第29話 新戦法で対リザードマン戦
魔力の貯蓄を始めて2週間が経った。
現在僕のアイテムボックスの中には110回分の【水球】が入っている。
アイテムボックスの容量は平屋の家くらいにまで増えているので、これだけ容れてもまだ余裕があるが、魔物の素材なども容れる必要があるので、一旦貯蓄はこれくらいにしておこうと思う。
「今日こそ倒せよザコ弟子ぃ。」
「今集中してるんで静かにしててください。」
「よし。これが終わったら殺す。」
今日は朝からダンジョン【碧の洞窟】に来ている。
そしてここは第3階層...リザードマン達の領域だ。
僕の背後からはやし立ててくるラグナさんを一旦無視し、目の前のリザードマンに神経を集中する。
この魔物と戦うのは、これで何度目だろう。
一応毎回倒してはいるが、ラグナさんからの課題は『純粋な戦闘で倒す』こと。
純粋な戦闘とは何か。
僕の解釈はこうだ。
環境に左右されず、実力のみで戦うという事。
今までは主に壁槍戦術で倒してきた。
短剣や水魔法で戦っても、どうにも倒し切ることが出来なかったからだ。
実際、何も無い平地でリザードマンと出くわしたとして、僕が勝つ可能性はほぼゼロだろう。
でも、それも今日で終わる。
「今日は、勝つ。」
「ギャギィギャッギャ!」
槍を手に突進してくるリザードマン。
よし。
早速新戦法を試そう。
「ぐっ...ッ!...と、【取り出し】【水球×5】【リザードマンの立槍】!」
槍を短剣で逸らし、肉薄する。
そしてリザードマンの背後に新武装【立槍】を取り出した。
この槍は柄の部分に三脚を取り付け、自立するようにした物だ。
三脚は柄の片側に寄っており、向きを調節して取り出すことで斜めに立たせる事が出来る。
仕組みとしては単純だが、衝撃を受けても倒れない様に工夫が施されており、鍛冶屋のおじさんの職人技が光る逸品となっている。
そしてもう1つの策。
こちらは僕の練習の成果、【水球×5】だ。
基本的に魔法は、その魔法ごとにある程度の規格が決まっている。
水球であれば、最大で50cm程度までしか大きく出来ない、1度に生み出せるのは1つまで、といった具合だ。
例外として【二重詠唱】というスキルを持つ者は、魔法を重ねて起動させることで、規格の倍の威力、大きさ、数を実現するそうだが...当然僕にはそんなスキルは無い。
その代わりに、アイテムボックスがある。
予め収納しておいた水球を5個同時に取り出すという荒業で、擬似的に五重詠唱を実現した。
最初は魔力の節約のつもりで始めた試みだったが、思わぬ成果を出すことが出来た。
今の僕では5個が操れる限界で、1個の時は多少操作出来る軌道も5個になるとただ前に飛ばすだけになってしまうのだが...
それで充分。
「ギィギャァッ!」
5個の水球はほぼ同時にリザードマンに着弾し、その巨体を後ろに吹き飛ばす。
そこに置かれた立槍...結果は言わずもがなだ。
自らの体重と水球の衝突による反作用が合わさり、槍の先端はいとも容易くその身体を貫いた。
「ギィ...ギッ...。」
胸を貫かれた状態にも関わらず、まだ息がある。
相変わらずの生命力だ。
上手く頭を貫ければ良かったのだが、こればっかりはぶっつけ本番なので仕方がない。
後で三脚の角度を調整してみよう。
「......。」
さて。
以前は跳ねる事の出来なかった首だが、祝福と業の成長によって僕の膂力は上がっている。
今の僕なら...
僕は魔力を腕に巡らせ、腕力を強化する。
そして無防備なリザードマンの首へ向け、短剣を一閃。
「ふッ!」
ズドッ。
鈍い音を立て、短剣はその首を断ち切った。
「...ふぅ。勝った。」
この戦法ならどんな環境下でも勝てる。
そう確信出来た。
今の僕に、短剣だけで戦うだけの力は無い。
短剣系のスキルも持っていないし、身体能力も足りていないからな。
余程体勢的に有利で、一撃に全神経を集中出来る状況を作らない限り、首を落とすことなど出来ないだろう。
けれど水魔法やアイテムボックスを上手く使えば勝てる。
純粋な戦闘と言えるかは怪しいところだが、今はこれで勘弁してもらおう。
僕は清々しい気持ちでラグナさんの方を振り向いた。
「師匠。やりました。どうですかね?」
「......。」
「師匠?」
「ん?...あぁ。」
ラグナさんは固まっていた。
無表情で棒立ちしているその姿に、僕は少し不安になる。
「やっぱり短剣だけで戦わないとダメですか?」
「...いや。充分だ。よくやった。」
よく...やった?
褒めたのか?
あのラグナさんが?
「師匠って人を褒めることあるんですね。」
「よし。明日からお前の訓練方法を改める。」
くそ。
また余計な事を言ってしまった。
明日からは今以上の地獄が待っているのか...。
「...お手柔らかにお願いします。」
僕はどうにかそれだけ絞り出し、リザードマンの死体をアイテムボックスに収納した。
――――――――――
「お前、もう何でもありで戦え。」
ダンジョンから帰って来た僕たちは昼食を済ませ、冒険者ギルドの訓練場に来た。
いつもの流れだ。
そこで新たな訓練方法を、という話になっていたのだがラグナさんは開口一番にそう言った。
「...前と言ってること違くないですか?」
口答えしたら殴られるかもしれない。
そう思いつつも質問せずにはいられなかった。
初めてリザードマンを倒し、捕食によってスキルを獲得した時、ラグナさんはダンジョンボスと戦ってまで教えてくれたはずだ。
いたずらに手札を増やしても強くは成れない、と。
実際、【剣技】というありふれたスキルと、スキルも無いのに習得した【火球】という初級魔法で戦うラグナさんは、それはもう壮絶に強かった。
僕はその姿を見て納得したのだ。
しかし今、彼はその逆の事を言っている。
「俺は、お前の才能を見誤った。」
「...。」
「最初に訓練を始めた時、スキルが無い事を考えてもお前の戦闘技術は目も当てられないほど悲惨だった。コイツは才能がねぇ...そう判断した。」
辛辣だ。
けれど僕自身そう思う。
きっと僕と同い歳の時のラグナさんは、もっと全然動けていたのだろうな、と。
「だが...」
ラグナさんはゆっくりと...僕の目を見ながら話す。
「お前の才能は、別のところにあった。」
「...別のところ。」
あるのか。
才能が。
「今それを言っても分からねぇだろう。とりあえずは何でもありで泥臭く戦ってみろ。訓練は模擬戦をひたすらやり続ける形にするから、とにかく色々試せ。」
模擬戦か。
今までの打ち込み稽古とはまた一味違うのだろうな。
「目標は、俺に一発入れること。」
「そ、それはまた大変そうですね。」
祝福による恩恵はその育ち具合によってかなり変わるが、ラグナさんの祝福は相当強い。
元がコモン職であるとは思えない程に。
恐らく僕が真剣で斬りつけても、傷1つ負わないだろう。
だからそこは心配していないのだが...。
攻撃を当てられる気が全くしないのだ、
「もちろん最初は加減してやる。一発入れることが出来たら少し本気を出す。それを繰り返して、最終的には全力の俺に一発入れてみろ。」
「...はい。やってみます。」
やろう。
リザードマン相手の時だって、最初は全然敵わないと思っていたのだ。
けれど身体を鍛え、祝福を鍛え、スキルを獲得し、策を練る事で倒すことが出来た。
やってやれない事は無いはずだ。




