4.寂しい
「絶対に、何か企んでいると思う」
学校にて、麻里衣は登校中の出来事を香織に話していた。昨日の話の様に、マリーが悪い子だと思えないでいるからだ。
「気をつけた方がいいよ」
その反面、神妙な面持ちでさらに釘を押す香織が、嘘をついているとも思えないでいた。
昨日のおでこを出したピンクのヘアピンの子である佐奈と他三名の女子に囲まれ、楽しそうにお喋りに華を咲かせているマリー。そんな様子を麻里衣はチラリと横目で見ると、マリーも同じく見ていたのですぐに目が合い微笑むが、それを知らない麻里衣は気まずそうに目を逸らした。
だが、初めの心配は取り越し苦労であるように、それから麻里衣の周りで何かが変わることはなかった。
マリーやその取り巻きの佐奈たちが嫌がらせなどをしてくることもなく、全くといっていい程関わることすらなかったので、一ヵ月が経とうとする頃にはクラスメイトという存在だけになっていた。
怯える気持ちはすっかり消えていて、香織や香織の友達たちと楽しい学校生活を送れている。ただそれは"麻里衣にとっては"ということだったが。
マリーはいつも取り巻きたちと楽しげに話す"フリ"をする側ら、寂しげな視線を向けていた。やっと「また逢えた」というのに仲良くすることが出来ないでいたからだ。
新たな苛めのターゲットにしようという佐奈を、なだめたはいいもののマリーが恐くて我慢してるが不満に思っているのが分かるので、自分のグループに迎え入れることも出来ない。
マリーとしては、麻里衣させいれば良いという考え持っていて、佐奈や他の取り巻きたちを失くしても良かった。
だがそういうことになった場合、麻里衣には絶対に知られたくない理由があった。
そうしているうちに他の子と仲良くなっていき、どんどんとまた遠くの存在になっていく麻里衣。
「ねえねえマリー?」
やけに嬉しそうに話しかけてきた佐奈に、気だるそうな視線だけを送る。自分の気も知らない、とはいっても分かるわけが無いが、マリーにとってはどうでもよい子のことなんて気にかけてられない、能天気な様子には返事を返そうとは思えなかったのだ。
「これ、皆でしないー?」
それはいつものことでもあったので、佐奈は特に気も留めず「交換ノート」と書かれた、ラメが沢山使われていて、アメコミみたいなキャラクターの描かれたノートを、マリーの目の前に置く、交換日記とも呼ばれるそれはクラスの女子の間で流行っていたのだ。
「私はいいわ、面倒だもの」
「やっぱりー?」
佐奈は気づかれぬ様に努めている様だが、誰が見ても嬉しそうに他の取り巻きたちのもとへ小走りで行った。
マリーはこういう類のものを嫌いだ。佐奈もそれを知っている。知らせないで始めた後が怖いので聞いただけだ。
"交換ノートね……いいかもしれないわ"
突拍子もない考えがマリーの頭の中に浮かぶ。佐奈たちの、自分がいないことで喜んでいるのはどうでも良かった。それもいつものことだからだ。今は思いついたことが嬉しくて、期待を胸に秘めていた。




