございます。そこまでご一緒させていただいても? 何でしたら荷物を持ちますよ」

「いや、そこまで面倒はみられん。見ず知らずの人間だ、悪いがそこまで信用はしていない」

 

 荷物という言葉を聞いて、袋を抱えた男が後ろに下がる。代わりに剣を持った二人が一歩前にでた。全員の視線が俺に向いている。素早い動きでザラーが袋を持った男の背後に滑り込んだ。

 袋を持った男がくずおれ、次の瞬間にはザラーとロッテの入れられた袋は森の闇に消えていた。

 

「なんだ?!」

 

 残り二人が振り返る。仲間が地面に倒れているのを見て、すぐに俺へ視線を戻した。

 

「お前、仲間か!」

「待って、俺は本当に道に迷った――」

 

 そんな言い訳が通じる道理(どうり)もなく、先頭の男が斬りかかってくる。

 その光景に俺はいっさいの恐怖を感じなかった。むしろ心は落ち着き、身体は自然と動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ