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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第2章 切る者たちに、追われて

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第4話 共に逃げ、同じ場所で止まれなかった

 夜明け前の森は、息を潜めていた。


 ミルナは焚き火を作らなかった。

 代わりに、地面に指で線を引き、闇を“折りたたむ”。


「ここなら、気配は散るよ」


 淡々とした口調。

 だが、その手つきは慣れきっていた。


 少年は、それを見て思う。

 ――この人は、逃げ続けてきた。


 自分と、同じだ。


 だが、逃げ方が違う。


「神殿の追跡、まだ続いてる?」


 ミルナの問いに、エルディアが頷く。


「祈祷官が三隊。

 あと半日で追いつく」


「早いね」


 ミルナは、少しだけ口角を上げた。


「じゃ、寄り道しよ」


 カイルが眉をひそめる。


「ふざけている場合じゃない」


「ふざけてないよ」


 ミルナは、真っ直ぐ彼を見た。


「このまま逃げても、街みたいになるだけ」


 空気が重くなる。


 少年の胸が、きゅっと縮んだ。


「……何をするつもりですか」


「潰す」


 即答だった。


「祈祷陣。

 あれがある限り、神殿はどこでも“街を切れる”」


 エルディアが息を呑む。


「そんなことをすれば……」


「人が助かる」


 ミルナは言い切った。


「少なくとも、次の街は」


 沈黙。


 正論だった。

 だからこそ、誰もすぐに否定できない。


 カイルが剣に手をかける。


「やるなら、俺が前に出る」


「ありがと」


 ミルナは軽く言った。


「でも、殺さなくていい。

 壊すのは“陣”だけ」


 こうして、奇妙な共闘が始まった。


 祈祷陣は、森の縁に設営されていた。


 白布。結晶。刻まれた神紋。

 静かに、だが確実に力を集めている。


「……これが」


 少年は、息を呑んだ。


「街を切ったもの?」


「そう」


 ミルナは、闇に身を溶かす。


「三つ数えたら、壊すよ」


「待て」


 少年の声が、思ったより大きく響いた。


 全員が振り向く。


「……壊したら、どうなりますか」


 ミルナは、少しだけ困った顔をした。


「反動が来る」


「誰に」


「張ってる祈祷官たち」


 少年の喉が鳴る。


「死ぬ……?」


「可能性はある」


 軽い口調。

 だが、嘘はない。


「でも」


 ミルナは続けた。


「放っておけば、もっと死ぬ」


 カイルが、少年を見る。


「決めろ」


 短い言葉。


 エルディアは、何も言わなかった。

 言えなかった。


 少年は、祈祷陣を見つめた。


 白い光。

 整然とした美しさ。


 ――これが、“善意”だ。


 それを壊す。


 それは、逃げだろうか。


「……待ってください」


 少年は、一歩前に出た。


「壊すなら、

 僕が離れてからにしてください」


 ミルナが、目を見開く。


「それ、意味ある?」


「あります」


 少年は、震えながらも言った。


「僕が近くにいると……

 きっと、鍵が何かする」


 全員が息を詰めた。


 エルディアが、低く呟く。


「……境界干渉」


 ミルナは、舌打ちした。


「やっぱり、そうか」


 少年は、はっきりと首を振った。


「僕は……

 この壊し方には、賛成できません」


 空気が、張りつめる。


「でも、あなたがやることも、否定しません」


 ミルナの目が揺れた。


「……優しすぎ」


「臆病なだけです」


 少年は、苦く笑った。


「誰かを守るために、

 誰かを切る選択が、できない」


 沈黙のあと、ミルナは背を向けた。


「じゃあ、別行動だね」


 その声は、少しだけ掠れていた。


「私は壊す。

 あなたは……運ぶ」


 闇が、彼女を包む。


 消える直前、ミルナは振り返った。


「でも覚えといて」


 少年の胸に、言葉が刺さる。


「壊す覚悟がないなら、

 いつか、もっと酷い形で奪われる」


 次の瞬間、祈祷陣が崩壊した。


 光が弾け、地面が揺れる。


 悲鳴。


 怒号。


 混乱。


 その中心に、少年はいなかった。


 彼は、森の奥で立ち尽くしていた。


 壊すことも、使うことも、選ばなかった。


 だが――

 選ばなかったという選択は、確かに世界を動かしていた。


 カイルが、低く言う。


「……分かれたな」


 エルディアは、静かに頷いた。


「ええ。

 もう、戻れない」


 少年は、鍵を見た。


 それは、いつも通り、重かった。


 けれど少しだけ、

 自分の意思の重さが、上に乗った気がした。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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