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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第3章 拒否は、代償を伴う

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第4話 守ったものと、失ったもの

 金属の音は、祈りよりも現実的だった。


 重く、規則正しい足音。

 鎧が擦れ合う音が、森の奥から迫ってくる。


「……王権だ」


 ミルナが、低く吐き捨てる。


「今回は、本気」


 少年の喉が鳴った。


 白でもなく、闇でもない。

 ただ勝つために来る人間たち。


 最も、逃げ場のない相手。


 やがて、銀の鎧が視界に現れた。


 整然とした隊列。

 無駄のない動き。


 その先頭に――


「……カイル」


 思わず、名を呼んでいた。


 剣を下げ、兜を外した男が、そこにいた。


 見慣れた顔。

 だが、目だけが違う。


 迷いを捨てた者の目。


「……生きていたか」


 声は、低く、静かだった。


「追われてるって聞いてた」


 少年は、一歩前に出た。


「あなたが……来たんですか」


「俺が指揮官だ」


 即答。


 その事実が、胸に突き刺さる。


「鍵を渡せ」


 カイルは、剣に手をかけない。


「今なら、命は保証する」


 ミルナが、鼻で笑った。


「優しいね」


「口を挟むな、闇界」


 カイルの視線が、一瞬だけ鋭くなる。


「これは、国の問題だ」


 少年は、首を振った。


「……渡せません」


「理由は?」


「それを使えば……

 誰かが、必ず切られる」


 カイルは、目を伏せた。


「……もう切られている」


 静かな声。


「お前が拒んだせいで、

 いくつの街が消えたと思っている」


 言葉が、刃のように刺さる。


「……それでも」


 少年は、歯を食いしばった。


「それでも、使いません」


 沈黙。


 騎士たちが、ざわめく。


「……そうか」


 カイルは、剣を抜いた。


「なら、力ずくで行く」


 その瞬間、ミルナが前に出た。


「待って」


 闇が、彼女の足元で揺れる。


「この人、使えないんだよ」


「関係ない」


 カイルの声は、冷たい。


「使えなくても、

 使わせればいい」


 その言葉に、少年の体が強張った。


 ――意思は、不要。


 王権の論理。


「……やめてください」


 少年は、震える声で言った。


「あなたが……

 そんな人だなんて、思わなかった」


 カイルの手が、一瞬だけ止まる。


「俺は……」


 言葉を探すような間。


 だが、すぐに切り捨てた。


「俺は、国を救えなかった」


 剣を構え直す。


「だから今度は、

 救える手段を捨てない」


 号令がかかる。


「――制圧!」


 騎士たちが、動いた。


 ミルナの闇が、前線を裂く。

 だが、数が違う。


「……逃げて!」


 ミルナが叫ぶ。


「今度は、本当に無理!」


 少年は、動けなかった。


 視線の先で、カイルが迫る。


 剣の切っ先が、一直線に向けられている。


「……守る」


 誰に言ったのか、自分でも分からなかった。


 少年は、鍵を握りしめる。


 使わない。

 閉じない。


 ただ――拒む。


 鍵が、激しく震えた。


 境界が、歪む。


 空気が、軋む。


「……来るな!」


 少年の叫びと同時に、

 見えない壁が立ち上がった。


 剣が、弾かれる。


 騎士が、吹き飛ばされる。


「……防御結界?」


 カイルの目が、見開かれる。


「違う……」


 ミルナが、息を呑む。


「拒絶……そのもの」


 壁は、完全ではない。

 だが、確かに“守っている”。


 その隙を突き、ミルナが少年の腕を掴んだ。


「今!」


 二人は、森の奥へ走った。


 背後で、怒号と混乱が広がる。


 だが――


「……待て!」


 カイルが、追ってきた。


 剣が、振り下ろされる。


 ミルナが、咄嗟に前に出る。


「……っ!」


 刃が、闇を裂いた。


 ミルナの体が、弾き飛ばされる。


「ミルナ!」


 少年が叫ぶ。


 彼女は、地面に倒れ、動かない。


 カイルが、剣を下ろしたまま立っていた。


「……止められなかった」


 声が、震えている。


 少年は、ミルナのもとへ駆け寄る。


 息はある。

 だが、闇が不安定に揺れている。


「……消えかけてる」


 ミルナは、かすかに笑った。


「ほらね……

 壊す側は、消耗品」


 少年の喉が、詰まる。


「……ごめんなさい」


「謝るな」


 ミルナは、目を閉じかけながら言った。


「あなたは……

 ちゃんと、守った」


 闇が、彼女を包み込む。


 その姿が、薄れていく。


「……またね」


 それが、最後の言葉だった。


 闇は、完全に消えた。


 そこには、何も残らなかった。


 少年は、動けなかった。


 鍵が、静かになる。


 拒否は、終わった。


 代償は――大きすぎた。


 カイルが、剣を納めた。


「……俺は」


 言葉が、続かない。


 少年は、立ち上がった。


「……あなたとは、もう行けません」


 静かな声。


「僕は、

 あなたが救おうとする国を、

 信じられない」


 カイルは、目を閉じた。


「……そうか」


 騎士たちが、再集合する。


「撤退する」


 短い命令。


 去り際、カイルは振り返った。


「次に会うときは……

 敵だ」


 少年は、頷かなかった。


 ただ、背を向けた。


 森に、静寂が戻る。


 少年は、鍵を見た。


 守った。

 拒んだ。


 だが――

 大切なものを、失った。


 それでも。


 それでも、彼は歩き出した。


 切らせないために。

 誰かを、数にしないために。


 臆病者は、

 痛みを抱えたまま、前に進んだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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