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ウソ?

 唇が腫れるくらいキスをして、見つめ合う。

 ダイナードのいつもは涼やかな瞳が私を溶かすように熱い。

 こんな目で見てもらえる日が来るとは思わなかった。

 もしかしたら、このまま抱いてもらえるかもと期待した。

 二人ともすでに裸なのだから、準備は万端だ。


(閨教育を受けておいてよかった。恥ずかしいけど、私、頑張るわ!)


 ひそかに自分を鼓舞してドキドキしながら待っていたのに、ダイナードは突如、身を離してしまう。

 彼だけ服が戻って、私は裸のままだ。

 やっぱりこの呪いはちゃんと結ばれないと消えないらしい。

 私の身体を見ないように視線をさまよわせたダイナードは、結局また私を抱き寄せた。

 自分に私を密着させ、身体を隠したうえで、顔を覗き込んでくる。

 その真剣なまなざしに、トクッと心臓が跳ねた。


「カーティア、俺と結婚してくれるか?」


 改めてプロポーズされると、うれしくて舞い上がりそうになる。

 私はうんうんと何度もうなずき、彼にしがみついた。

 

「ダイナードと結婚したい。あなた以外は考えられないの……」


 ユリスにごめんなさいと思いながらも、私は即座にダイナードのことを選んでしまった。

 やっぱり私が一生そばにいたいと思うのはダイナードだけだから。

 察しのいいユリスのほうが、私を悲しませることはないのかもしれない。

 それでも――

 切なかったりさみしかったり苦しかったりしても、ダイナードがいい。

 つらいことがあっても、ダイナードと一緒にいたい。

 

「よかった。ユリスと違って気の利かない俺だが、全力で君を守り幸せにすると誓う」


 ほっとしたようにダイナードは口もとを緩め、まるで結婚式のように宣言してくれた。

 本当にダイナードは真面目よね。

 誠実な彼の発した言葉は信じられる。心からそう思ってくれているのだと。


「ありがとう。でも、私はあなたがそばにいてくれるだけで幸せよ」


 あきらめていたのに、ずっとあこがれていた状況が実現して、幸せで幸せでどうにかなりそうになる。

 夢のようだとほわほわしていると、ダイナードも精悍な顔をほころばせて言った。

 

「それでは、さっそくディルール男爵に結婚の許可をもらいに行こう」

「えっ、今から? 抱いてくれないの?」

「だ、抱……っ。順番が違うだろ!」


 上目遣いでねだったら、硬派な彼は顔を赤らめ、うろたえる。

 呪いにかかるまで、動揺しているダイナードなんて想像もつかなかったけど、彼のそんな姿が見られるようになったのはちょっとうれしい。

 両想いだとわかって、心に余裕ができたからよけい、慌てる彼もかわいいと思ってしまう。

 それでも、私は早くダイナードのものになりたかった。

 もちろん、呪いを解きたいという気持ちもある。

 でもそれ以上に、焦がれていた期間が長すぎて、心と身体の底から実感したかったのだ。

 後戻りできない繋がりがほしい気持ちもあった。

 手を出したら、絶対にダイナードは私を見捨てないはずだから。


(信じてないわけじゃないの。でも、確実にあなたのものになりたいの)

 

 切実に抱いてもらいたくて、ダイナードに訴えてみた。


「でも、好きな人と結ばれないと、この呪いは解けないの。二人きりになるたびに裸になるのは落ち着かないじゃない」

「……そのことだが、もう俺のことは嫌いじゃないんだろ? なぜまだ服が消えたままなんだ?」

「あ……」 


 不服そうにダイナードに聞かれて、自分のウソを説明してないことに気づく。

 このところ、彼に隠しごとばかりしていたなと思う。

 私は気まずくて目を伏せ、ぼそぼそと告げた。


「ごめんなさい。ウソだったの」

「なに? 好きだと言ってくれたのはウソだったのか!?」

「違う違う。そっちじゃないわ!」


 ダイナードが目を見開いて迫ってくる。必死の形相が怖いくらいだ。

 それだけ私を好きでいてくれているのかと思うと、彼には申し訳ないけど頬がゆるんでしまう。


(もうっ、そんなわけないのに)


 私が否定したら、ふぅと安堵したようにダイナードは肩の力を抜いた。

 そして、落ち着いた表情になり、改めて先を促す。


「じゃあ、なにがウソなんだ?」

「嫌いな人じゃなくて、好きな人と二人きりになると服が消える魔法だったの」

「好きな人と? それでは……」

「うん、私はずっとあなたのことが好きで嫌いになったことはないわ。その証拠に、いつも服が消えてたでしょう?」


 そう言うと、ダイナードは私の肩に顔を伏せてしまった。

 「よかった……」と溜め息まじりにつぶやく声が聞こえる。

 服が消えるたび、私はダイナードをあきらめられていないと切なくなっていたけれど、ダイナードは自分は嫌われていると感じて、傷ついていたのかもしれない。

 実際、何度も『嫌い』って言ってしまった。

 今さらながら、申し訳なくて、胸が痛くなる。


「ごめんなさい。あなたをあきらめようとしていた時だったから、好きな人とは言えなかったの」

「いや、俺が不甲斐ないせいで、君につらい思いをさせてしまった。申し訳ない。俺は嫌われても自業自得だ。君を尊重するつもりで勝手にまだ幼いと決めつけて、君の気持ちを置き去りにしたままだった。独りよがりだったんだ。本当にバカだ。こんなに大切な存在なのに危うく失うところだった……」


 ダイナードは顔をあげて、私の目を見つめ、謝ってくれる。

 表情を翳らせて悔いている彼の頬を両手で包み、私は微笑みかけた。


「でも、ダイナードが私を大事にしてくれているのはわかっていたのよ? 恋愛に発展しないと嘆いていただけで」

「俺が鈍いばかりにすまない。だが、ちゃんとカーティアを一人の女性として愛している」


 私の手に手を重ねて、ダイナードも笑みを返してくれる。

 もうすれ違わないようにきちんと言葉にしてくれるのがとてもうれしい。

 だけど、ふと気づいたように、ダイナードが首をかしげた。


「そういえば、どうして急に俺をあきらめるという考えになったんだ? なにがきっかけだったのか教えてくれないか? すまないが、いくら考えてもわからなかったんだ」


 たしかに、避け始める前にケンカしたわけでもなにかされたわけでもなかったから、彼からしたらわけがわからなかっただろう。

 そして、私にはまだ彼に謝ることがあったのを思い出した。


「私が毎日のようにダイナードをお昼に誘って時間を奪っていたのが、迷惑だったんでしょう? ごめんなさい。ロザンナさんに愚痴るぐらい邪魔になっていたとは思わなくて、ショックだったの。兄代わりだと公言していたとも聞いたわ。それで、あなたは私の気持ちに応える気がないんだと思って、あきらめようと――」

「ちょっと待て。邪魔なわけがないだろう! 俺はそんなこと思ったこともないし、もちろん言ったこともない!」


 私の言葉を遮り、憤慨したダイナードが手に力を込めて否定した。

 それを信じ込んでいた私は唖然として、彼を見上げた。

 その黒い瞳は真剣で、誠実な彼がウソをついているとは思えなかったけれど、つい聞き返してしまう。

 

「言ったことがない……? だって、ロザンナさんが……」

「ロザンナがそう言ったのか? あいつは俺を操るだけでなく、君にまで害をなしていたとは、許せないな!」

 

 ダイナードは怒りにこぶしを握りしめる。

 そういえば、彼女は悪い魔女だった。

 

(あれはウソ……だったの? 私は騙されていたの?)

  

 彼を避けるきっかけとなった話がそもそも偽りのものだったという可能性に気づいて、愕然となる。

 それでも、ずっと思い悩んでいた私はにわかには納得できなかった。

 言葉を変えて、ダイナードに確かめた。


「私がダイナードにべっとりひっついてたから、部下と交流できなくて困ってるんじゃなかったの?」

「昼休みくらいで、壊れるような関係性ではない。それに業務時間中でも業務後でも、いくらでも交流は深められるしな」


 きっぱりと否定してくれたダイナードに、しつこいようだけど、念を押す。

 

「本当に迷惑じゃなかったの?」

「俺が君を迷惑だと思うことは絶対にない。それに、信じられないかもしれないが、俺は勝手に時期が来たら君と結婚するつもりでいたから、兄代わりだと言うはずもない」


 優しいまなざしでダイナードがそう言って、動揺している私をなだめるように頬をなでてくれる。

 まさか彼がそんなふうに考えてくれていたとは思わなかった。


(そうだったの……。邪魔になってなかった。よかった……)


 私はへなへなと膝の力が抜けてしゃがみこんでしまった。

 ロザンナさんの話が胸の奥に棘のように突き刺さっていたのだ。

 ダイナードが慌てて、私を支えてくれた。


「カーティア、君が気に病むことはなにもなかったんだ」 

 

 そっと愛おしむようにつむじにキスをされて、心が晴れ上がった。

 ほろほろと頬を熱いものが伝わってくる。

 ここしばらく胸にくすぶっていたものが洗い流された気がした。


「よかった……」


 そうつぶやいて、泣き笑いする。心から安堵した。

 でも、涙を拭おうと手を上げたとき――

 そこにべっとりと血がついているのが見えた。


(えっ! なにこれ……?)


 驚愕して手を眺める。それはもちろん、私の血ではない。


「ダイナード?」 


 彼の腕を掴んで後ろを向かせると、案の定、その背中には無数の切り傷があり、深いものからはまだ血が滴っていた。

 廊下でロジーナに攻撃されたときについた傷だろう。

 服に血が滲んでいたのを見ていたはずなのに、忘れていた自分にも腹が立つ。


「すごい怪我じゃない! なんで早く言ってくれなかったの!? 医務室へ行きましょう!」

「大したことはない。大丈夫だ。それよりディルール男爵に会うほうを先にしたい」

「大丈夫じゃないわよ! 私を幸せにするっていう約束をもう忘れたの? あなたになにかあったら、私は幸せになれないのよ?」


 怒って言うと、凛々しい眉をへにょっと下げたダイナードが素直に謝った。 


「すまない。気が急いて。早く君の隣にいる権利が欲しくなってしまったんだ。でも、そうか、君の幸せの中に俺が含まれているのだな……」


 ダイナードは口もとに手を当て、うれしさを堪えるようなしぐさをした。

 その姿にときめき、抱きしめたくなる。

 

(どうしよう? ダイナードがかわいい)


 悶えるような気持ちを抑え、私は彼を医務室へ引っ張っていった。



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