第39話 武闘大会予選
武闘大会予選当日。
会場は本戦と同じだ。
僕は石畳が敷き詰められた舞台に立ち、すり鉢状の客席を見回す。
予選とはいえ観客はそれなりに入っている。
観客の中には騎士の格好をした者や、冒険者ギルドで見かけた者も居るので、この予選の段階から既に引き抜きの為の審査は始まっているという事だろう。
予選は全5試合行われるそうで、僕はその内の4回目に参加する事となった。
舞台の上には30人ほどの参加者が並んでおり、この中から最大4人が本戦に出場出来るらしい。
「ルールは簡単!最後までこの舞台に立っていた者が本線に出場出来るというバトルロイヤル形式です!他の参加者を舞台から叩き落としてください!舞台には決闘用の結界魔法が張られておりますので、思う存分戦ってください!」
司会の者が声を張り上げる。
残り人数が4人になるまで戦う、という分かりやすい"間引き"方式だ。
決闘用の結界魔法というのは、結界内の者に『鉄壁』の加護を与えるという優れ物で、特定の範囲にしか作用せず、大仰な魔道具を必要とするという条件を満たす必要があるものの、その効果は絶大だ。
これにより、死の危険を伴わずに全力で試合を行う事が出来る。
大きな都市では最低1箇所この結界を用いた闘技場が在るらしい。
「...。」
この1ヶ月半程、僕は鍛錬を重ねてきた。
元々の訓練に加え、武闘大会用の秘策も練ってきたのだ。
大会のルールは例年通りなので、これならある程度はやれると思う。
「おいガキ。」
まずは予選を勝ち上がらなくては、と気合いを入れていた僕に、隣に立つ男が声を掛けてきた。
「...えっと、僕ですか?」
「お前以外に誰がいんだよ。」
周りをぐるっと見回したが、この舞台に立っている者の中に子供は僕だけだ。
どれだけ若い者でも15歳を超えた成人に見える。
「なんでしょう?」
「こりゃガキの遊びじゃねぇんだ。泣き喚く羽目になる前に帰んな。」
「...。」
これは...どっちだろう?
「ご親切にありがとうございます。けれど僕にも目的があり..」
「親切で言ってんじゃねぇ。ガキが冷やかしに来るんじゃねぇって言ってんだ。」
親切じゃなかった。
バカにされている方か。
男の周りに居る他の参加者達も、クスクスと笑いながら僕の方を見ている。
まぁ無理も無い。
ここに居る者たちの大半は、祝福の義で各組織から声をかけられず、それでも腐らずに研鑽を積んできた者たちなのだ。
成人もしていない子供が居たら、遊びに来るところじゃないと叱りたくもなる。
笑ってくれるだけマシなのかもしれない。
「ご心配なく。泣くのは皆さんの方でしょうから。」
別に腹が立ったわけでは無い。
ただ思った事を口にしただけだ。
しかし僕の言葉を挑発と捉えたのか、参加者達は大人気なく罵ってきた。
「テメェ...どうなっても知らねぇぞ!」
「子供だから優しくしてあげようと思ったのに...残念ね。」
「ふん。真っ先に潰すか。」
「馬鹿なガキだ。参加したことを後悔させてやる。」
いや、大人気無さ過ぎないか?
子供が強がっていて可愛らしい、とかそういう捉え方は無いのだろうか。
こんなところで問答していても仕方がないので、僕は無視する事にした。
程なくして司会者が再び声を張り上げる。
「さぁ皆さん!それでは早速始めましょう!それぞれ舞台の端に散らばってください!」
僕は罵倒の言葉を受けながらも舞台の端に移動する。
他の参加者もそれぞれ舞台の端に散り、準備が整ったのを確認した司会者が、開始の合図をした。
「それでは...始めッ!!」
合図と同時に僕は走り出す。
目指すは舞台の中央だ。
――――――――――
俺は来年、家を追い出される。
家は代々武道で名を馳せた名家というやつで、俺はその中で落ちこぼれとして育った。
跡取りが俺1人ならば、それでも大事に育てられたのかもしれないが...如何せん妹が天才だった。
両親は早々に俺に見切りをつけ、稽古や指導といった労力は全て妹の方に注がれた。
来年には15歳...つまり成人を迎えるという事で、この武道大会で良い成績を収めなければ縁を切った上で追い出すとの事だ。
それは別に良い。
あんな家に居たいだなんて思わないし、どうせいつかは出ていくつもりだったんだ。
ただ縁を切るという事はきっと、満足な援助も受けられずに放り出されるという事だ。
成人直後に身一つで放り出されたところで、良くて低級冒険者として食い繋いでいくくらいしか出来ないだろう。
だから、家の事とは無関係にここで良い成績を出さなくてはいけない。
騎士とまではいかなくとも名のある冒険者クランに拾われて、そこで訓練を積みながら冒険者が出来れば...多少は明るい未来も見えてくるというものだ。
「...な、なんだよコレはッ!?」
けれど、そんな淡い希望はあっさりと打ち砕かれた。
舞台に立つ参加者の中でも飛び抜けて若い...恐らくは妹と同い歳くらいのそいつは、試合開始前から目を付けられていた。
遠くてよく聞こえなかったが、何か余計な事を言って周りの参加者達を怒らせたらしい。
馬鹿な奴だ。
なんて内心嘲笑っていたのだが、試合が始まってすぐ、馬鹿だったのはこちらの方だと気が付いた。
試合開始と同時に舞台中央まで駆け出したそいつは、民家の2階分程の高さまで飛び上がると、どこからとも無く巨大な"岩"を取り出した。
ズンッ。
という音を響かせ、岩は舞台にめり込む。
「あっぶねっ!」
「は、ハハ!早まったなガキ!」
後を追って舞台中央近くまで走りよっていた参加者達は、すんでのところで岩を回避し、岩の上に立つそいつに向かって罵倒を浴びせる。
が...
「これはあくまで準備なので。」
そう言い放ったそいつは...まるで魔物の様に凶悪な表情を浮かべていた。
「【取り出し】【水】。」
そんな言葉が聞こえた直後。
岩を中心に大量の水が現れた。
「なんッ!?...ゴボッ...ガっ!」
気が付けば俺たちは、濁流となって押し寄せた水に流され、舞台の外へと放り出されてしまっていた。
そうしてあまりにもあっさりと、本戦への出場枠を1人の少年が独占する事が決定したのだった。




