第13話 二重の祝福
「ちょっとラグナ!いくらなんでも限度があるでしょう!?」
「うはぁ!怒ってるリロアも可愛いな!ちゅーさせてくれ!」
「んっ...もう。」
「...ひぎぅ。」
最後の情けない声は僕だ。
ラグナさんにキスをされたリロアさんの声も色っぽかったが、僕の鳴き声も中々心を打つだろう?
今朝の話だが、リロアさんと話すラグナさんを見た時、僕は膝から崩れ落ちた。
ラグナさんは愛妻家の域を超えたナニカだったのだ。
床に蹲る僕の横で、リロアさんを抱きしめているラグナさんを見て僕は走馬灯のようにそんな事を思い出していた。
「だってコイツ才能ねぇんだもん。これぐらい鍛えなきゃ5年かけたってゴミのままだぜ?」
「言い方!...もう。両腕の骨が折れてるじゃない。」
ラグナさんによる訓練は、控え目に言って地獄だった。
冒険者ギルドの訓練場に置かれた木剣を使っての打ち込み稽古だったのだが、稽古とは名ばかりの暴行だった。
「型とか覚える前に、まずは痛みに慣れろ。」という言葉と共にひたすらボコされた。
そりゃもうボコボコに。
割と序盤で僕は大泣きしたのだが、泣いている僕を「こりゃ殴りやすくて助かる。」と言ってより激しい暴力でもって襲ってきた。
昼過ぎから始まった暴行は夕方まで続き、血反吐も出なくなった所で終了となった。
騒ぎを聞き付けたギルドマスターが割って入ってくれなかったら、今頃僕は死んでいたかもしれない。
最後の方は両腕の骨が折れていたので抵抗も出来なかったからな。
「リク君ごめんね。すぐ治すからね。...【ヒール】。」
リロアさんは床を這う僕に手をかざすと、魔法を唱えてくれる。
「ぅぎぎぃぐぁああぁぁ。」
バギバキッ!
という音を立て、僕の両腕が元の形に戻っていく。
その痛みは怪我をした時とほぼ同じ...下手をするとそれ以上のものだった。
「ほーらもう治ったからねー。よしよし。」
「うっ...ぐすん...柔らかい。」
「あ、テメェこら!リロアに抱きつくんじゃねぇ。」
背中を蹴られた。
信じられない。
僕は10歳の子供だぞ。
「それにしても...リロアさんの魔法すごいですね。あっという間に治ってしまいました。」
僕はリロアさんに頭を撫でられながらそんな感想を漏らす。
「えへへ。これでも昔は冒険者だったからねー。」
「リロアは可愛いだけじゃなく腕もいいぞ。俺らも随分と助けられたもんだ。」
ラグナさんとリロアさんは昔、パーティを組んでいたらしい。
他2名の仲間と共に数々のダンジョンに挑み、クエストをクリアし、名も売れていたようだ。
リロアさんの祝福は【白魔道士】で、【白魔法】というスキルによって回復や補助系の魔法を覚えやすくなるというものなのだそうだ。
「よし。飯食ったら個人訓練な。最初だけ指導するから、あとは1人で倒れるまで続けろ。」
「...はい。」
「返事が小さい!」
「はい!!」
そういうことになった。
確かに僕は祝福も非戦闘職だし、人並外れた訓練が必要だとは思う。
けれど初日から飛ばしすぎじゃないか?
「それと、前世の祝福を思い出したら言えよ?それによって訓練内容も変えるから。」
「分かりました。」
前世についてはぼかして伝えてある。
魔物だったと言えば良い印象を持たれないかもしれないからだ。
「ほんとに分かってるのかよ。...いいか?お前がそれなりの冒険者になれる可能性がそこに眠ってるんだぞ?」
「え?」
どういう事なのか。
前世の記憶を持っている者はごく稀に居るらしいが、それによって有利になるというのは初耳だった。
「仕方ねぇ。飯食いながら説明してやるから、とりあえず体洗ってこい。」
僕は言われるがまま、シャワーをお借りするべくリビングを後にする。
――――――――――
「...なるほど。」
ラグナさんは口調こそ荒っぽかったが、その説明はとても分かりやすかった。
曰く、前世を覚えている者は、祝福を二重に得られる可能性があるらしいのだ。
何故そんなことが出来るのかというと、そもそも祝福とは何に宿るのかという話から始めなくてはならない。
身体なのか、脳なのか、信仰心なのか...その答えは"魂"だ。
祝福は魂に宿る。
前世の記憶が残っている者は、前世の魂が残った状態で転生している。
1つの身体に前世と現世の魂が共存しているという状態らしい。
そんな事が有り得るのか...という疑問は、僕の存在自体が証明している。
僕には前世の記憶がありつつも、ミクリヤ=リクとして生きてきた記憶もある。
魂が2つある状態、と言い換えることは可能だろう。
「ただな、前世の祝福を使うには、前世の魂の存在を完璧に認知する必要があるんだ。その為にはとにかく思い出すしかねぇ。前世ではどんな祝福で、どんな事が出来たのかを。」
ふむ。
それで言うと、僕は覚えている。
僕の祝福(前世では業と呼んでいたが)は、【捕食箱】というものだった。
【捕食箱】は【捕食】というスキルを扱える祝福だ。
人間の枠組みに当て嵌めるなら技能職になるのだろうか。
魔物と人間ではまた違うのでなんとも言えないところだ。
そもそも魔物は人間と違い、種族ごとに祝福が固定されている。
稀に同種の中にも違う祝福を持つ者が現れるが...僕の場合はそんなレアケースでは無かった。
「...。」
しかしどうするか。
素直に祝福の名前を答えてしまうと、前世が魔物であったことがバレてしまうかも知れない。
...別にいいか。
現世ではちゃんと人間をやっているのだ。
恥じる事など無い。
「まぁアレだ。死の淵にでも立てば走馬灯で思い出すかもな。これから何度も死にかけると思うから安心しとけ。...よし、飯も食ったし訓練始めるぞ。」
「あ、いや。思い出しました。前世では...」
「露骨な嘘をつくんじゃねぇ。さっさと来い。」
そう言うとラグナさんはさっさと庭に出ていってしまった。
くそぅ。
早く白状しておくんだった。




