第18話 本当に身に付けるべきもの
「それ、無しな。」
「...はい?」
リザードマンを倒し捕食した事で、自分が冒険者としてやっていける展望が見えた。
魔物を倒す事で、祝福【大商人】と業【捕食箱】を同時に強化する事が出来ると気付けたからだ。
更に捕食箱のスキル【捕食】による成長も、祝福と業の両方に影響する。
つまりそれは、常人の4倍効率良く強くなれるということ。
これはかなりのアドバンテージだ。
と、歓喜に打ち震えていたわけだが...
どこからともなく現れたラグナさんが、開口一番「無し」と言ってきた。
「...何の話ですか?というか何で居るんですか?」
「しらばっくれんな。いくら格上とはいえ、リザードマン1体殺したくらいでそんなに祝福が成長するわけねぇ。それだけならともかく、お前スキルまで身に付けてるじゃねぇか。...何かやっただろ?」
いや、本当になんで分かるんだ。
そしてなんでここに居るかについては無視ですか。
「俺くらいになりゃ分かんだよ。ちゃんと理由は説明してやるから、お前も何をやったか洗いざらい話しやがれ。」
「......。」
釈然としないが...どうせ話すつもりだったのだ。
どの道弟子として過ごすこれから先の5年間、隠し続けることも出来ないだろうし、ここで話しておくとしよう。
「...分かりました。」
一呼吸置き...
「実は僕、前世でミミックだったんです。」
僕はまず、そこから話す事にした。
――――――――――
【ミミック】。
擬態を得意とし、獲物を捕食する魔物。
擬態する物は無生物に限られるものの多種多様で、岩肌や地面に化ける事も出来る。
しかし、その多くは獲物が自ら近付きたくなる物に擬態する事が多い。
つまり、宝箱だ。
そしてミミックの業は【捕食箱】。
付随するスキルは【捕食】。
取り込んだ亡骸を吸収し、糧とする...というものだ。
ちなみに擬態の方はスキルではなく魔物としての身体に宿った機能なので、現世には引き継げなかった。
逆に前世ではいくら魔物や人を喰おうとスキルを覚える事は無かったので、こちらは人間としての特権なのだろう。
「...で、恐らく前世では対象を喰うことで"取り込んだ"扱いだったのが、現世ではアイテムボックスに収納した事を"取り込んだ"として扱う事が出来るみたいで...」
「......。」
「いやまぁ現世でも魔物や人を喰えば取り込んだことになるのかもしれませんが、流石にそれは抵抗があるというか...」
「......。」
人間としての魂が無ければ何の抵抗も無かったのだろうが、今の僕には魔物や人を喰うなど考えられない。
...それにしてもラグナさん、随分と静かに聞いているな。
「って聞いてますか?」
「ん。...ああ。聞いてる。ちょっとあまりにもぶっ飛んだ話だったから、必死に消化してた。」
「そうですか。ちなみに...過去に僕みたいな人って...」
「俺が知る限り居ねぇな。そもそも魔物の記憶を持ってるやつなんて聞いたことがねぇ。」
居ないらしい。
ラグナさんの話によれば、前世の記憶を持つ者自体はごく稀ではあるものの存在しているとの事。
実際、ラグナさんが言っていた「それなりの冒険者になれる可能性」とは、それらの事例を参考にしての事だった。
「つってもそれはあくまで、"経験値の二重取り"の事な。【捕食】と【アイテムボックス】の組み合わせなんて、頭の隅にも浮かんでなかったわ。」
経験値というのは、魔物を殺した際に得られる祝福を強化する力の事だ。
冒険者達はそう呼ぶらしい。
教会関係者はまた違う呼び方をするそうだが...今は置いておこう。
「俺としちゃ、二重取りまでなら有りだと思ってた。仮に前世が戦闘職だったとしても、今は技能職だしな。二重に経験値取ったって知れてる。」
「......。」
「けどお前のそりゃ四重取りだ。...いや、四重取りしてもその程度なら問題はねぇ。ただ、スキルを奪えるってのは、な。」
「えっと...ズルって事ですか?」
ラグナさんの口振りから、何となく非難の色を感じたのでそう口にする。
「アホか。ズルだろうが強くなれるならそれに越したことはねぇよ。」
違うのか。
「じゃあなんで無しなんです?」
「中身が追い付かねぇからだ。」
中身?
精神が成長しないうちに力を手にしてしまうと、ろくな大人にならない...とかそういう話だろうか。
「...分かってねぇみたいだな。」
「すみません。精神や人格の成長が必要っていう話なら、ラグナさんもダメだという話になるので...」
「よく分からんがバカにしてる事だけは分かる。」
痛い。
殴られた。
「よし。愚かなお前に教えてやる。本当に身に付けるべきモノが何なのかを。」
そう言うとラグナさんは歩き出した。
その方向は、第4階層に向かう方向だ。




