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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第1章 臆病者は、鍵を拾った

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第2話 逃げた先で、世界は壊れた

 夜は、静かすぎるほど静かだった。


 風が止み、虫の声も聞こえない。

 村に戻った少年は、その異変にすぐ気づいた。だが、気づいたところで何ができるわけでもない。


「……今日は、嫌な夜だな」


 独り言のつもりだった言葉は、闇に吸い込まれて消えた。


 家の戸を閉め、簡素な寝台に横になる。

 目を閉じても、昼間の老人の言葉が頭から離れなかった。


――世界が、これ以上壊れないための守り。


 意味は分からない。

 分からないが、分からないままにしておきたい言葉だった。


 少年が浅い眠りに落ちかけた、そのときだった。


 遠くで、何かが砕ける音がした。


 次の瞬間、甲高い悲鳴が夜を裂いた。


「……っ!」


 体が跳ね起きる。

 家の外が、赤く染まっていた。


 炎だ。


 村の入り口付近から、火の手が上がっている。

 混乱した叫び声と、獣の咆哮が重なり合い、頭が真っ白になる。


 ――魔物だ。


 考えるより先に、体が動いた。

 少年は外へ飛び出し、人の流れとは逆方向へ走り出す。


「逃げろ! 森へ行くな!」


「子どもを先に――!」


 声が飛び交う。

 誰かが転び、誰かが泣き叫び、誰かがもう動かない。


 それらを直視する勇気はなかった。


 臆病者は、臆病者らしく走った。

 ただ、助かりたい一心で。


 気がつけば、祠の前に立っていた。


「……なんで、ここに」


 足が、勝手に向いていたのかもしれない。

 あるいは、他に逃げ場がなかっただけか。


 背後で、獣の影が揺れた。


 恐怖に押されるように、少年は祠の中へ転がり込む。

 その瞬間、衝撃が走った。


 ――祠が、壊れた。


 石が崩れ、像が傾き、鈍い音を立てて倒れる。

 粉塵の中で、何かが転がり出た。


 小さな、鉄の音。


 少年の足元に落ちたそれは、あまりにも普通の――鍵だった。


「……え?」


 手に取った瞬間、世界が変わった。


 音が、消えた。


 燃え盛る炎の音も、魔物の咆哮も、悲鳴も、すべてが遠のく。

 まるで、見えない壁が下りたかのように。


 祠の外で、魔物たちが一斉に立ち止まった。


 唸り声を上げながらも、それ以上近づこうとしない。

 いや――近づけない。


 少年の喉が、ひくりと鳴った。


「……なに、これ」


 答えは返らない。


 だが、背後から、かすれた声が聞こえた。


「それを……持つな……!」


 振り返ると、老人がいた。

 血を流しながらも、必死にこちらへ手を伸ばしている。


「それは……閉じるための……」


 言葉は、最後まで届かなかった。


 次の瞬間、老人の背後に影が落ちる。

 巨大な顎が開き――


「――っ!」


 少年は、目を背けた。


 聞こえたのは、短い断末魔だけだった。


 膝が笑い、その場に崩れ落ちそうになる。

 それでも、鍵を握る手だけは、離れなかった。


 ――離れなかった、のではない。


 離せなかった。


 祠の外で、魔物たちが苛立ったように地面を引っ掻く。

 だが、結界のような“何か”を越えられず、やがて闇の中へと引いていく。


 炎の音が、戻ってきた。


 現実が、戻ってきた。


 少年は、震える足で祠を出た。


 そこにあったのは、村だったものだ。


 焼け落ちた家。

 倒れた柵。

 動かない人影。


 助かった者は、ほとんどいない。


「……僕が……」


 言葉にならない罪悪感が、胸を締め付ける。


 逃げた。

 逃げて、生き残った。


 そして――生き残ってしまった。


 少年は、鍵を見つめた。


 鉄の鍵は、何の感情も示さない。

 ただ、冷たく、重く、手の中にあった。


 その夜、村は完全に滅びた。


 そして同時に、

 世界を終わらせるための鍵が、目を覚ました。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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