第3話 拒否は、罪だ
夜は、深くならなかった。
影層では、
暗さが増すことはあっても、
静かになることはない。
どこかで石が擦れ、
どこかで息が荒れる。
少年は、
焚き火から少し離れた場所に座っていた。
誰も話しかけてこない。
それが、
条件付き滞在の意味だった。
「……寝ないのか」
低い声。
顔を上げると、
若い男が立っていた。
年は二十前後。
装備は軽く、
動きやすさを重視している。
「……眠れなくて」
「そうだろうな」
男は、
焚き火の反対側に腰を下ろした。
「ここは、
眠れる場所じゃない」
短い沈黙。
「……話があるなら、
聞きます」
少年が言うと、
男は一瞬だけ眉を動かした。
「察しがいいな」
それは、
褒め言葉ではなかった。
「俺の名前は、
ロウ」
簡単な名乗り。
「……あなたは」
「切る側だ」
即答。
「切る判断を、
最後まで下した」
少年の胸が、
ずきりと痛む。
「……それで」
ロウは、
焚き火を見つめたまま言った。
「俺の村は、
半分、残った」
「……半分」
「残り半分は、
迷っている間に沈んだ」
少年の喉が、
鳴る。
「……拒否が」
「そうだ」
ロウは、
静かに言った。
「拒否があった」
責める声ではない。
だが、
事実を述べる声だった。
「切る判断が、
一瞬遅れた」
「……俺は」
少年は、
言葉を探す。
「誰かを沈めた
つもりは……」
「知ってる」
ロウは、
即座に言った。
「だから、
余計に質が悪い」
その一言が、
鋭かった。
「切る側は、
覚悟して沈める」
「だが、
拒否する側は」
ロウは、
少年を見る。
「沈んだ者の顔を、
見ない」
少年は、
言葉を失った。
「……俺は」
「逃げている、
とは言わない」
ロウは、
淡々と続ける。
「だが」
間。
「責任を、
引き受けていない」
焚き火が、
ぱちりと音を立てた。
「俺は、
今も夢を見る」
ロウの声が、
少しだけ低くなる。
「沈んだ村の、
夜明けだ」
「切ったはずなのに、
間に合わなかった」
少年の胸が、
締め付けられる。
「……それは」
「お前のせいだ、
と言いたいわけじゃない」
ロウは、
はっきり言った。
「だが、
無関係でもない」
その言葉は、
逃げ場を奪った。
「拒否があったから、
判断が遅れた」
「判断が遅れたから、
多くが沈んだ」
「それだけだ」
単純で、
残酷な因果。
「……俺は」
少年の声は、
震えていた。
「どうすれば、
よかった」
ロウは、
すぐには答えなかった。
長い沈黙の後、
静かに言う。
「分からない」
意外な答え。
「だから、
ここにいる」
影層。
「だが」
ロウは、
少年を見据える。
「一つだけ、
はっきりしている」
「……何ですか」
「拒否は、
無垢じゃない」
少年の胸に、
深く沈む。
「善意でも、
救済でもない」
「ただの、
選択だ」
ロウは、
立ち上がった。
「選択には、
必ず死人が出る」
「それを、
忘れるな」
それだけ言って、
ロウは去った。
少年は、
その場に残された。
焚き火の熱が、
肌に伝わらない。
「……罪」
小さく、
呟く。
拒否は、
罪なのか。
答えは、
まだ出ない。
だが、
一つだけ確かなことがある。
ここでは、
拒否は
裁かれる。
影層は、
沈黙でそれを示していた。
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