第38話 王道の策
「お前、武闘大会に出ろ。」
「...はい?」
訓練漬けの日常が戻り数日が経った頃、ラグナさんからそんなことを言われた。
「色々と方法は考えたんだが、結局のところ王道で行く事にした。」
「はぁ。」
クルムを教会から取り戻したい。
それも一刻も早く。
そう打診した僕に、ラグナさんは2つ返事で頷いてくれた。
僕の意志を汲んでくれたというより、同意見だったからだろう。
このまま15歳になるまで彼女を教会に預けておくのは、あまりにも危険だ。
今回の件でイガラシ村を襲撃するという計画は見直されるだろうが、女神騎士団の1部隊が全滅するという異常事態に対し、なんの策も打たないという事は無いはず。
事態は既に、聖女を抱え込むという目的から外れ、イガラシ村という脅威にどう対処するかという話にすり替わっているものと思われる。
それに対し、僕に出来ることは変わらない。
クルムを取り戻す事だ。
肝心の聖女が居なければ、教会は彼女の故郷に積極的に関わろうとはしないはず。
もちろん村に対する警戒は続けるだろうが、蛇が居ると分かっている薮をわざわざ突く様な事はしないだろう。
僕とラグナさんは訓練の日々の中で、どうやってクルムを取り戻すかを考え続けた。
中々良案は出てこなかったが、遂に今日、ラグナさんから提案(命令)が出された形だ。
「武闘大会の事は僕も調べましたが...到底勝ち上がれるとは思えません。」
近々開かれる武闘大会。
そこで活躍出来れば、王国騎士団や女神騎士団、冒険者クランなどから声がかかる。
そして今大会では、女神騎士団が人員不足を理由に積極的な採用をすると噂になっていた。
中でも突出した者...つまり優勝者には、聖女護衛隊の任が与えられる、と。
女神騎士団はエリート揃いだが、ウルハリア隊の隊長を含め、精鋭を一度に失っている。
その為護衛隊の補充は大会での人員補充の後で行う方針らしい。
これはまたとないチャンスだ。
もちろん、優勝出来るだけの実力があれば、だが。
「勝てるようになれ。大会まであと1ヶ月以上あるんだからな。」
「そんな無茶な。」
「無茶でもやれ。護衛隊にさえ選ばれちまえばこっちのもんだ。攫って逃亡して終わり。逃亡先の候補も見繕ってある。」
「......。」
武闘大会の参加者は、現在特定の組織に属していない者達...祝福の儀で声がかからなかった者達だ。
けれどそれは、落ちこぼれという意味では無い。
各組織の採用枠や時期の関係で見送られたレア職も居るし、コモン職の中でも後に秀でた才能を発現させた者も居る。
後者に関してはその代表の様な人物が目の前にいるくらいだ。
だから武闘大会で優勝するというのは並大抵の事ではない。
まして今回の大会は、聖女護衛隊の座がかかっている事もあり、普段は参加を見送っている猛者達も居るようだ。
例年以上に厳しい条件と言えるだろう。
ん?
というか...
「ラグナさんが参加するわけにはいかないんですか?」
「そりゃ無理だな。冒険者は金級までしか参加出来ねぇ。それに俺はここでの生活を続けなきゃならねぇからな。聖女誘拐なんていう汚名は被れねぇのさ。」
なるほど。
ラグナさんなら優勝間違い無しだろう。
護衛隊に選ばれ、彼女を攫うところまで行ければ後は...と思ったのだが残念。
「まぁそう悲観的になんな。去年までの感じを見る限り、冒険者で言えば銀級程度の実力者までしか参加しねぇからよ。それ以上の奴は既に所属先が決まってるか、本人が満足出来る地位に着いてる。」
うん。
言われてみればそうか。
まぁ銀級だって僕より上なのは変わりないが...少し希望が持てた気はする。
「...つーわけで、今まで以上に厳しくしごいてやるから覚悟しとけ。予選敗退とかしやがったら殺す。」
銀級は魔物で表すとCランクに相当する実力者だ。
今のままではかなり厳しいと思うが...やるしかない。
「...頑張ります。」
まずは大会当日まで生き延びないとな。
ラグナさんの訓練が今まで以上に厳しくなるらしいが...
大丈夫だよな?




