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世界を救うには切り捨てが必要らしいけど、俺は拒否することにした ―切り捨てない選択をしたら、誰にも歓迎されなかった  作者: 深影シオン
第3章 拒否は、代償を伴う

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第1話 置いていかれるのは、いつも弱い者だった

 剣が、森を裂いた。


 鋭い金属音と同時に、木の幹が割れる。

 その衝撃で、少年は地面に尻もちをついた。


「……来たか」


 カイルが、剣を構えたまま低く呟く。


 エルディアは、すでに詠唱に入っていた。

 周囲の空気が、じわりと歪む。


 ――追いつかれた。


 王権騎士団。


 神殿よりも重く、闇界よりも迷いがない。

 “勝つために来た”人間たち。


 木々の間から、銀の鎧が姿を現す。


 数は五。

 少数精鋭。


「……カイル=ヴァルド」


 先頭の騎士が名を呼んだ。


「久しいな」


 カイルの肩が、わずかに揺れた。


「生きていたか」


 吐き捨てるような声。


「今度は、何を守っている」


 視線が、少年に向く。


 胸が、凍りついた。


 ――狙われている。


「……下がれ」


 カイルが、少年に背を向けたまま言う。


「え?」


「今すぐだ」


 強い声。


「森を抜けろ。

 追撃は俺が引き受ける」


 少年の頭が、真っ白になる。


「ま、待ってください」


「時間がない」


 騎士団が、剣を抜く。


「カイル……」


 エルディアが、何か言いかけて、止めた。


 彼女は、状況を理解していた。


 ――これは、戦いになる。


「……僕も、逃げます」


 少年の声は、震えていた。


「でも……あなたたちは……」


「それでいい」


 カイルは、振り返らなかった。


「お前がいれば、

 俺は剣を振れない」


 その言葉が、胸に刺さる。


「……僕のせい、ですか」


 一瞬、沈黙。


「違う」


 だが、すぐに続く。


「お前がいると、選べなくなる」


 少年は、何も言えなかった。


 それは、責めている言葉ではない。

 だが、拒絶だった。


「行け!」


 怒号と共に、剣がぶつかる。


 エルディアが、少年の腕を掴んだ。


「今は……別れるしかない」


「……また、会えますか」


 エルディアは、答えなかった。


 答えられなかった。


 少年は、走った。


 背後で、剣戟が激しくなる。

 怒号。金属音。魔法の閃光。


 振り返らなかった。


 振り返れば、

 きっと、足が止まるから。


 森を抜け、斜面を転がるように下る。

 息が切れ、喉が焼ける。


 それでも、止まれなかった。


 やがて、音が遠ざかる。


 完全な静寂。


 少年は、膝から崩れ落ちた。


「……一人、だ」


 声が、震える。


 エルディアもいない。

 カイルもいない。


 誰も、守ってくれない。


 少年は、鍵を取り出した。


 鉄の鍵は、いつも通り、重く、冷たい。


「……使えって、言われなくなったな」


 誰もいない森で、苦笑する。


 だが、それは救いではなかった。


 今度は、

 自分で選ばなければならない。


 逃げるのか。

 隠れるのか。

 誰かを巻き込むのか。


 あるいは――

 鍵を、使うのか。


 少年は、深く息を吸った。


「……使わない」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


 臆病者は、臆病者のまま、立ち上がった。


 だが今度は、

 誰の後ろにも隠れていなかった。


 森の奥へ、一歩。


 世界から、完全に切り離された場所へ。


 彼は、自分の意思で歩き出した。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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