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第24話 Dランク越え


「...疲れた。」


目の前に横たわるのは一抱えもある大木。

樹人(トレント)だった物だ。


トレントの攻撃は緩慢で、避けるのはさほど苦労しなかった。

こちらからの攻撃も面白いように当たるのだが、如何せん攻撃力が足りていない為、斬り倒すまでにはかなりの労力を要した。


「......。」


漸く倒したトレントを見下ろし考える。


トレントの身体は、ほぼ木と変わらない。

それ故、はぎ取れる素材は特にないのだ。

しかし木材としての価値はそれなりに高く、建材などに使われる為そこそこの値段で売れるらしい。


が、正直僕はそこまでお金を必要としていない。

生活はラグナさんとリロアさんが面倒を見てくれるし、個人的に欲しい物も特にない。

お金が必要になればお小遣いという形で貰うことも出来る。


...甲斐性がないとは思わないで欲しい。

一応は、ラグナさんと共に潜っているダンジョンで魔物を倒し、その死体の一部を売ったお金やクエスト達成の報酬などからお小遣いが出ているのだ。

死体の一部、と言うのは、僕の場合ほとんどの部位を【捕食】によって消費してしまう為である。


「...うん。【収納】【捕食】。」


そしてこのトレントに関しては、その全てを捕食してしまう。

捕食に食わせる部分が多いほど祝福が強化されるので、今回のところは一部を売って金にしようなどと欲張らずに全て食べてしまう事にした。


トレントを倒した時、さほど祝福の成長は感じなかったが、捕食による成長はしっかりと感じる事が出来た。

やはりこのスキルによる成長はかなり効率が良さそうだ。


捕食によって得られたスキルは【伸縮】。

身体の一部を伸び縮みさせることが出来るというものだ。

変身と同じく身体全体の体積を変えることは出来ない様なのだが...そうなると変身の下位互換だな。


試しに短剣を持ったまま、腕を伸ばしてみた。


「うおっ。気持ち悪るッ!」


右腕を伸ばした分だけ、左腕が短くなった。

これを使いこなすのは相当訓練が必要そうだ。

戦闘においてはとりあえず出番無しになるだろう。


ただ、今日中に変身のスキルが獲得出来なければ、コレで顔の一部を変えて凌ぐしかないかもしれない。


そんな事を考えつつ探索を続けていたが、中々魔物に遭遇しない。

しばらく歩き続けても、トレントに数体出くわしただけだ。


やはりダンジョンとは違うか。

トレントに関しても僕が鑑定で見破って自ら近付いただけで、普通に歩いていればそれほど遭遇しないだろう。


太陽の位置で凡そ昼頃と判断し、昼食にする事にした。

比較的平坦な場所を見付け、リロアさんに作ってもらったお弁当を広げる。


霧が立ち込める中で食事を摂るというのは何だか変な感じがしたが、わざわざ森の外まで出るのも馬鹿らしいので、なるべく気にしないようにした。


「...リク。」


そして、食事を終えて弁当箱を片付けている時、ソレは現れた。


「クル...ム?」


霧の向こうから現れたのは、僕が今1番会いたい人物。

クルムだった。


外見は。


「ってそんなわけ無いよね。」


ここに彼女が居る筈が無い。

1人でこんな森に出掛けてこられる立場では無いだろう。


それに何より、鑑定の結果がそれを否定している。


「やっと出てきてくれた。」


ドッペルゲンガーだ。


「んー...。これ、見た目だけだったら本当に分からないなー。」


見た目も声も、本人そっくりだ。

恐らくはこちらの記憶を読み、姿を似せているのだろう。


捕食した暁には変身以外のスキルも奪えそうだな。


しかし相手はDランクの魔物。

そのスキルの悪辣さも込みでのランク付けだとしても、リザードマンと同じランクの魔物だ。


ラグナさんから与えられた僕の当面の目標として、『リザードマンを純粋な戦闘で倒す』というものがある。

あれから何度か碧の洞窟には潜っているが、未だにそれは達成出来ていない。


壁槍(僕が名付けた)を使えば倒せるのだが、短剣や拙い水魔法ではどうにも攻略出来ずにいるのだ。


ちなみにラグナさんは僕の戦闘を見守りながら罵声を浴びせてくるだけで、手は出さない。

壁槍を使っても良いから最後は勝て、との事だ。


...嫌な事を思い出した。


今は目の前の敵に集中しよう。


相手は僕が未だまともに戦って勝ったことの無いDランク。

冒険者と一般人の分水嶺。


「ちょっと気が引けるけど...」


短剣を構え、敵を見やる。


「その首、落とすね。」


僕はクルムの姿をした魔物に、踊りかかった。


「リク?何するn...」

「【水球】。」


相手の言葉を最後まで待たずして、初級の水魔法【水球】を発動する。

僕の左手から放たれた水の球は一直線にドッペルゲンガーの顔目掛けて飛んでいき、着弾。


「グギャァ!?」


殺傷力はまるでないが、目眩しと驚かせる効果はあったようだ。


ドッペルゲンガーはその本来の姿である黒塗りの人形へと姿を変える。

僕は空かさず右手に持った短剣を横なぎに振るい、首を狙った。


ザシンッ。

と音を立て、短剣は首の中ほどまで食い込む。


「ちッ。」


流石に一発では倒せないか。

けれど、耐久力も重量もトレントより下だ。

これなら...


「【アイテムボックス】【リザードマンの槍】【取り出し】。」


僕はアイテムボックスの口頭操作を使い、ドッペルゲンガーの背後に槍を出した。

数日前に発見したアイテムボックスの使用法だ。


「でやァ!」


首を抑えて苦しむドッペルゲンガー。

その腹を蹴り抜いた。


「ギギャァ!」


その衝撃でドッペルゲンガーは後ろに倒れ、背後に控えた槍が突き刺さる。


リザードマン戦で使用した壁槍戦術なのだが、今回は壁の代わりに木の根を支えにした。


ちなみにラグナさん曰く、アイテムボックスを戦闘に組み込む者はあまり居ないらしい。

こんなに便利なのに。


まぁアイテムボックスを持っているのは商人などの技能職なので、そもそも戦闘をする機会が無いのだろうが。


「よし。トドメだ。」


胸から槍を生やしたドッペルゲンガー。

その横に回り込み、短剣を振り下ろす。


ドスンッ。

今度こそ首を切り落とせた。


「...はぁ。何とかなった。」


やはり膂力が足りないなー。


けど、祝福と業が育って来ているのか、前よりはマシになって来ている気がする。

非戦闘職の大人くらいにはなって来たんじゃないかな。


「...おっ。」


ドッペルゲンガーの死体を捕食したところ、目論見通り【変身】を入手出来た。

そしてそれに加えて【読心術】というスキルも手に入った。

祝福の能力値が自分より下の者にしか使えないようだが、相手の心の表層を覗く事が出来るらしい。


...あまり使い所は無さそうだ。


とはいえ当初の目標である変身を習得出来たので万々歳だ。

これで明日の孤児院潜入がやり易くなる。


「...よし。念の為、あれもやっておこう。」


後は最後の仕上げだ。

訓練がてら魔物と戦って、万全の状態に仕上げよう。



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