第21話 アイリーンの雑貨店
教会に向かう前にクルムへのプレゼントを購入すべく、商業区を訪れた。
ウルハリアの商業区は賑やかだ。
店舗に屋台、露店など様々な形態の店が出ている。
「あらリクちゃん。今日は1人なの?」
「あ、お姉さん。おはようございます。」
どの店に寄ってみようかと適当にぶらついていると、リロアさんと何度か利用した事のある八百屋のお姉さんが声をかけてくれた。
「お姉さんだなんても〜!ほらこれはサービスよ。」
「え。いいんですか?ありがとうございます。」
お姉さんは30代後半で恰幅のいい方だ。
いつも僕の事をちゃん付けで呼び、可愛がってくれている。
何かと理由をつけてサービスしてくれるのだが、今日は1個80クルスのリンゴをくれた。
「それで今日は?」
「あ、すみません。今日はお買い物じゃなくて...いやお買い物なんですけど...」
僕は友達の誕生日に贈る物を探しに来た旨を伝えた。
八百屋で買い物をするわけでもないのにリンゴだけ貰ってしまって申し訳ないな。
「あらそれなら、アイリーンの雑貨店はどうかしら?便利な魔道具から女性向けの雑貨まで色々取り揃えてるわよ?」
しかしお姉さんは特に気を悪くした風もなく、親切に店の情報を教えてくれた。
「ありがとうございます。お姉さんが言うなら間違いないですね。早速行ってみます。」
「ふふ。リクちゃんはホントに可愛いわねぇ。」
「いえそんな。お姉さんの美しさには到底敵いません。また来ますね。」
「もぅ!もう1個持って行って!」
追加でもう1つリンゴを貰ってしまった。
これはクルムにあげよう。
再度お礼を言って八百屋を後にすると、お姉さんに教えて貰ったお店に向かう。
一等地からは少し外れた場所にありながら、そのお店は盛況だった。
まだ開店からさほど時間も経っていないだろうに、女性を中心に多くのお客さんが入っている。
看板には【アイリーンの雑貨店】の文字。
二階建てで1階部分が店舗、2階部分が住居になっているようだ。
女性客が多いため少し躊躇いを覚えつつも、僕は店の中に入ってみた。
カランカラン。
っと扉に着いた鐘が音を鳴らす。
「いらっしゃいませ〜!」
店の奥から元気な声が飛んできた。
そちらに目を向けると、10代中盤くらいの女性がカウンターの向こうに立っている。
店員さんだろう。
「いらっしゃいませお客様。当店は初めてですか?」
入口近くでキョロキョロしていたら、近くに居た店員さんに話しかけられてしまった。
「あ、はい。すみません、邪魔でしたよね。」
「いえいえ。少しご説明させていただこうかと思い、お声がけしただけですよ〜。」
こちらの店員さんはリロアさんと同じくらい...20代に見える綺麗なお姉さんだ。
僕みたいな子供にも丁寧な対応をしてくれるんだな。
村にはこういったお店は無かったので、これが普通なのかどうかも分からないが...ラグナさんと行った武器屋のおじさんはもっとぶっきらぼうな感じだった。
「当店は生活雑貨や魔道具を扱っております。ご自宅用としては勿論、贈り物としてもお役に立てるかと思いますので、どうぞごゆっくりご覧下さい。また分からない事などございましたらご遠慮なくお声がけ下さいね。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
うん。
とてもやはり丁寧だ。
変に子供扱いすることも無く、1人の客として接してくれる。
そう思い店の中を物色するべく歩き出したのだが...
「お使いかな?可愛いねぇ。」
「彼女にプレゼントかもよ?がんばれ〜。」
という声が背後から聞こえた。
お客さん同士でヒソヒソと話しているらしい。
僕は顔が紅潮するのを感じつつも聞こえないフリをし、店内を見て回る。
正直どんな物を贈ればクルムが喜んでくれるのか分からない。
女性が喜ぶ雑貨は勿論、魔道具に関してもどういった種類があるのか知らないからだ。
一部の魔道具は前世で見た事があるが、そのどれもが冒険者が使っていた物であり、贈り物としてはどうなのだろうと思う物ばかりである。
「うーん...。」
とりあえず雑貨類を見て回っていたのだが、どうにもピンと来なかった。
うんうん唸りながら魔道具が置いてあるスペースに移動する。
灯りを灯す棒、水の味を変えるブロック、花の香りがするのに虫除けになる造花など、様々な物が並んでいる。
どうしたものかと10分程見て回っていると、再び声をかけられた。
「少年。何かお悩みかな?」
その店員さんは、初めにカウンターの向こうから大きな声で挨拶をしてくれた女性だ。
「お姉さんに相談してみるといい。私の作った魔道具たちはどれも自信作だよ。」
「作った?」
「ああそうともさ。私こそがこの店の主にして天才魔道具職人、アイリーン=カトレアさ。」
アイリーン=カトレア。
どちらも名前みたいだ。
僕らの地域は特殊で、名前と性を逆で名乗るが、このウルハリアは一般的な順序で名乗るはず。
つまりアイリーンが名前だ。
「僕はリク=ミクリヤと言います。」
「おやおや。若いのにしっかりしているね。...黒髪に黒い瞳。そして和名だ。」
「わめい?」
「...ふっ。なにこっちの話さ。」
黒髪も黒い瞳も僕の村ではさほど珍しく無かった。
両親もそうだったし。
アイリーンさんも髪こそ栗色だが瞳は黒だ。
何か思うところがあったんだろうか?
「若いって言っても、アイリーンさんも充分お若いですよね?」
「私は今年で18さ。」
やはり若い。
けれど見た目はもっと若く見えるな。
そしてその歳で店舗を持つとは、よほど優秀なのだろう。
「それはそうと少年。何かお困り事かな?」
アイリーンさんはパンっと手を打つと、身を乗り出して聞いてきた。
僕は事情を話す。
「ほう。友達の女の子に、ね。」
「はい。気軽に会える間柄じゃないので、なるべく良いものを渡したいなと。」
今年の誕生日プレゼントを渡せたとして、来年以降がどうなるかは分からない。
もしかしたらクルムが王都に行ってしまい、15歳になるまで会えなくなってしまうかもしれないのだ。
「ふむ。...ならばコレはどうかな?」
「これは?」
「【運命の指輪】と名付けた魔道具でね。」
アイリーンさんが取り出したのは赤い宝石の付いた銀色の指輪だった。
「運命、と言っても運気を操作出来たりするわけではないんだ。一先ず付けてみたまへよ。そうだな...一先ず小指でいい。」
僕は言われるがまま小指に嵌めてみた。
少し大きいかな、と思っていたが、小指に充てがうと勝手に大きさが代わり、ピッタリとフィットする。
「魔力は流せるかな?」
「あ、はい。」
最近は肉体的な訓練と共に、魔力操作や魔法の訓練も行っている。
まだ覚えたてではあるが、指輪に魔力を流すくらいならそう難しくない。
「おぉ...。」
魔力を流すと、指輪に付いている赤い宝石から糸のような細い光が生まれた。
光の色は宝石と同じく赤色だ。
「私の住んでいた国では、"運命の赤い糸"なんてのがあってね。運命的に結ばれた者同士は赤い糸で結ばれていると言われているんだ。」
光の先はアイリーンさんが嵌めている指輪へと繋がっていた。
僕がしているのと同じ指輪だ。
いつの間に嵌めたのだろう。
「これはソレになぞらえて作った魔道具でね。魔力を流すと対になっている指輪と赤い糸が繋がるのさ。...まぁもっとも効果はそれだけで、せいぜい相手の居る方向が分かる程度のものだよ。」
言いながらアイリーンさんは僕から少し距離をとった。
すると赤い光は途中で薄れて行き、指輪同士の間には繋がりが無くなってしまう。
「一応光の強弱で何となくの距離が分かったりはするが...実用性と言うよりは繋がっているという心理的な象徴として贈る物かもね。」
なるほど。
その辺はどうにも疎いが、女性はこういうのを喜びそうな気がする。
そして僕としてもクルムの居場所がざっくりとでも分かるのは有難い。
将来攫いに行く時に便利そうだ。
うん。
これは良いかもしれない。
「これにします。」
「おっ。まいどありだ。私が嵌めているのが男性用だよ。...どれ、新品と替えよう。」
「いえ、それをいただきます。」
「ん、そうかい?じゃこれ。」
僕は自分が嵌めているものと、アイリーンさんから受け取ったものを見比べる。
確かに少しデザインが違うようだ。
「それじゃあ包装しよう。こちらへどうぞ少年。」
僕用の指輪はそのまま嵌めて行くことにし、クルムへ送る用の物だけ包装して貰った。
見栄えのいい小箱に入れてもらい、いかにもプレゼントという雰囲気だ。
「アイリーンさん。ありがとうございました。また来ます。」
「ああ。こちらこそありがとう。ちゃんと渡せるといいね。」
僕は最後にお礼を言い、店を後にした。




