第30話 女神騎士団の秘密作戦
訓練の大半が模擬戦に代わり、僕は毎日のように死にかけている。
「おい。なんでアイツ死んでないんだ?」
「なんでも、【不死身】とか言うレアスキルを持ってるらしいぞ。」
「俺は【マゾヒスト】とかいうスキルだって聞いたぜ?」
「いや、それは祝福の名前らしい。」
「まじか...。"不死身のマゾヒスト"。末恐ろしい奴だぜ。」
連日冒険者ギルドの訓練場に通っているため、冒険者達からは白い目で見られている。
遂には不名誉な二つ名まで付いてしまう始末だ。
「っし。今日はここまでだ。」
「...あ...ありがとう、ございました。」
今日の訓練は朝から昼まで。
午後は自由時間だ。
子の月が終わり、丑の月が半分程過ぎた。
明日からラグナさんは3日間不在になる。
月に1度の『大人の都合』というやつだ。
午後はそれに向けての買い出しなどがあるそうで、リロアさんの作ってくれた昼食を摂り、魔法で怪我を治してもらったら別行動となる。
「今日はまた一段と酷いわね。」
「はは。明日からお休みなので気合いが入ったんですかね。」
「お前が全然成長しねぇからだろ。」
「手厳しい。」
「そうよラグナ。リク君はまだ10歳なのよ?忘れてない?」
たまに自分でも忘れる。
前世の記憶がある分、一般的な10歳児とはちょっと違う気もするしな。
「そういえば、教会の件はどうなりました?」
「ん?ああそれな。どうやら"神様案件"らしい。」
「神様案件?」
ラグナさんが面倒くさそうに説明してくれる。
神様案件というのは、教会が女神様の名を盾に隠匿している事柄を指すらしい。
余程の権力者でもなければ踏み込めない領域。
白金級冒険者ですら深くは追求出来ないのだそうだ。
「なんでも明日、女神騎士団が自分達で独占しているダンジョンに遠征するとかでな。詳細は分かんねぇけど、そこでの働きが良ければ昇進が決まるとかで女神騎士団の連中が躍起になってるわけよ。聖女は参加させないみたいだし、とりあえず心配は要らねぇんじゃねぇか?」
「...なるほど。」
クルムの護衛隊の1人、ギリオールが(心の中で)言っていた言葉は、活躍や出世、作戦といった単語だった。
それらに関しては確かに説明がつく。
けれど、クルムにその作戦の内容を秘密にしている事の説明がつかない。
それに...『傷心』という単語に付いても引っかかる。
まさか『昇進』と聞き間違えていた訳では無いだろうし...。
冒険者志望のクルムがダンジョン攻略に参加させて貰えないとなれば、確かに落ち込むかもしれないが。
「くれぐれも勝手な事はするなよ?」
「え?」
「幼なじみの嬢ちゃんが気になるのは分かるが、あんまり踏み込むと...死ぬぞ。」
「......。」
死ぬ。
つまりは教会というのはそれだけ危険な相手ということか。
「俺も帰って来たらまた調べてやる。」
「...分かりました。」
一先ず今日のところはそれでお開きとなった。
午後は自由時間なので僕も買い出しや情報収集などに出掛けよう。
念の為...備えはしておきたい。
――――――――――
翌日。
リロアさんには『街の近くの狩場で訓練をする』と告げ、僕はウルハリアの城壁...その東門に来ていた。
東門周辺には女神騎士団が約20人程並んでいる。
朝早い時間だと言うのに、騎士団の出発を見送る住民達が辺りに犇めいて居り、僕もその中に紛れて様子を伺っている。
「皆様。お見送り頂き感謝する。これより我々は、【静謐の泉】へと赴き、魔物共の間引きを行って来る。これにより向こう数年間は魔軍進行の脅威に怯えること無く皆過ごせるだろう。」
住民達を見回し、そう声を張り上げるのは、身の丈2mはあろうかという大男だ。
その姿には見覚えがある。
クルムの護衛を務めていた男...確か、女神騎士団ウルハリア隊の隊長、グレイゴードンだ。
彼の周りには同じくクルムの護衛隊の面々が並んでいる。
副隊長のシュバルツに...ギリオールだったか。
唯一の女性騎士アルメリアの姿は無いようだが...クルムに付いているのだろうか。
というか、クルムの護衛はアルメリア1人で大丈夫なのか?
グレイゴードン達の代わりに誰か他の人間が配属されていると思いたいところだが。
「さて...。」
昨日の内に女神騎士団の面々がここに集う事は分かっていた。
僕は今朝家を出る時から顔を変えているので、顔を見られても問題無いはず。
事前に決めていた通り、女神騎士団の面々に向かい【読心術】を使う。
「...まぁ、やっぱり無理だよね。」
孤児院に居た時に試したグレイゴードン達にはやはり今回も通じず、他の団員も尽く弾かれてしまった。
唯一通じたのは...今回もギリオールだけだ。
僕は時間が許す限りギリオールの頭の中を覗き続ける。
グレイゴードンの演説が終わると、彼らは門を潜り街から出ていく。
「......。」
作戦当日という事もあり、ギリオールは作戦の内容を脳内で反芻していた。
情報は抜き放題。
しかし、抜き出した情報はにわかには信じがたい内容で...。
「...行くしかない。」
僕は女神騎士団に続き、東門から街を出た。
顔を戻し、門に常駐している守衛さんに声をかける。
「おっ。ラグナさんとこの。冒険者達から聞いたぞー。不死身のマゾヒ」
「すみません、緊急事態です。伝言を頼みます。」
「お、おぉ?」
碧の洞窟や濃霧の樹海に出向く際にこの東門を通るので、守衛さんとはすっかり顔馴染みだ。
守衛さんはいつもの様に気さくに話しかけてくれたが、いかんせんこちらは一刻を争う。
ダメ元ではあるが、伝言をお願いしよう。
「冒険者ギルドに伝えてください。イガラシ村が焼かれてしまう、と。」
僕のような子供が何を言おうと信じて貰えないだろう。
ならば長々と話すのでは無く、手短に...それでいてなるべく不穏な言葉を使うべきだ。
「は?お前何言って...っておい!」
僕は言うだけ言うと門を潜った。
ここからの立ち回りで全てが決まる。
とにかく頭と身体を動かさなくては。




