第2章 mirror_01 ― 隠された記録 ―
残されたバックアップ。
そこに映るのは、過去の記録か、それとも――。
朝の光がやわらかく差し込むリビング。
テーブルの上には、柊が淹れたコーヒーと、環が焼いたトースト。
凪はノートPCを開いたまま、寝ぐせを直すのも忘れて画面を見つめていた。
「おはよう、凪くん。今日もリモートで?」
「はい。昨日のバックアップデータ、整理しておこうと思って。」
「昨日のって……火事のあと、残ってたやつ?」
「そうです。奇跡的に残ってて……」
凪は一瞬、言葉を止めた。
画面の中に、見覚えのないフォルダ名がひとつ。
> mirror_01
「……これ、作った覚えないんですけど。」
環がのぞき込む。
フォルダを開くと、見慣れないログファイルの列。
どれも作成日時は、火事の“前日”になっていた。
「凪くん、これって……?」
「僕のプログラムに、こんな自動生成機能はないはずなんです。」
柊がマグカップを置き、静かに言った。
「中身はまだ見るな。ログを解析してからだ。」
その声に、凪もうなずく。
環は胸の奥に、小さな不安の芽が広がるのを感じた。
◇◇◇
午後。
柊は社内ネットの監査ログを確認していた。
ひとつだけ、奇妙なアクセスがある。
差出人不明の外部通信履歴――送信元は、凪の旧マンションのWi-Fiルーター。
「……燃えたはずなのに?」
柊が眉をひそめる。
環はそっと凪の肩に手を置いた。
「……また何か、始まってる?」
「大丈夫。今度は俺たちが守る。」
その言葉に、凪は小さく息を吸い、微笑んだ。
「……はい。」
◇◇◇
夜。
リビングに残された凪のパソコンが、ひとりでに再起動を始める。
静かなクリック音。
新しいフォルダが、自動で生成される。
> mirror_02
――光の下に、もうひとつの“影”が生まれていた。
静かに生まれた“mirror_02”。
それは、新たな侵入の合図だった。




