1.プロローグ「一通目」
いつも繰り返し見聞きすることでも、何故だか殆どは忘れてしまうの。
学校帰りの道にある花壇で、沢山咲いている紫色の、小さいブドウみたいな花……。一見するとラベンダーの様で違う。
春に毎年咲くのに、その存在がふと気になた時、名前を思い出せなかった。去年までは確かに覚えていたはずなのに。
そよ風が吹き、甘い香り。視線を花壇から移すと、大きな木に白い小さな花が沢山咲いていました。強い風に乗り、香りが花弁と一緒にひらりとこちらへ……やっぱり名前は分からないけれども、懐かしくて何となく切なくなる。貴女の姿が浮かび上がるからよ。
同い年だったのに、いつの間にか記憶の中の貴女は成長することを止めてしまったわ。私よりも年下になってしまったのよ。何だか変な感じね。
ごめんなさい。教えてもらった花の名前は、時間が経つにつれて忘れていってしまうの。大切な記憶のはずなのに、そんな自分が憎い。
でもね、貴女がここにいたというのは確かで、声も顔も姿も薄れることなく覚えているから、私だってここにいる、確かに存在している。だからお願い、逢いたい。また逢いたいの。
いつか、記憶の中の貴女まで消えていきそうで怖いから。
それだけは絶対にありえないことなのに、それでも恐怖してしまう。
私と同じ気持ちよね? 貴女も。
それでは、お返事を待っています。
貴女の麻里衣より。