ダイナードの精神力
「お父様、ダイナードに送っていってもらってもいいでしょう?」
「別にダイナード殿がいいならいいが」
マーリスが帰って、私たちも屋敷に戻ろうとなったとき、ダイナードと二人で話したかった私はお父様にねだるように言った。
すると、ダイナードがギョッとした顔をする。
お父様が不審そうに見ると、すぐ表情を改めたけれど。
「はい、もちろん大丈夫です」
ダイナードは取り繕った笑みを浮かべていた。でも、内心はあの呪いのことを考えているのだろう。なにげなく額の汗を拭っていた。
私だって裸になっちゃうのは恥ずかしい。けれど、一週間謹慎ということはしばらく会えないということだから、その前に結婚の許しが出たことをダイナードにひっついて喜び合いたいと思ったのだ。
「それでは、私は一足先に失礼する。ダイナード殿、娘を頼みます」
「承知しました」
お父様を見送ったあと、私たちもダイナードの馬車へ向かった。
ダイナードのエスコートで馬車に乗り込む。
続けて入ってきた彼はすぐに窓のカーテンを閉めた。
馭者が馬車の扉を閉じると、やっぱり私の服は消える。
予期していたから、私は身体を隠していたのに、ダイナードは目をつぶってしまった。
これでは、甘い雰囲気にならない。
私はダイナードの膝に乗り上げて、抱きついた。
「カ、カーティア!」
咎めるように言ってくるダイナードも裸になっているから、傍から見ると淫らだ。でも、二人きりだから問題はない。それよりと、私は口を尖らせる。
「ダイナード、目を開けて。せっかく私たち結婚できることになったのよ?」
「しかし、その姿は刺激が強すぎるんだ」
「魔女もびっくりの精神力なんでしょう?」
「君に関してだけは、その精神力も脆いんだ。証明されただろう?」
私がからかうように言うと、ダイナードは肩をすくめて反論してきた。
私に関してだけ彼が弱くなってしまうなんて、愛おしすぎると頬をゆるめた。
抗議しながらもダイナードは胸に私を引き寄せ、身体を見ないようにしながら、目を開けてくれる。
熱のこもった黒い瞳がすぐ近くに現れて、トクンと心臓が跳ねた。
(かっこいい)
ダイナードはなんでこんなにかっこいいのかしら?
その彼と結婚できるなんて夢みたいと思いつつ、見惚れていたら、彼がふっと微笑んだ。
「カーティア、先ほどは庇ってくれて、ありがとう。責任を取りたかったし、君が得られるのなら騎士団長の地位も惜しくはないと思っていたが、君が勇気を出して、陛下に訴えてくれたのがうれしかった」
「だって、私のためにダイナードがなにかを犠牲にするのは嫌だもの。謹慎で済んでよかったわ」
私が顔をほころばせたら、ダイナードがふいにキスをくれた。
ひさしぶりのキスだ。
それは想いが通じ合った日以来なのに、ダイナードは軽く触れるだけのキス一回で止めてしまう。
私はもっとと言うように、彼の首もとに腕を回して、キスをねだった。
「こら、カーティア、刺激しないでくれと言ってるだろう?」
ダイナードは目を逸らすけど、お尻に当たっている熱いものがムクリと起き上がった気がした。
今が押しどきだと思って、私は真面目な彼を説得しようとしてみる。
「ねぇ、私たちは想いを確かめ合って結婚も許されて、もう障害はなにもないのよ? 次の段階に進んでもいいと思うの。早くこの呪いも解きたいし」
「……婚前交渉はよくない」
案の定いなしてくるダイナードにふくれて私は問いかけた。
お尻を彼のものにこすりつけて誘惑しながら。
「えぇー、じゃあ、結婚するまで我慢するの? それとも何度も私の裸を見て、慣れちゃった? やっぱり私って女として魅力ない……?」
そんなわけないと思うのに、言っているうちにだんだん不安になってくる。
こんなに何度も裸で抱き合っているのに、手を出されないということはよっぽど私に女としての魅力がないのかもしれない。男の人の好きと性欲は違うっていうし。
そんなことを考えてしまって、顔を曇らせる。
ダイナードはピクリと身を震わせたあと、私の動きを止めるように抱きしめた。
「違う! 俺がどんなに我慢しているのかを知ったら驚くぞ? 君に知られたら逃げられそうなくらいだ」
「そうなの?」
憤慨したダイナードが低い声を出す。
その答えに、ほっと肩の力が抜けた。
彼は私の頬に手を添え、親指でなでてくる。そのしぐさがとても優しくて愛おしげで、とたんに機嫌を直して目を細める。
ダイナードも表情をゆるめ、諭すように言った。
「君を不安にさせてしまって、すまない。今までの俺の態度のせいだな。だが、生涯をともにするのは君だけだと思っているし、もう俺は君を逃すつもりはない。だから、万が一にも婚前交渉がばれて婚約解消なんてことになりたくないんだ。もうこれ以上、ディルール男爵の信頼を失いたくない」
「そう、だけど……」
公聴会まで開いてやっとお父様の信用が回復したのに迂闊なことはしたくないという気持ちはわかる。でも、感情は収まらなくて、目を伏せた。
そんな私をなぐさめるようにダイナードが明るい声を出した。
「その代わり、結婚式の準備を急ピッチで進めよう」
(結婚式!)
私はパッと顔を上げ、彼を見つめた。
具体的なことを言われると胸が弾む。ダイナードも望んでくれているのだと。
「結婚式はいつ頃って考えているの?」
「一月半後だ。それ以上は待てない」
「一月半!?」
普通ならあり得ないスピードに驚いて大きな声を出してしまった。
私の反応に、ダイナードは唇の端を上げる。
「あぁ、俺のあらゆる権力を使って、急がせようと思っている」
そんなことに騎士団長の権力を使うと言うなんて、真面目な彼らしくない。
実際はそんな権力を使う場面などないのだろうけど。
そう思ったら、やっぱり彼も補足してきた。
「それくらいの意気込みだってことだ。早く君を自分のものにしたいのは俺も同じなんだ」
ダイナードが私の唇を指でなでながら急に色っぽい目つきをするから、背中がぞくりとして、私はうろたえる。
動揺したまま、焦って確かめた。
「そんなに急に結婚するなんて、変に勘ぐられないかな? 私は気にしないしうれしいけど、ダイナードの評判にかかわるなら嫌だわ」
子どもが生まれるとか、なにかよっぽどの事情があるのではないかと思われそうだ。
でも、ダイナードは快活に笑って言う。
「大丈夫だ。俺がもうこれ以上、君と離れていたくないだけだと公言する」
「えぇーっ!」
突然の甘い言葉に動揺してしまう。
堅物と言われるダイナードがそんなことを言いだしたら、皆、驚いちゃうわ。
でも、彼は焦れたような目で私を見つめる。
「もう、俺だって限界なんだ。陛下にも結婚の許可が下りたらすぐ式を挙げたいと言ってある」
「陛下にも?」
「……君に触れたい。俺のものにしたい。蕩けた君を見たい。俺の頭の中はもう君でいっぱいなんだ。待つのを止めた俺はこんなに焦れている」
熱い言葉とともにお尻に当たっているものがよりいっそう硬く大きくなるのを感じて、私は顔を赤らめた。
「魔女の魔法を破るほどの精神力のダイナードが?」
「あぁ、君の魅力はそれよりもずっと強力だ。抗えない」
求められている。
そう実感して感激した私はギュッとダイナードに抱きついた。
唇を寄せて身体を押しつける。
でも、ダイナードは私を押しとどめ、横を向いた。
「カーティア、これ以上はだめだ」
「だから、我慢する必要はないのに」
「言っただろう? 君のことが大事だから、ちゃんとけじめをつけたいんだ」
余裕がなさそうな声のくせに、ダイナードは諭してくる。
そう言われてしまうとそれ以上は迫れなかった。
(でも、あと一カ月半。そしたら……)
彼のものになる自分を想像して、にやけてしまった。




