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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第5章:沈殿層Ⅰ ― 灰の世界を歩く

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第4話 拒否が壊すもの

 その夜、

 眠りは浅かった。


 夢を見ていたわけではない。

 ただ、

 地面が落ち着かない。


 少年は、

 何度も寝返りを打ち、

 やがて身を起こした。


 外が、

 妙に明るい。


 灰色の空が、

 夜なのに薄白く揺れている。


「……何だ」


 立ち上がった瞬間、

 足元が、わずかに沈んだ。


 柔らかい。


 いや――

 軽すぎる。


 嫌な予感が、

 一気に胸を満たす。


 外に出ると、

 集落が騒がしかった。


「地面が、

 浮いてる!」


「畑が、

 崩れるぞ!」


 人々が、

 家の外へ飛び出している。


 少年は、

 駆け寄った。


「……エルグ!」


 畑の中央で、

 エルグが地面に膝をついていた。


 土が、

 砂のように流れている。


「……来るな」


 エルグは、

 低く言った。


「境界が、

 薄くなってる」


 その言葉と同時に、

 地面が、

 波打った。


 建物の一つが、

 きしみを上げる。


 柱が傾き、

 壁がひび割れる。


「……拒否が、

 原因か」


 少年は、

 鍵を強く握った。


 静かだ。


 だが、

 静かすぎる。


「……使って、

 安定させろ」


 誰かが叫んだ。


「拒否を、

 止めろ!」


 少年の喉が、

 ひくりと鳴る。


「……俺は」


 拒否を、

 止めている。


 何もしていない。


 だが――

 存在している。


「違う」


 エルグが、

 叫び返す。


「使うな!」


 次の瞬間、

 地面が、

 大きく沈んだ。


 家屋の一角が、

 崩れ落ちる。


 土煙が上がり、

 悲鳴が混じる。


 少年は、

 反射的に走り出した。


「……誰か、

 中に!」


 倒れた梁の下に、

 人影が見える。


 少年は、

 必死に引き抜こうとした。


 だが、

 手応えがない。


 梁が、

 軽すぎる。


 掴んだはずの木が、

 崩れて灰になる。


「……っ!」


 拒否が、

 現実を薄くしている。


 理解してしまった。


 切らせない力は、

 境界を縫い止める。


 だが、

 ここは沈殿層。


 縫い止めれば、

 浮き上がる。


「……離れろ!」


 エルグが、

 少年を突き飛ばした。


「お前がいると、

 ここが壊れる!」


 その言葉は、

 正しかった。


 少年は、

 地面に転がり、

 息を呑む。


 視界の端で、

 裂け目が見えた。


 小さな、

 白い亀裂。


 沈殿層と、

 さらに下の層。


 ――落ちる。


 嫌な予感。


「……下に、

 引かれる!」


 誰かが叫ぶ。


 その瞬間、

 一人の男が、

 裂け目に足を取られた。


「……っ!」


 少年は、

 反射的に手を伸ばす。


 だが、

 指先が触れた瞬間――


 拒否が、

 反応した。


 鍵が、

 熱を持つ。


 世界が、

 きしむ。


「……やめろ!」


 エルグの叫びが、

 遠くなる。


 裂け目が、

 広がった。


 だが、

 完全には開かない。


 宙吊りの状態。


 男は、

 助かった。


 代わりに――

 別の場所が、沈んだ。


 集落の外れ。


 古い家屋が、

 音もなく消える。


 誰もいなかった。

 だが――

 確かに、

 生活の跡だった。


 揺れが、

 止まった。


 夜が、

 戻る。


 静寂。


 少年は、

 膝をついた。


「……俺が」


 声が、

 震える。


「俺が、

 壊した」


 誰も否定しなかった。


 それが、

 一番きつかった。


 エルグが、

 ゆっくり歩み寄る。


「……言っただろう」


 責める声ではない。


「拒否は、

 ここでは毒だ」


 少年は、

 何も言えなかった。


 助けた。

 確かに、

 一人は助けた。


 だが、

 別の何かを、

 確実に失わせた。


「……出て行け」


 エルグは、

 静かに言った。


「今すぐじゃない」


 間。


「だが、

 長くは置けない」


 少年は、

 深く頭を下げた。


「……すみません」


 それ以上の言葉は、

 出なかった。


 その夜、

 誰も少年に声をかけなかった。


 責められないことが、

 何より重い。


 寝床で、

 鍵を見つめる。


 拒否は、

 誰かを救う。


 だが、

 必ず、

 別の何かを壊す。


 それを、

 初めて

 身体で理解した。


 灰層の夜は、

 以前より

 ずっと冷たかった。


 そして、

 少年は知る。


 拒否は、

 善ではない。


 ただの、

 選択の一つなのだと。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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