第27話 秘め事
クルムが部屋を出ていった後、孤児院の職員さんには適当な作り話をした。
ウルハリアに親戚が住んでいるのでそこで世話になる、といった話だ。
目的を達成した以上、ここにはもう用がない。
最後まで騙したままなのは心苦しいが、致し方ないだろう。
クルム達が孤児院の子供達との面会を終え、この場所を後にしたのを確認し、僕も孤児院から出る。
「...傷心、か。」
ラグナさんの家へ向かいながら、思わず呟いていた。
1つ気になることがある。
クルムの護衛隊の1人、ギリオールの事だ。
彼の心を読んだ時、こんな声が聞こえた。
『クルムのやつ、俺に対して冷たくね?』
『やっぱまだ惚れられてねぇのかな?』
『どうにかアイツが王都に行くまでにその気にさせて、専属の護衛として着いて行かねぇと。』
『まぁでもあれか。来月の作戦で武功を立てれば出世出来る。そしたらアイツも俺に惚れる筈。』
『そんときはアイツも傷心してるだろうしな。作戦の事は秘密だし、俺への心象が悪くなる事はねぇ。』
来月の作戦。
武功。
そして、傷心。
これらの情報を繋ぎ合わせて考えると、どんな事象が考えられるだろうか。
...これだけでは何とも言えないが、クルムの心が傷付く様な何かが起こるというのは間違いない。
「相談してみようかな。」
何にせよ僕に出来ることなんてたかが知れている。
帰ったらラグナさんに相談しよう。
はぁ。
ラグナさん、か。
相談はしたいが、帰って来ていたら嫌だな。
そんな矛盾した想いを抱えながら、僕は帰路を歩いた。
――――――――――
「...ふぅん。教会のガキがねぇ。」
3日ぶりに会ったラグナさんは、残念ながらとても元気だった。
訓練出来なかった3日間を取り戻すように、今まで以上に苛烈な訓練を強いられている。
「でも...不思議ッ...なんで...すよね...っ!」
「あ?何がだ?」
腕立て伏せをする僕の背中に立つラグナさんは、踵で背中をグリグリしながら聞き返す。
「そ、その...ギリオール...って子...聖...騎士...らしくて...!」
「聞き取りづれぇ。一旦休憩だ。」
「ゼっ...ハァハァ...。」
僕は地面に仰向けに倒れ、息を整える。
前から思っていたが、庭でこんなに騒いで、近所の人から苦情は来ないのだろうか。
「...ふぅ。【読心術】っていうスキルを使ったんですけど、祝福の能力値が下の相手にしか使えないはずなんですよ。なのに聖騎士なんていうレア職相手に使えたのは何でなのかなーと。」
「ああ。そういう事か。」
ラグナさんはさして興味無さそうに頷くと、持論を聞かせてくれた。
「普通にお前の能力値の方が高ぇんだろ。」
「え...。」
「祝福の育ち具合...異世界人なんかは【レベル】とか呼んでたな。お前のそれは、同年代と比べたら充分異常だ。」
レベル...段階、か。
なるほど分かりやすい。
というか異世界人?
物語で登場する勇者でしか知らないけれど、ラグナさんは会ったことがあるのか。
「それよかそのガキの話だ。随分きな臭ぇじゃねぇか。」
「やっぱりそうですかね。」
「ああ。ガキのただの妄言なら良いんだが...一応調べてみるか。」
「...お願いします。」
クルムの事が心配だ。
ラグナさんが調べてくれるなら助かる。
「よし。そんじゃ俺が居ねぇ時用に個人訓練の種類増やすぞ。」
「あ...はい。お手柔らかに。」
「これ以上手の抜きようがねぇな。」
絶望。
――――――――――
ライフィリア教会ウルハリア東聖堂。
その一室にて。
「あの少年...何者だ?」
グレイゴードン隊長のお腹に響くような声が部屋の空気を重くする。
少年...というと、今日の昼間に孤児院に居た、あの怪我人の事でしょうか。
私は特に何も思わなかったのですが...。
「やはり、ただの孤児じゃありませんよね...。」
副隊長のシュバルツさんも同様の意見のようです。
聖女様が寝静まった後、私達護衛隊は毎晩こうして集まっています。
その日の振り返りや、翌日の予定の確認などをする為ですね。
「えっと...何か変でしたか?」
「俺も分かんなかったッス。チラッと見たけどただのガキじゃないっすか?」
「まぁお前らはまだ新人だからな...分からんのも無理は無い。」
む。
ギリオール君と同じ扱いはちょっと不服です。
「あれは...相当醜悪だぞ。」
醜悪...。
確かに変わった顔立ちはしていましたが。
「顔の作りがどうとかって話じゃない。」
違いました。
「目だ。あれは...相当な数、人を殺している目だ。」
「っ!?」
そ、そんなまさか...まだ洗礼前くらいの子供に見えましたが...。
そもそも私達があの少年を見たのは、聖女様の治療が終わった後、部屋をチラリと覗いた時だけです。
治療前は包帯でぐるぐる巻きだったので分かりませんでした。
あんな一瞬で隊長はそんな判断が出来るのでしょうか。
「ですね...聖女様が無事で良かったです。...ですが念の為、例の作戦の折にあの少年も...」
「シュバルツ。」
「あ、いえその...申し訳ありません。」
例の作戦?
隊長と、それにギリオール君も訳知り顔をしていますが...何の話でしょう。
「とにかく。聖女様をあの孤児院へ近付けることは今後禁止とする。」
「分かりました。」
「おっす。」
「...はい。」
話を無理やりにまとめた隊長に、不承不承頷く。
「...。」
彼らが何を隠しているのかは気になりますが、私は聖女様をお守りするだけです。




