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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第5章:沈殿層Ⅰ ― 灰の世界を歩く

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第3話 歓迎されない拒否

 その日の夕方、

 集落の中央に人が集まった。


 広場と呼ぶには狭い。

 だが、ここでは

 意見を交わす場所だった。


 誰かが呼んだわけではない。

 ただ、空気がそうなった。


 少年は、

 エルグの向かいに立っていた。


「……話がある」


 そう切り出したのは、

 エルグの方だった。


「昨日から、

 あんたのことが

 広まっている」


 少年は頷いた。


「拒否を、

 続けていると聞いた」


「ええ」


 迷いはなかった。


「切る選択を、

 止めています」


 周囲が、

 わずかにざわつく。


 だが、

 怒号は上がらない。


「それは」


 エルグは、

 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「ここでは、

 好まれない」


 少年は、

 覚悟していた。


「……理由を、

 聞かせてください」


 エルグは、

 空を見上げた。


 灰色の空は、

 相変わらず薄い。


「俺たちは、

 降りた」


 昨日と同じ言葉。


「切られる前に、

 選んだ」


「……だから」


 少年は、

 言葉を継ぐ。


「切らせない俺は、

 余計だと?」


「余計、ではない」


 エルグは、

 首を振った。


「危うい」


 その言葉が、

 静かに落ちた。


「拒否は、

 境界を揺らす」


「……それは」


「知っているだろう」


 エルグは、

 少年の胸元を見る。


「鍵は、

 静かすぎる」


 少年は、

 無意識に鍵を握った。


「共鳴していない、

 ということだ」


 エルグは続ける。


「ここでは、

 拒否が居場所を持たない」


 少年は、

 反論を探した。


「でも……

 このままでは」


「何がだ」


「上が……

 また切られる」


 その言葉に、

 エルグは即座に返した。


「切られるなら、

 それは上が選ぶ」


 冷たい言い方ではない。


「俺たちは、

 もう選んだ」


 少年の胸が、

 締め付けられる。


「……それでも」


「それでも、

 何だ」


「切られた世界が、

 増え続ける」


 エルグは、

 しばらく黙った。


 そして、

 静かに言った。


「だから、

 増えすぎないように、

 降りた」


 その理屈は、

 完璧だった。


「拒否が続けば」


 エルグは、

 一歩近づく。


「境界は、

 決められなくなる」


「……それが、

 良いことでは?」


「違う」


 はっきりした否定。


「迷っている世界は、

 一番壊れやすい」


 少年は、

 言葉を失う。


 ノクティル。

 地図から消えた村。


 思い当たる節が、

 いくつも浮かぶ。


「拒否は、

 選択を先送りする」


 エルグの声は、

 責めていない。


「だが、

 選択しないという選択は、

 必ず誰かに重くなる」


 沈黙。


 周囲の人々は、

 口を挟まない。


 それが、

 答えだった。


「……あんたは」


 エルグは、

 最後に言った。


「ここに来て、

 何をしたい」


 少年は、

 正直に答えた。


「切らせないために、

 世界を回る」


「そのために、

 俺たちを使うのか」


「違う!」


 反射的に声が出る。


「……使うつもりは」


「結果は、

 同じだ」


 エルグは、

 視線を逸らさなかった。


「拒否は、

 上の世界のための行為だ」


 その一言が、

 決定打だった。


「俺たちは、

 もう上を守らない」


 少年の喉が、

 鳴る。


「……じゃあ」


 絞り出すように言う。


「俺は、

 どうすればいい」


 エルグは、

 少しだけ驚いた顔をした。


 そして、

 正直に答えた。


「今は、

 何もしないことだ」


「……何も」


「拒否を、

 ここに持ち込まない」


 それは、

 拒絶だった。


 だが、

 理にかなっている。


「ここでは、

 拒否は毒になる」


 エルグは、

 そう言い切った。


 少年は、

 唇を噛んだ。


 正しいと思っていた。


 だが、

 正しさは場所を選ぶ。


「……分かりました」


 ようやく、

 そう言えた。


 エルグは、

 小さく頷いた。


「理解してくれたなら、

 それでいい」


 人々は、

 静かに散っていった。


 何事もなかったように。


 だが、

 少年の中では、

 何かが確実に壊れていた。


 夜、

 寝床で鍵を見つめる。


 拒否は、

 使えば救いになる。


 だが、

 使わなければ、

 存在そのものが揺らぐ。


「……俺は」


 呟きは、

 闇に溶けた。


 正しさを持ち込めば、

 居場所を失う。


 それが、

 灰層の答えだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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