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第2話 出発準備


「パパはもうお仕事?」

「ええ。昨日来た冒険者さんの案内をしながらそのまま仕事に行くそうよ。」


クルムのお父さんであるアリスガワ=ガイムさんは木こりをやっている。

仕事柄朝早く出て行くことも度々あるのだが、基本的には僕たちと一緒に朝食を摂ってから仕事に行くことが多い。


今日は久しぶりに食卓に居ないので、疑問に思ったクルムが空いた席を見ながらアリアさんに聞いていた。


しかし冒険者、か。


「何かあったんですかね?」


僕たちの住む【イガラシ村】は農作物や材木を街へ売る事で成り立っている牧歌的な村だ。

近くには山や森もあるがほとんど魔物も住んでいない。

たまに現れる魔物もスライムやゴブリンなどの低ランクな魔物だけで、それらは村の狩人が本業の傍らで狩ってしまえる程度の脅威でしかないのだ。


冒険者は、人里近くに現れた魔物...一般人では太刀打ち出来ない強力な魔物を狩ったり、財宝や貴重な資源の眠るダンジョンに潜ったりするのが主な仕事だ。

依頼であれば雑務なども引き受けるらしいが、それは冒険者ギルドがある様な街でしか起こりえない事だろう。

兎も角、そんな彼らがこの平和な村に来るというのは珍しい事だった。


「私も詳しく聞いた訳じゃないけど...」


アリアさんは昨日冒険者を村長の元に案内したそうで、その時に聞いた話を僕たちに話してくれた。


「森でゴブリンが増えてきているらしいの。もしかしたら集落を作られてるかもしれないから、村長さんがその調査を依頼したそうよ。」

「集落ですか...。」


魔物はその種類にもよるが、群れを作ることがある。

ゴブリンであれば数体の群れならさほど驚異ではないので、わざわざ冒険者に依頼する事も無いだろう。

けれどもし集落があるのなら、数十体の群れが居るかもしれない。

そうなると村の狩人達だけでは手に負えなくなる可能性がある。


「パパ...大丈夫かな?」


話を聞いたクルムが不安そうな顔をしている。

そんな彼女を安心させる様にアリアさんが微笑みながら話を続ける。


「大丈夫よ。もし集落を作られてるとしても森の奥の方だそうだから。あの人の仕事場とは遠いわ。」

「だってさ。僕たちは明日に備えて荷造りでもしよ?」

「...うん。そうする。」


クルムはどうにか気持ちを切り替える事にしたようだ。


「どんな【祝福(ギフト)】が貰えるか楽しみだね。」

「そうね。街に行くのも楽しみ。」


この村では...というかこの国では、子供が10歳になるととある()()を受ける。

【洗礼】と呼ばれる儀式で、主に教会で執り行われるものだ。


幼い子供を指す時に「洗礼前の子」なんて表現をするくらいに重要視されているこの儀式は、僕たちに【祝福(ギフト)】というものを授けてくれるそうだ。

祝福は職業名として現れ、僕たちに様々な恩恵を与えてくれる。


「女神様の祝福かぁ。」


朝食後、部屋に戻った僕は1人呟いていた。


「魔物の時は【(カルマ)】って呼んでたんだよね。」


多分根幹は同じものなんだと思う。

どちらも神に力を授けられる、と言われているもので、魔力を持った生き物を殺すことでその力を成長させることが出来る。


人間の場合は女神からの祝福。

魔物の場合は邪神からの業。

呼び方はそれぞれ違うし、魔物の時は洗礼など受けずとも生まれた時から備わっていたものだが...。


信仰による違いなのか、それとも身体や魂の違いなのか。

その辺りは分からないけれど、僕がやるべき事は同じだ。


祝福を成長させ、身体能力や魔力...そしてスキルを強化していく。

そして冒険者として活躍するんだ。


「その為には何としても戦闘職を引かないと。」


祝福によって齎される恩恵は十人十色だ。


例えば【剣士】という祝福を受ければ、腕力や体力が伸びやすく、【剣技】という剣の扱いが上達しやすくなるスキルを覚えられる。


祝福によって生き方を定める、というのが人々の中で当たり前になっている所以だ。


魔物時代に見た冒険者の中には、【料理人】という祝福を受けた熟練の冒険者が居た。

その者は戦闘に必要な能力が上がりずらいにも関わらず10年以上剣の修練を積み、地道に冒険者業を続けていた。

僕と相対した時にも豊富な知識量で仲間たちに適切な助言をしていたのだが、その戦闘能力は正直言って目も当てられないものだった。

仲間の中には冒険者になって1年足らずの【斧戦士】が居たのだが、そちらの方が遥かに手強かったくらいだ。


それほどまでに祝福による恩恵の差は大きい。

だからこそ、冒険者を目指す以上戦闘職は絶対に引きたい。



祝福を受ける事が出来るのは人口の多い大きな街にある教会に行かなくてはならないので、僕たちは村から3日程の場所にある【ウルハリア】という街に行く事になっている。


出発は明日。

今はそのための荷造りをしているというわけだ。


とはいえ僕たちは10歳の子供で、用意するものなどほとんど無い。

せいぜいが着替えくらいのものだ。

食料や野営道具などは、僕たちが同行する商人達に任せきりになる。


そんなわけで準備は早々に終わり、冒険者になる為の体力作りでもしようかと思っていると...


「リクぅ〜。準備終わったー?」


扉の向こうからクルムの声が聞こえてきた。


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