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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第2章 切る者たちに、追われて

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幕間 神は、すでに数を数えている

 大神殿の最深部は、音が存在しない。


 外界の風も、祈りのざわめきも届かないその空間で、白衣の神官たちは円環状に立っていた。足音すら許されず、床に刻まれた紋章の上に、影だけが重なる。


「――確認されたのだな」


 中央に立つ老神官が、低く問いかけた。


「はい」


 応じたのは、先ほど現地から戻ったばかりの祈祷官だった。

 額には汗が滲んでいる。


「《閉界の鍵》が、完全に目覚めました」


 その言葉に、誰も声を上げない。

 だが、空気がわずかに沈んだ。


「担い手は?」


「少年です。

 能力なし。戦闘経験なし。

 ――極めて臆病」


 一人の神官が、苦い表情を浮かべた。


「……最悪だな」


 老神官は、静かに首を振る。


「いいや。最善だ」


 視線が集まる。


「《閉界の鍵》は、力を求める者には反応しない。

 英雄にも、王にも、信仰者にもだ」


 老神官は、床の紋章を見下ろした。


「だからこそ、

 選ばれない者が選ばれる」


 沈黙。


 別の神官が、慎重に口を開く。


「……使われる可能性は?」


「低い」


 即答だった。


「彼は、拒否する。

 祈祷隊の報告からも、それは明白だ」


「ならば、放置しても――」


「できない」


 老神官の声は、冷たかった。


「鍵が“存在する”こと自体が、問題なのだ」


 神官たちの前に、淡い光が浮かび上がる。

 七つに分かれた世界の図。


「神々の干渉は、すでに限界に近い」


 老神官は言葉を続ける。


「《閉界の鍵》が完全に発動すれば、

 我々は――ここにはいられない」


 一人の若い神官が、思わず息を呑んだ。


「神が……消える、と?」


「正確には、届かなくなる」


 老神官は目を閉じた。


「祈りは返らず、奇跡は起こらず、

 神殿は、ただの石になる」


 それは、死よりも重い未来だった。


「だからこそ」


 老神官は、ゆっくりと宣言する。


「《閉界の鍵》は、神殿が管理する」


「……担い手は?」


 しばしの沈黙。


「生かす」


 だが、すぐに続けた。


「意思は不要だ」


 誰も反論しなかった。

 それが、この場所での答えだった。


「追跡を継続せよ」


 老神官の杖が床を打つ。


「神は、まだこの世界を手放さない」


 円環の外で、鐘が鳴った。


 それは祈りの音ではない。

 狩りの合図だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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