第31話 女神騎士団の凶行
女神騎士団の行う『作戦』とは何か。
表向きは、ライフィリア教が独占管理するダンジョン【静謐の泉】にて魔物の間引きを行い、魔軍進行の発生を予防する事。
そして裏向き...というか真実は、聖女の故郷であるイガラシ村を焼き払い、聖女の逃げ道を無くすという内容だ。
魔物により滅ぼされたという形にし、命からがら逃げ延びた村人が、たまたま静謐の泉というイガラシ村から1日の距離にあるダンジョンに滞在している女神騎士団に助けを乞う。
救助に向かった時には村は焼き払われており、助けを求めに来た生き残りも程なく死んだ。
家族や故郷を失くし、聖女は帰る場所を失う。
そして彼女は原因となった魔物を恨み、その仇を打った教会に恩を感じる。
とまぁそんな筋書きだ。
...ふざけているとしか思えない内容だが、ギリオールの心を読んだ結果、これが真実だ。
止めなくてはならない。
こんな蛮行が許されてたまるか。
東門から出た僕は、走竜の準備をしている女神騎士団を見やる。
そりゃまぁ騎士団だもんな。
騎乗するに決まっている。
走竜は馬ほど速くは走れないが持久力と小回りが効く。
戦闘を生業とする者にとっては理想的な乗り物だ。
さてどうするか。
走竜を使えばイガラシ村まで2日程度だろう。
どうにか足止めし、出来れば先回りしたい。
村人達を避難させなければ、悲惨な結末を迎える事になる。
女神騎士団の部隊は20人程度。
イガラシ村の住人は500人くらいだと思う。
単純な人数で言えば村人の方が圧倒的に多いが、何せ村には戦闘職がほとんど居ない。
狩人が数人といったところだ。
対して女神騎士団は戦闘職の中でもエリート揃い。
祝福の成長度合いも実戦経験も文字通り桁違いだ。
下手をすれば大規模魔法の一撃で村ごと焼き払われてしまうだろう。
「......。」
女神騎士団の面々は、今はまだ走竜の準備中だ。
この隙に策を考え、実行しなくては。
単純に先回りをするなら僕も走竜に乗って今のうちに出発するか?
ダメだ。
そもそも僕は走竜に乗ったことが無い。
馬も同様だ。
いっそここで戦うか?
...瞬殺されて終わりだな。
祝福だけ取っても、その成長度合いに大きな差がある。
唯一優位を保てているギリオールに関しても、彼の祝福が【聖騎士】というレア職である事を考えると、まず間違いなく僕は負けるだろう。
誰かに助けを求めてもきっと信じて貰えない。
信じてもらえたとして、強大な権力を持つライフィリア教に逆らう者など居ない。
くそ。
ラグナさんなら...師匠ならきっと助けてくれるのに。
なんでこんな時に限って居ないんだあの人は。
「おいおいギリオール...緊張してんのか?」
「ば、バカ言うな!出世のチャンスだぜ?武者震いに決まってんだろ!」
「てめぇなんだその口の聞きた方は!オレは先輩だぞ!」
「ガッ...痛えッ!」
僕の焦りに反して、彼らは呑気なものだ。
まるで近所の森に遊びに行くかのようなその気楽さが、なんだか無性に腹立たしかった。
これから大虐殺を行おうとしているんだぞ?
分かっているのか?
ギリオールなんて僕と同い歳のはずだ。
どう育ったらそんな風に歪んでしまうというのか。
「お前目標何人よ?」
「20人は殺りてぇな。」
「はっ。オレは50人はいくぜ?」
「ふふふ。言うだけならいくらでも言えますからね。」
「んだよ。じゃあお前はどうなんだ?」
「私ですか?私はそうですね...出世など興味ありませんので、若い女性が居たらいいですかね。」
「お前なぁ...バレねぇようにヤれよ?」
ダメだ。
こんな奴らを生かしておいちゃいけない。
クルムの傍に置いておけない。
どうすれば。
どうすればこのゴミ共を殺せるだろう。
10年以上前に置いてきたはずの衝動が、僕の中に戻ってきたのを感じた。
「おーい!そこのトサカ頭ァ!」
気付けば声が出ていた。
「...あ?」
「お前みたいな育ちの悪そうな奴でも女神騎士団に入れるんだなー?」
僕が声をかけたのは、金髪を逆立てた子供...女神騎士団の中で1番歳の近い者。
つまり、身長が同じくらいの者だった。
「てめぇ...俺を誰だと思ってる!【聖騎士】の祝福に選ばれたギリオール様だぞ!」
「聖騎士?何それ?僕は【商人】だけど、お前みたいな馬鹿面、余裕で勝てそう。」
「...殺す。」
大商人とは名乗らなかった。
もし名乗ったとしても然程警戒はされないだろうが、それなりに珍しい祝福なので、何かの間違いで身元が割れてしまう可能性があったからだ。
「...おいギル。人目があるからここではやめろ。向こうで話し合いをして来い。」
「チッ。分かったっすよ。...おいお前!付いてこい。話し合いといこう。」
よし。
かかった。
僕の周りには女神騎士団を見送ろうと住民達が集まっている。
門の内側程では無いがそれなりの人数だ。
この場で物騒な事はしないだろうという目論見だったが、まんまと乗ってくれた。
「お、おい坊主!これ以上失礼な事言うなよ?話し合いじゃ済まなくなるぞ!」
「うっせぇオッサン。臭ぇからあんま近付くな。」
「なっ!?」
心配して声をかけてくれたおじさんを罵倒する。
ごめんなさいおじさん。
僕は貴方達に嫌われる必要があるんです。
今だけはこの世で1番腹の立つ喋り方を真似させてください。
ちなみに『話し合い』なんてただの方便で、実際のところはただの制裁ですよ。
「早く終わらせろよ?直ぐ出発するぞ。」
「あんなザコ、ワンパンで終わらせて来るっすよ。」
ギリオールは近くに居た騎士達に得意気な顔でそう言うと、僕の肩を掴んで引っ張っていく。
行先は厩の裏だ。
ここは女神騎士団専用の厩で、普段であれば走竜が待機している場所だ。
今は飼育員も走竜も出払っており、裏手には人目も届かない。
東門から少し離れているので、よほど派手な魔法でも使わない限り不審に思われる事も無いだろう。
「...1つ聞きたい。」
「あん?命乞いなら手遅れだぜ?」
腰から剣を抜き、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるギリオールに問いかける。
「何の罪も無い村人を殺すことに、抵抗は無いのか?」
「...ッ!?てめぇ、なんでそれを!?」
「いいから答えてくれ。」
「...ハッ。なんで知ってんのかは分かんねぇが、殺しちまえば関係ねぇか。...いいぜ。教えてやるよ。」
彼は心底バカにしたような口調で続ける。
こんな所で殺人を犯して、その後どうするつもりだろうか?
死体をアイテムボックスに容れられる訳でも無いのに。
「そんなもんある訳ねぇだろ!イガラシ村なんて蛮族しか住んでねぇ糞溜めだろ?糞を燃やしてクルムが手に入るなんてオイシイ話、見逃すわけがねぇ。」
「...そうか。」
うん。
これなら殺せる。
殺してもいい人間だ。
「んな事より時間がねぇんだ。さっさと片付けてやるよ。覚悟は出来たか?」
「ああ。もういいよ。」
僕は腰から短剣を抜き、正眼に構えた。
「聖騎士の力を思い知れ。そんで...死ね!」
何が聖騎士だ。
祝福の恩恵は確かにお前の方が強いかもしれない。
けれど僕には、地獄の日々の中で鍛え上げた経験がある。
お前みたいな祝福頼りの子供に負けるわけが無い。
「...【取り出し】【水球×5】【リザードマンの立槍】。」
時間が無いのは僕も同じ。
一撃で殺してやる。
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