【番外編】ユリスの新たな楽しみ
「あー、俺、本当にいい男だわ」
騎士棟の廊下を歩きながら、俺が頭をガシガシ掻き独り言を漏らしていると、横からプッと吹き出す音がした。
振り向くと、同僚の女騎士オルネラだった。
彼女は笑いながらつっこんでくる。
「ユリスってば、なに自分で言ってるのよ」
「いや、俺ってかっこよすぎるなとつくづく思ってな」
そう言いながら、見栄っ張りとも言うと思い、苦い笑みを浮かべる。
自分ながら、損な性格だと思う。
オルネラはそんな俺の表情を観察するように見て、テンションを落としてつぶやいた。
「……団長が結婚するそうね。幼なじみの彼女と」
ふいを衝かれた俺は目を見張った。
彼女とは気安く言葉を交わす仲だが、特に親しいわけではない。それなのに、俺の気持ちがばれていたのかと気まずくなった。
俺の想いなど伝わっても、誰の得にもならない。
だから、食堂でダイナードとカーティアを取り合ってみせたのは、団長に発破をかけるためだったと表明していた。
相手を一人に決めたことのない俺の言葉は簡単に信じられ、美談として扱われているほどだったというのに、オルネラはそれを聞いていないのだろうか。
(まぁ、ダイナードが余計な態度を取るから、カーティアには気づかれたっぽいが……)
それでも、これ以上、カーティアに気を使わせたくないから、俺は幼なじみの仲を取り持っただけというスタンスを貫かなくてはならない。
そこで、ごまかすように軽い口調で言った。
「そうなんだ。めでたいから飲みにでも行こうとしていたところだ」
「やけ酒なら付き合ってあげる」
「祝杯だ!」
「まぁ、そういうことにしといてあげるわ」
言い張る俺に深く追求することなく、オルネラは肩をすくめた。
祝杯と言いつつ、飲んでいるうちにやっぱりやけ酒になり、俺もオルネラも浴びるほど酒を飲んでベロベロになった。
管を巻いてうるさかったからか、気がつくと二人で酒場の二階の部屋へ追いやられていた。
男と女が二人で狭い部屋にこもるとしたらやることは一つだ。
そこはそういう部屋だ。
腰を引き寄せると、戸惑うようにオルネラは潤んだ目で俺を見た。
わりとサバサバしている印象の彼女がそんな顔をするとは思いもよらず、グッと心を掴まれた。
彼女の薄い唇をゆっくりと指でたどる。
受け入れるように開いた唇に口づけた。
翌朝、ガンガンと痛む頭に顔をしかめながら目を開けると、同じタイミングで目覚めたらしいオルネラが飛び起きた。
騎士らしい引き締まったスレンダーな身体が美しい。
朝からそれを拝めるとは悪くない、なんて思っていたら、オルネラが真っ赤になった。
「な、な、な、なんで私……」
えらく動揺してワタワタしている。普段は澄ましている彼女のそんな姿を初めて見た。
なんだよ、可愛いじゃないか。
「忘れて……!」
オルネラはそう言い放つと急いで服を着て、部屋を出ていった。
呆然とそれを見送った俺は、我に返ると口の端を上げた。
こんな身近に逸材がいたなんてな。
新たなからかい相手ができたと喜んだ。
「これからが楽しみだな」
次に彼女に会ったらなんて言おうと考えて、俺は頬をゆるめるのだった。
―FIN―
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