プロローグ
陽の光の届かない薄暗い地下遺跡。
光源は壁にかかる松明のみ。
それが僕の世界の全てだった。
時折訪れる人間は、僕を見付けると目を輝かせ、自ら近付いて来る。
僕はそんな彼らを本能のまま殺し、喰らい、取り込んでいった。
取り込んだ人間は僕の糧になる。
そして、その記憶の一部は僕の中に流れ込んで来て、薄暗かった僕の世界を照らしてくれた。
地上には街があり、人々の喧騒があり、夢があり、光があった。
あそこに行きたい。
何人もの人間を喰らって行く内に、いつしか僕は彼らの世界に憧れを抱いていた。
金の為に、家族の為に、名誉の為に、夢の為に...。
様々な思惑を胸に危険へと飛び込んでいくその生き様は、作業のように殺しと捕食を続ける僕にはとても眩しくて...憧れた。
あんな風に生きてみたい。
もしも来世があるのなら、人間に成りたい。
身体を鍛え、魔法を学び、魔物を殺して成長する。
本能ではなく信念の為に戦う、そんな人間に成りたい。
天上なのか地の底なのかは分からないが、僕を作った神様はそこに居る。
どうか次は、人間として生んでください。
自らの身体に突き刺さる剣を見ながら、僕はそんな願いを抱いて...
死んだ。
――――――――――――
「......夢?」
窓から差し込む陽の光で瞼を開けた。
「...じゃない。あれは、僕だ。」
小さな部屋、小さなベッド、そしてそこに横たわる小さな身体。
この身体は紛れもなく僕のもので、さっき見た光景は僕の記憶。
僕は人間で、10歳の子供で、元魔物だ。
そうだ、僕は...
魔物から人間に、転生したんだ。
お読みくださりありがとうございます。
もし興味を持っていただけたら、評価や感想などで応援して下さると有難いです。