表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第2章 切る者たちに、追われて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/23

第2話 逃げた先で、守れなかったもの

 街は、思っていたよりも近かった。


 木々が途切れ、石畳が現れたとき、少年は思わず息を吐いた。

 人の声がある。灯りがある。壁がある。


「……助かった」


 小さく呟いたその言葉に、エルディアは何も返さなかった。


 街は、交易路の分岐点に作られた小都市だった。

 王都ほど大きくはないが、宿も、市場も、神殿の分院もある。


 ――神殿。


 その建物を視界に入れた瞬間、少年の胸がざわついた。


「ここに入るのは、危険じゃ……」


「分かっているわ」


 エルディアは低く答えた。


「でも、ここで補給しなければ、

 次の森を越えられない」


 正論だった。

 だからこそ、否定できない。


 街は、まだ平穏だった。

 人々は噂話をし、商人は声を張り上げ、子どもたちは走り回っている。


 少年は、その光景がひどく遠いものに感じられた。


 自分だけが、異物だ。


 宿で短い休息を取ったあと、三人は分かれて行動することになった。


エルディア:食料の調達


カイル:情報収集


少年:宿に残る


「目立つな」


 カイルの言葉に、少年は頷いた。


 ――その判断が、遅かった。


 昼を過ぎたころ、街に違和感が走った。


 ざわめきが、少しずつ消えていく。

 風の流れが、昨日と同じように歪む。


「……また」


 少年は立ち上がり、窓に近づいた。


 通りの先に、白い外套が見えた。


 一人、二人、三人。


 大神殿の祈祷官たちが、街に入ってきている。


「……来た」


 逃げなければ。


 そう思った瞬間、鐘が鳴った。


 街の中央にある神殿の鐘だ。

 警告でも、祝福でもない。


 ――隔離の合図。


 通りの両端で、淡い光の膜が張られる。

 人々が悲鳴を上げ、走り出す。


「な、何だ!?」


「外に出られないぞ!」


 少年は、動けなかった。


 これは――自分のせいだ。


 白衣の神官が、街の中央で声を上げる。


「恐れる必要はありません。

 これは浄化です」


 その言葉と同時に、祈りの光が広がった。


 光に触れた人々が、次々と膝をつく。

 意識を失い、倒れていく。


「……やめろ」


 声にならない。


 エルディアが駆け込んできた。


「街全体を、祈祷結界で覆っている……!」


「これじゃ、逃げられない……」


「違う」


 エルディアは少年の肩を掴んだ。


「あなたは、ここにいちゃいけない」


 そのとき、通りの奥から、カイルが剣を抜いて現れた。


「南門が突破できる」


「……被害は?」


「すでに出ている」


 カイルは一瞬だけ、視線を伏せた。


「だが、全滅じゃない」


 少年の胸が、締め付けられる。


「僕が……」


「違う」


 カイルの声は、強かった。


「選んだのは、あいつらだ」


 だが、その言葉は、完全な救いにはならなかった。


 南門へ向かう途中、少年は見た。


 倒れた人々。

 泣き叫ぶ子ども。

 祈祷官に連れられていく数人の市民。


 ――自分が、ここに来なければ。


 その思いが、頭から離れない。


 南門の結界を、エルディアが強引にこじ開ける。


「走って!」


 三人は、街を飛び出した。


 背後で、鐘がもう一度鳴る。


 街は、完全に隔離された。


 森に入ってしばらくしてから、少年は立ち止まった。


「……僕は、間違ってますか」


 エルディアは答えない。


 カイルが、低く言った。


「間違っていない」


「でも……人が、傷ついた」


 カイルは、少年を見た。


「それでも、使わなかった」


 沈黙。


「それが、お前の選択だ」


 少年は、鍵を握りしめた。


 逃げた。

 拒んだ。

 そして――守れなかった。


 だが、その重さを、

 初めて“自分のもの”として抱えた気がした。


 背後で、街の灯りが見えなくなる。


 少年は、振り返らなかった。


 振り返れば、

 きっと、戻れなくなるから。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ