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第25話 孤児院に潜入する孤児


「...助けて...下さい。」


今日はクルムが孤児院を訪問する日。

僕は早朝から作戦を開始した。


「ま、まぁ大変!早く手当をしなくては...ッ!一体何があったの...。」


孤児院の庭先では年配の職員さんがお掃除をしていた。

これは幸いという事で、僕は片足を引きずりながら声をかける。


「盗賊に...襲われて...。父と、母...も...。」

「なんてこと...可哀想に。」


僕の作戦は単純だ。

孤児院へ潜入する為の最も簡単な方法...。

つまり、孤児になる事だ。

ついでに大怪我のオマケ付き。


聖女の孤児院訪問は結構な頻度で行われている様だが、この施設へ来るのは今日が初。

そんなタイミングで孤児として...しかも自ら施設に引き取られに来るというのは些か不自然だ。


なのでちょっとした物語を考えた。


家族でウルハリアに行商に来ていたが、朝市に出かける際、僕の我儘で人気の少ない路地を冒険しながら行こうということになった。

そこで暴漢に襲われ、両親は殺されてしまい、金品も全て奪われた...という設定だ。


職員さんを騙すのは心苦しいが、背に腹はかえられない。

日々暴力と暴言を浴びせられながらも幼なじみの少女を救う為に奮闘するいたいけな少年...それが僕だ。

きっと孤児院に勤める優しい方なら許してくれるだろう。


「不幸中の幸いと言うにはあまりにも痛ましいですが...今日は聖女様が訪れてくださる日です。怪我を治してもらいましょう。」


これも...というか、これが主たる狙いだ。

怪我を負うことで、クルムに接触しやすくなるかもしれない。

そんな思惑の元、僕は昨日魔物と戦いまくった。

トレントやドッペルゲンガーとの連戦はかなり厳しく、手を抜く間でもなく怪我を負う羽目になった。

そして帰宅後、心配してくれるリロアさんに事情を話し、白魔法による治療も拒否しておいたのだ。


血が滲んで冒険用の服どころか部屋着もダメにしてしまったのは申し訳ない。

一応ベッドを汚さないように床で寝たのだが、床も汚してしまった。

後で掃除しておかないとな。


...余談だが、僕は演技をするまでもなくそもそも孤児だし、お世話になっている家で日々猛烈な虐待を受けているので、ありのままを話すだけでも受け入れて貰えたのではないか?

という事に気付いたのは、翌日の事だった。―


そんなこんなで無事(?)孤児院へと潜入出来た僕は、包帯や当て木などの応急処置をしてもらい、孤児院の一室に通してもらった。

複数のベッドが並んでいるそこで、聖女の到着を待つようにとの事だ。


「おまえ大丈夫かよー?」

「痛そう...。」

「脚が変な方向いてるよ?」


部屋には他にも子供たちが居て、僕に興味津々といった様子だ。


「大丈夫だよ。聖女様が治してくれるみたいだから、ちょっとの辛抱さ。」

「いや...ホントに大丈夫そうな顔してんな?痛くねぇの?」


もちろんめちゃくちゃ痛いさ。

けれどこの位の怪我は日常茶飯事だ。

ラグナさんとの訓練ではこの程度の怪我なら泣き言さえ許されない。

『よし!もういっちょいくか!』と言って訓練続行になる。



その後、職員さんに痛み止めや化膿止めの薬などを貰いながら半日ほど過ごした。

子供たちは最初こそ僕に興味を持っていたが、そのうちに飽きた様で庭に遊びに出ていってしまった。


僕は僕でやることも無いので魔力操作の訓練をする。

魔力操作は全ての基本だ。

身体に魔力を巡らせ身体能力を向上させたり、手のひらに集めて魔法の発動をしたり、外に向けて魔力感知を行ったり...いくらでも使い道がある。


身体を動かずとも訓練出来るので、この状態の僕でも有意義に過ごす事が出来た。




――――――――――





退屈。

本当に退屈。


知らないおじさんと話したり、国の歴史や外国との関係を勉強したり、礼儀作法を学んだり...


「あーもうッ!」


1日に50回はこんな声をあげている。


そしてその度に『聖女様。淑女として不適切な振る舞いですよ。』などと言われる。


淑女ってなによ。

私は冒険者になりたいの。


魔物と戦いたい。

ダンジョンを駆け回りたい。

行ったことのない場所を冒険したい。

酒場で仲間達と大声を出して騒ぎたい。


「......みんな、元気かな。」


村のみんなに会いたい。

ママとパパに会いたい。


リクに...会いたい。


「はぁ。」


毎日毎日そんな事ばかり考えている。


退屈で、つまらない毎日。

この半月間...私らしい事が出来ていなくて気が狂いそうな日々を送っている。


魔法の訓練やダンジョンに潜っている時なんかは多少マシ。

先生は厳しいし、護衛は邪魔くさいけど...自分の祝福が強くなったり、出来ることが増えたりするのは楽しい。


でもやっぱり、私の事を『聖女様』って呼ぶ人達と一緒に居ると肩が凝っちゃう。

私よりもずっと歳上の人達が、神様でも見るみたいに持て囃してくる。

こんな生活をあと何十年も続けるなんておかしくなっちゃう。


「聖女様。もうすぐ到着です。」

「...うん。」


そんな日々の中で唯一癒しとなっているのは、孤児院へ行く時だけ。

同年代の子達と話している時は村に居た頃を思い出せるし、やっぱり『聖女様』って呼ばれちゃうけど、そこまで特別扱いされている感じがしないから気が楽。


「おいクルム。湿気た顔してんなよ!みんなお前が来んのを...痛てッ!」

「ギリオールッ!お前はまたなんて口の聞き方をしているんだ!」

「そ、そうですよ!聖女様に失礼です!」


馬車に同乗する3人がいつもの様に騒いでいる。


私と同い歳、同じ日に祝福を受けた男の子...【聖騎士】の祝福を持つギリオール。

女神騎士団ウルハリア隊の隊長、グレイゴードン。

女神騎士団の中から歳が近い女性という理由で私の護衛に抜擢されたアルメリア。


ここに、御者をしている副隊長のシュバルツを加えた4人が私の専属護衛隊。


寝る時以外は基本、この4人が近くに居る。


「別に...私は気にしてないわよ。」

「聖女様がお気にされなくとも、周りの目というものがございます。」


ここには私達しかいないじゃない。

と思ったが、このやり取りも何百回目か分からないので口答えは止めておいた。



グレイゴードンの説教を聞きながら少し行くと、馬車は目的地へと到着する。


よし。

今日は少しでも気晴らしをする為に、沢山お話しよう。

ホントは私が癒しを与える側なんだろうけれど、私だって子供だ。

同年代の子と遊んで癒されたい。


孤児院に着くなり職員の人達が恭しくかしずいてくるが、私の目は既にその後ろに居る子供たちの方を向いている。


「聖女さまー!」

「わぁ。聖女さまの髪、すごく綺麗...!」

「俺魔法見たい!神聖魔法ってやつ!」

「こらこらあなた達...もう少し落ち着きなさいな。」


ふふふ。

この騒がしさが少し心地良い。


「...聖女様。子供たちのお相手をしていただく前に、1つお願いがございます。」

「...お願い?」


何かしら。

今までもいくつか孤児院には行ったけど、来て早々に何かを頼まれた事は無かった。


「実はですね...それはもう酷い大怪我をした子が居て、その子の治療をお願いしたいのです。」

「ッ!すぐ案内して!」


大変だ。

この孤児院は比較的歳の若い子供たちばかりだ。

私と同い歳か、それ以下の子が多いと思う。

そんな歳で大怪我なんて...早く治してあげないと命に関わる。


魔法の訓練はしているし、ダンジョンでも何度か使った。

大丈夫。

きっと治せる。


「こちらです。」


職員さんに案内されたのは、子供達の寝室だ。

扉を開け、護衛のみんなと職員さんも一緒に入る。


「...っ!」


瞬間、息が止まった。



窓辺のベッドに寝転がり、窓の外を眺めている男の子。

クセのある黒髪がほとんど隠れてしまう程に頭は包帯で覆われ、孤児院の子供たちが着ているのと同じその服は清潔でこそあるものの、そこから覗く手足はやはり包帯やガーゼ、添え木などで隙間なく埋まっている。


その有様にももちろん驚いたけれど、私が何より驚いたのは...そこに居るのが()()()()分かったからだ。


「リ...」

「う、うわぁあァァァァァアアアッ!!」


私が声をかけようとした時、彼はこちらを振り返り、絶叫した。


「な、なにっ!?」

「すみません聖女様...この子は今朝、暴漢に襲われたそうで...そ、その...」


職員さんはそう言って気まずそうに護衛隊の方を見やる。

なるほど...。


「あなた達は出ていきなさい。大人の男に怯えているのよ。」

「ではここが私が...」

「アルメリアも。ここは私1人でいいから。」

「...分かりました。部屋の外で待機しています。」


正直に言うと、人払いがしたかっただけだ。

多分これが、彼の狙いだと思ったから。


皆が部屋から出たのを確認すると、今も怯えた演技を続ける彼にゆっくりと近付く。


「...久しぶりね。」

「ぅ...ぅあぁ......あ。...みんな行った?」


彼は...リクは顔を上げると、意地の悪い顔でそう言った。


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