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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第4章 境界は、選ばれていた

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第6話 ミルナの名を呼ぶ者

 ノクティルの夜は、

 昼よりも人が多い。


 それは、灯りのせいではない。

 境界が近づく時間帯だからだ。


 少年は、街のさらに奥へと歩いていた。

 地上ではない。

 地下でもない。


 半分、沈んだ区画。


 舗装は途中で途切れ、

 石畳の隙間から、影が滲み出している。


 ――ここから下は、

 もう「街」ではない。


「……来たか」


 声は、背後からだった。


 振り返ると、

 昼間に見た黒髪の子どもが立っている。


「また、君か」


 子どもは、首を傾げた。


「呼んだから」


「……誰を」


 子どもは、少年の胸元を見た。


「その奥の人」


 心臓が、強く打った。


「……ミルナ?」


 その名を口にした瞬間、

 空気が、わずかに沈んだ。


 街灯が、一つ消える。


「その名前は、

 上の呼び方」


 子どもは、静かに言った。


「下では、

 違う名前で呼ばれてる」


「……違う名前?」


 子どもは、少し考える素振りを見せた。


「“欠け目”」


 少年の喉が鳴る。


「欠け目……?」


「うん」


 子どもは、足元の影を踏む。


「世界が切れなかったところ」


 その説明は、

 あまりにも正確だった。


「……彼女は」


 言葉が、詰まる。


「消えたんじゃないのか」


 子どもは、はっきりと首を振った。


「沈んだ」


 断言だった。


「沈殿層に、

 溶けた」


 少年の胸が、締め付けられる。


「それは……

 生きている、ということか」


 子どもは、少し困った顔をした。


「個体としては、

 終わった」


 その言葉が、重い。


「でも、

 役割は残った」


 子どもは、影の濃い方へ歩き出す。


「来て」


 少年は、一瞬迷った。


 だが、足は自然と動いていた。


 影の中は、

 ひどく静かだった。


 音が、遠い。


 歩くたびに、

 地面がわずかに沈む感触がある。


「ここは……」


「灰層の縁」


 子どもは言う。


「まだ、戻れる場所」


 やがて、

 小さな空間に出た。


 天井は低く、

 壁は歪んでいる。


 中央に、

 淡く光る“裂け目”があった。


 人の形ではない。

 だが、確かに――

 意志を感じる。


「……ミルナ?」


 問いかけると、

 光が、わずかに揺れた。


 声は、直接聞こえない。


 だが、

 意味だけが流れ込んでくる。


――壊したくて、

 壊したわけじゃない。


 少年の目が、見開かれる。


――切られ続けるのが、

 嫌だった。


 感情が、胸に落ちる。


「……君は」


 言葉が、震える。


「君は、

 何だったんだ」


 答えは、

 はっきりしていた。


――最初は、

 ひとり。


――でも、

 すぐに違うと分かった。


 光が、

 少しだけ強くなる。


――私たちは、

 同じ欠け目から、

 何度も生まれている。


 少年は、息を呑んだ。


「……“私たち”?」


――世界が、

 切れなかった場所。


――そこに、

 必ず生まれる。


 拒否。


 裂け目。


 境界反応。


「……だから」


 少年の声が、かすれる。


「君は、

 壊したがった」


――壊さないと、

 また切られる。


 理屈ではない。

 生存反射だった。


「……それでも」


 少年は、一歩近づいた。


「それでも、

 君は傷ついた」


 光が、

 一瞬揺らぐ。


――あなたが、

 止めた。


 その言葉が、

 すべてだった。


「……ごめん」


 少年は、膝をついた。


「守ったつもりで……

 君を、壊した」


――違う。


 即答。


――あなたは、

 初めて止めた。


 沈黙。


 子どもが、静かに言う。


「だから、

 ここに残ってる」


「……何が」


「意思」


 子どもは、胸に手を当てる。


「下では、

 それが一番重い」


 裂け目の光が、

 ゆっくりと脈打つ。


――拒否は、

 ひとりだと、

 裂ける。


――でも、

 繋がれば、

 境界になる。


 少年は、

 その言葉を、

 確かに受け取った。


「……君は、

 戻れるのか」


――戻らない。


 迷いのない答え。


――私は、

 ここに残る。


「……なぜ」


――次に、

 落ちてくる人がいる。


 少年は、目を閉じた。


 あまりにも、

 残酷で、

 優しい選択。


「……君の名前は」


 しばらく、

 沈黙が続いた。


 やがて、

 微かな感覚が返る。


――上では、

 ミルナ。


――下では、

 ミルナたち。


 それで、

 十分だった。


「……ありがとう」


 裂け目の光が、

 ゆっくりと薄れる。


 子どもが、少年の袖を引いた。


「もう、行かなきゃ」


「……ここは」


「長くいれば、

 街が沈む」


 地上に戻ると、

 ノクティルの夜は、

 何も変わっていなかった。


 人々は笑い、

 灯りは揺れ、

 音楽が聞こえる。


 だが、少年には分かる。


 この街の下には、

 拒否が溜まり始めている。


 それは、

 救いでもあり、

 危険でもある。


 鍵を握る。


 静かだ。


 だが今度は、

 孤独ではなかった。


 拒否は、

 確かに――

 受け継がれている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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