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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第6章 沈殿層Ⅱ ― 影の世界で、切る者と出会う

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第4話 選別の記録

 記録庫は、

 集落のさらに奥にあった。


 扉は低く、

 屈まなければ入れない。


 まるで、

 頭を下げることを強要するかのように。


「ここだ」


 カイナが言った。


 焚き火の場から、

 誰も連れてこなかった。


 この場所は、

 感情を入れる場所ではない。


 中は、冷えていた。


 湿気もない。

 埃も少ない。


 人の手が、

 定期的に入っている証拠だ。


「……これは」


 壁一面に、

 石板と結晶が並んでいる。


 どれも、

 番号と記号だけが刻まれていた。


「選別記録だ」


 カイナは、

 淡々と言った。


「閉界判断の全ログ」


 少年の喉が、

 鳴る。


「……全部、

 ここに?」


「残っている分はな」


 カイナは、

 一枚の結晶を手に取った。


 光が走り、

 空中に数字が浮かぶ。


「境界崩壊予測:

 七二%」


「資源回復見込み:

 一一%」


「連鎖沈殿確率:

 八八%」


 無機質な数値。


 だが、

 それは命の重さだった。


「……この数字で」


 少年の声が、

 掠れる。


「切ったんですか」


「切った」


 カイナは、

 一切迷わず言った。


「このまま拒否が続けば、

 全滅する」


「切れば、

 七割が残る」


「なら、

 切る」


 論理として、

 完璧だった。


「……その七割は」


「今も、

 上にいる」


 少年は、

 目を伏せた。


 ノクティル。

 地図から消えた村。


 あれも、

 こうした判断の末だったのか。


「……人の名前は」


「ここには、

 記録しない」


 カイナは、

 首を振った。


「名前を書けば、

 判断が鈍る」


 少年の胸に、

 重いものが落ちる。


「……それは」


「冷酷だな」


 カイナは、

 自分で言った。


「だが、

 意図的だ」


 別の石板を示す。


「これは、

 拒否が介入したケースだ」


 少年は、

 息を呑む。


 数字が、

 乱れている。


「判断遅延:

 三分二十秒」


「結果:

 沈殿拡大」


「生存率:

 三四%」


 胸が、

 締め付けられる。


「……拒否が」


「判断を遅らせた」


 カイナは、

 事実だけを言う。


「三分あれば、

 切れた」


「三分遅れたから、

 切りきれなかった」


「……それで」


「沈んだ」


 少年は、

 言葉を失った。


 拒否が、

 直接的な死因になっている。


「……俺は」


 絞り出すように言う。


「人を、

 殺したのか」


 カイナは、

 即答しなかった。


 それが、

 答えだった。


「……断定は、

 しない」


 やがて、

 そう言った。


「だが」


 間。


「無関係ではない」


 前と、同じ言葉。


 逃げ場は、

 完全に塞がれた。


「……それでも」


 少年は、

 唇を噛む。


「切ることが、

 正しいとは……」


「言っていない」


 カイナは、

 静かに遮った。


「私は、

 正しさを語っていない」


「責任の所在を

 示しているだけだ」


 その言葉は、

 重かった。


「拒否は、

 責任を分散させる」


「だが、

 分散された責任は」


 カイナは、

 石板を指で叩く。


「誰も引き受けない」


 沈黙。


 数字が、

 宙に浮かんだまま、

 消えない。


「……俺は」


 少年の声は、

 ほとんど聞こえなかった。


「……どうすれば」


 カイナは、

 初めて視線を和らげた。


「答えは、

 二つだ」


「切る側に回る」


「もしくは」


 間。


「ここから去る」


 少年は、

 理解した。


 影層は、

 拒否を許容しない。


 それは、

 感情ではなく

 構造の問題だ。


「……考えさせてください」


「一晩だ」


 カイナは、

 そう言った。


「明日、

 返事を聞く」


 記録庫を出ると、

 影層の暗さが、

 一層重く感じられた。


 数字は、

 嘘をつかない。


 拒否は、

 理想を語れる。


 だが、

 現実を救わない。


 少年は、

 鍵を見つめた。


 それは、

 相変わらず重い。


 拒否は、

 もう無垢ではない。


 それでも、

 手放す気にはなれなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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