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第34話 イガラシ村


「...どうなってるんだ?」


結局、一体の魔物とも戦わずにイガラシ村へと辿り着いてしまった。

野営地から村の近くまで、魔物の気配はそこら中にあったのに、だ。


何が起きているのかさっぱり分からないが、とにかく今は村人達の避難を手伝わなくては。

そう思って再びカエデさんの家から回ろうとしたのだが...


「居ない。いや、そりゃそうか。」


カエデさん宅はもちろん、その近隣の家々も尽く留守だった。

ちゃんと避難してくれているようだ。


どの家も無人ではあるものの、魔物に襲われた痕跡などは無いので、まだ村の中には魔物は入り込んでいないようだ。


然程広くもない村の中を見て回りながら進んでいると、村の中心にある集会所に辿り着いた。

広場が併設されたこの集会所は、行事などを行う際に村人が集まる施設だ。


そして今は、その集会所に明かりが灯っていた。

中からはそれなりの人数の話し声が聞こえてくる。


「なんでここに...」


こういった場面で1箇所に集まるというのは愚策だと思う。

それが許されるのは防衛設備の整った都市部でのみだ。


僕は不審に思いながらも扉を開き、中に入ってみた。


「だからなんで連れてこなかったのよ!」

「そんな事言われても...どうせ言うことなんて聞かないでしょう?」

「だからって子供一人で...」

「おいアリア。」

「なによ...って、リク君!?無事だったの?」


中に入るとアリアさんがカエデさんに詰め寄っているところだった。

その周りにはガイムさんを始め、数人の大人達がアリアさんを宥めようと集まっている。


アリアさんは僕の姿を見付けると、顔を綻ばせながら走り寄ってきて...そのまま抱きついてきた。


「...アリアさん。苦しいです。」

「心配させる方が悪いわ!我慢しなさい!」


やはり親子だな。

慌てている時のアリアさんは、クルムとよく似ている。

半ば現実逃避をする様にそんな事を考えつつも数分...ようやく落ち着いたアリアさんを引き剥がし、僕は事情を聞くことにした。


「皆さん、こんな所に集まってどうしたんですか?...それと、()()()()()()()()()()()のは何故ですか?」


流石にこんな状況を見てしまっては僕にも分かる。


集会所に集まった村人達は、僕とアリアさんの抱擁をにこやかに見守っていた。

魔物の事は置いておいても、女神騎士団の襲撃があると知っているはずなのに。


それはつまり、襲撃はもう心配要らないと思っているからだ。

カエデさんの言っていた『村の皆は絶対に無事』という言葉...あれは僕に無理をさせない為に言った方便などではなく、ただの事実だったのだろう。


「...村長。」

「うむ。話してあげなさい。」


遠巻きに僕たちを見守っていた村長に、アリアさんが話を振った。

村長はゆっくりと頷き、そんな風に返事をする。


「リク君の質問に答える為には、まずこの村の成り立ちを話す必要があるわね。」


そう言ってアリアさんは話し始める。


このイガラシ村の秘密を。




――――――――――




簡単な任務だ。


戦闘職の祝福持ちすら大して居ない、片田舎の村を襲う。

それだけで聖女は教会以外に寄る辺を無くし、教会に依存する。

そうなれば...。



ライフィリア教を国教とする国々の中で、我が国は長い間聖女の不在が続いた。


ライフィリア教の総本山である【ライフィリア神聖皇国】。

世界最高の軍事力を持ちながら、教会の権威でも抜きん出ている【ブラッドバラン帝国】。

そのどちらも聖女を有しており、グリムバル王国は3番手に甘んじていた。


しかしそれも終わりだ。


3人目の聖女は我が国に現れた。

子供の内からこれを鍛え、教育を施し、最強の聖女を作り上げる。

その為にはこの作戦が必須だ。


公にこそされないが、聖女を天涯孤独な身に落とし教会に依存させたという功績は、教会内での私の立場を強固なものにするだろう。


それは聖女がウルハリアを離れようとも変わらない。

彼女が王都に行った際に『グレイゴードンさんには世話になった』とでも喧伝してくれれば尚良い。


そんな風に、将来の展望に胸を踊らせていた。


それなのに...


「なんだこれは...いったい何が起きているのだァ!?」


イガラシ村から森を挟んで1時間程度の位置にある平原。

そこはさながら地獄絵図の様だった。


黒狩狼(ブラックハウンド)が走竜を食い殺し、死霊屍人(リッチ)の闇魔法が団員達を消し飛ばす。


どちらもBランクの魔物。

ここに居る団員全員で挑んでも、精々3体までしか相手出来ない化け物共だ。


それが...30体は居る。


森からは更に、見たことも無い魔物が押し寄せて来ており、団員達の心を完膚なきまでにへし折っていた。


私もそうだ。

こんな高ランクの魔物達による魔軍進行など聞いた事も無い。


なぜこんな所に...

いや、そんな事を考えている場合では無い。

とにかく逃げなくては。


逃げ延びることさえ出来れば、任務は完了なのだ。

こんな規模の魔軍進行が起きれば、イガラシ村など一溜りも無いだろう。


団員達に殿を命じ、私はここから全力で逃亡する。

そう決意した時...視界の端に"絶望"が映った。


「...は、はは...ハハハ...。」


森の上空。


月夜に照らされ妖しく輝く、銀色の鱗。


その巨体の倍はあろうかという長大な翼は、思わず息を飲むほどの威圧感を放っている。


この国の者なら子供でも知っている、御伽噺に登場する伝説の魔物...【銀月竜バハムート】だ。


「......。」


そうか。

ここにあったのか。


1000年前。

歴史上で唯一、勇者を破ったダンジョン。


「...魔王城。」


そこで私の意識は途切れた。


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